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賢者巡礼  作者: ナハァト
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どっちが好きって困らない?

 向かう場所はもちろんラビンさんのダンジョンである。

 俺としては、水属性魔法――つまり、水のリタさんの記憶と魔力を受け継ぐつもりだ。

 この国に来てからのことを思い返すと、水属性魔法が使えればもっと楽だったな、と思うようなことが多々あった。

 ドレアとの戦いが一番のきっかけだろうか。

 風属性魔法で無理を通すようなこともしなくて良かったかもしれないし、陸地戦でもドレアを強化というか、海神の槍の能力を使用できるようにできるかもしれない。

 それは、多分このあと必要なことになると思う。

 ドレアと共に向かう場所の危険性がどれだけ高いかわからない以上、できるだけの準備が必要だ。

 そういう訳でラビンさんのダンジョンに戻るのだが、一直線には向かわずに、少しばかり遠回りというか、海の上を少し飛んでから向かう。

 何故なら、アブさんが――。


「イエアアアアアッ!」


 船の後方から風属性魔法による後押しで爆速している時の船乗りのような状態になっているからだ。

 一度勘でドレアに襲われてからずっとビクビクしていたので、その反動である。


「自由だあああああ!」


 あんなに喜びを露わにして……良かったね、と思う。

 ただ……この方向で合っている、よな?

 不安だ。


     ―――


 自由に空を飛ぶアブさんと時折談笑しつつ、先へと進んでいると――。


「ちょちょちょ! そこの兄ちゃん!」


 と、なんか声をかけられた……のだが、ここは海の上。

 海の中から巨大な影が浮上してきたが、幻聴であると無視して進み――。


「いやいや、待ってえな。そこの、なんか恐ろしげな存在感の骸骨と一緒に居る兄ちゃん!」


 周囲を窺うが、該当しそうなのが俺しかいない。

 まあ、元々俺とアブさんしか居ないが。

 それに、巨大な影は今も浮上し続けている。しかも二体。

 俺の進路を遮るようにして現れた巨大な存在は、山のように大きなタコとイカだった。

 おお……海とは、なんと神秘な。

 俺よりも大きなタコの目が、こちらに向く。

 イカの目もこちらに向いていた。


「……何、か?」


「ええところに来たわ、兄ちゃん。ワシら今喧嘩しとってな。兄ちゃんに一つ聞きたいことがあんねや」


 それはつまり、俺の意見が勝敗に関わるってことか?

 責任重大過ぎる気がする。


「兄ちゃんは……」


 ごくり。


「タコとイカ、どっちが好きや?」


「………………え? いや、そんな、どっちと言われても」


 ねえ? とアブさんと顔を見合わせる。

 アブさんも困惑しているのが見てわかった。


「ああ、決められんか。なら、聞き方を変えよか」


 今更ながら、どうやって話しているのだろう。

 頭の中に直接のような気がしないでもない。

 というか、この巨大なタコとイカって魔物なのか?


「タコとイカ、どっちが旨い?」


「………………は?」


 いやいや、待て待て。

 ご本人――いや、人ではないが、それでも目の前にして答えていいようなことではないと思うのだが……巨大なタコとイカは待ちわびているように見える。


「……どっちも美味しい、かな」


「それはわかっとる」


 わかっているのなら、答えにくいことを聞かないで欲しい。


「でもな、こっちとしては決めて欲しいんよ」


「決めて欲しいと言われても、どっちにも良さがあるというか……」


 というか、もう行ってしまいたい。

 だが、それで怒りを買うのも困る。

 俺だけならまだしも、関係ない人に向けられるのは……あっ、いっそのこと火属性魔法で一気に……いけるか?

 なんとなくだが、この手のモノはなんだかんだと生き延びそうなんだよな。

 悩んでいると、アブさんがスッと挙手する。

 まさか、答えるのか!


「某、これまでどちらも食べたことがなく、そもそもこんな体であるからして、味の判別はできない。よって、辞退しても構わないだろうか?」


「それは仕方ないな。ええよ」


 アブさんが戦線を離脱した。

 俺を見捨てた、あるいは生贄にした、と思うのは考え過ぎだろうか。

 すすっとアブさんが俺を盾にするように後方へ。

 考え過ぎではないかもしれない。


「それで、兄ちゃんはどっちが旨いと思うんや?」


「………………食べたことがないのでわからない」


 良し。これで大丈夫。

 あなたたちを食べる気はなく、また眷属の類にも手を出していませんよ、と間接的に伝わったはずだ。

 実際は……いくつも港町を巡ったからな。うんうん。

 思い出すと涎が……。


「そういうことならしゃーないな」


 そう言って、巨大なタコとイカは自身の足を一本ブチッと取る。

 あっ、危険で嫌な予感。

 取った足を空に放り投げたかと思うと、巨大なタコがその場でぐるりと反転して、口のようなモノが見えたかと思うと、そこから巨大な火炎が放射されて、足はこんがりと焼けて落ち、津波のような水飛沫を上げて海面に浮かぶ。

 巨大なタコは元の姿勢に戻り――。


「ほな、食うて確認してえな」


 ……食べる以外の選択肢は俺の中になかった。


     ―――


 結論から言えば、引き分け。

 というか、本当に決められなかった。

 どちらの足も柔らかいけど確かな弾力があって、ほのかに感じる甘みがなんとも言えずに美味い。

 強いて言うのであれば、タコ足の方は歯応えが強く、イカ足の方は甘みが強い、というのが俺の個人的な感想だ。

 そんな感想を正直に伝えると――。


「決められんのならしゃーないな。どっちも旨いってのも納得やしな。協力してくれてありがとな。ほな、またな」


 そんな不穏なことを言い残して、巨大なタコとイカは潜っていく。


「人だと滅多に会わんし、魔物にも聞くかあ」


 そんな呟きも聞こえた。

 魔物……ん? あれ、もしかして、これ……これまで他の喋る魔物と会ってきたことの流れの一環なのか?

 そうだと、本当にまた会いそうなので、深く考えないようにした。

 というか……こんがり焼けた足、置いていくなよ。


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