冗談でも本気に見える時がある
色々と話すことはあると思うのだが、時間が来てしまった。
俺とドレアの、ではなく、グラスさまの。
何しろ、「ドゥラーク海賊団」の襲撃直後なのだ。
その後処理に、まだまだ忙しいのである。
それでもグラスさまがドレアと話す時間を作ったのは、救われたからだけではなく、グラスさまにとって、ドレアはそれだけ大切な友人ということなのだろう。
ただ、その時に一つだけ気になることができた。
それは、宰相について。
竜杖で飛べることを見せたあと、下りる少しするとその宰相がグラスさまに時間だと告げに来たのだが、宰相はドレアに向けて厳しい視線を向けたのである。
敵意……いや、憎悪……いや、何か特定というよりは、そういう負の感情のようなモノが混ぜられたような視線を。
明らかに、グラスさま――この国の女王さまが友人として接している者に向ける視線でないのは確かだ。
「知り合いか?」
「……まっ。顔だけはな」
ドレアもよく思っていないようだ。
少し面倒なことになるか? と思ったが、宰相が視線を向けたのは僅かな間だけであり、グラスさまに伝え終わると直ぐに居なくなった。
ドレアが海賊だから、と言ってしまえばそれまでだが……それ以外の感情のような気もする。
それに、どこかで見たことがあるような……駄目だ。ピンとこない。
まあ、いいか。
こういうのはその場では思い出せず、時間が経ってなんでもない時に思い出すモノだ。
という訳で、いつまでもここに居る訳にはいかないので早速出発することにした。
ドレアとグラスさまが挨拶を交わす。
「それじゃ、また来る」
「未開の地のようなモノだ。無理はするなよ、ドレア」
すると、グラスさまが俺を見る。
その目は真剣そのものだ。
「協力者ということは共に行くのだろう。向かう場所がどれだけ危険かはわからない。だから、ドレアを頼む」
「ああ、わかった」
頷きながらそう返す。
「狙いの物を手にし、無事に戻ってきたのなら、今度こそ褒美としてお前の希望通り、私の体を好きに」
「勝手に俺の希望を決めないでくれ」
お願いします。本当に。
「ふっ。冗談だ」
だから、そういう冗談はそういう目で言って欲しい。
このままここに居るとうっかりで本気に取られかねないため、竜杖にドレアを乗せ、逃げるように王城から空に舞って出発した。
―――
王城を出て、王都・ポートアンカーを越えて沖まで一気に出る。
その際に見えた範囲では、もう落ち着きを取り戻しているように見えた。
「……大丈夫そうだな」
ドレアもホッと安堵している。
そうして沖まで出たのはいいが……。
「青緑の海のみんなはどこに居ると思う?」
「そんなのわかる訳ないだろ。どっかの島に居るか、それとも航海中か、探してみないことにはわからん。まあ、予測はできるが絶対ではない。いざという時は拠点に戻って待つ」
ドレアがそう答える。
まあ、そうなるよな……としか思えないが――チラッと視線をずらす。
視線の先には、俺とドレアが王城から出るのと同時に付いて来ているアブさん。
未だ半透明なのは、ドレアにその存在を明かしていないからだ。
合流してから共に行動しているから大丈夫だと思うが……海神の槍を投擲しようとしたら止めよう……止められるか?
不安なのはアブさんも一緒なのだろう。
いつもより距離を取っている。
多分、投擲されても回避できる距離……なんだと思う。
そんなアブさんは、何かを考える、あるいは探るように顎に手を当て……ある方向を指し示す。
あっちか。
「まず、あっちだ」
ドレアが指し示した方向は、アブさんと同じだった。
偶然? 確信? 勘?
アブさんも驚いている。
まあ、早く着くのならいいか、と気にせず飛んでいく。
そうして飛んでいく中、ドレアに声をかける。
「なあ、青緑の海のところにまで送り届けたあと、少し時間をもらっていいか?」
「何故だ?」
「思うところがあってな。このあとに行こうとしている場所はどれだけ危険なのかわかっていないんだろう?」
「ああ。どんなところかわかっていない。だから、どれだけ危険かもわからない。まあ、危険ではない可能性もあるが」
「それでも、準備しておけるならしておいた方がいいだろ?」
「それはそうだが……どんな準備だ?」
「まっ、それは準備できてからのお楽しみってことにしておいてくれ」
単に、新たな記憶と魔力を受け継ぎに行くだけなのだが……今はまだ言えないというか、言っても信じてくれるかどうか。
いっそのこと連れていった方が早い気もするが……風のウィンヴィさんに聞いてみようかな。
妹さんの子孫なら、会いたいかもしれないし。
「……まっ、いいだろう。こっちも色々とやることはあるし。手伝ってくれることに変わりはないのだろう?」
「ああ、もちろんだ。とりあえず、早ければ数日くらいで戻るつもりだが、遅くとも二週間はかからないと思う」
向こうで鍛えることになるかもしれないし。
「わかった。こっちもそれくらいあれば充分だ」
あとは細々とした話や談笑をしている間に、無事に青緑の海の船を見つけ、合流。
甲板にドレアを下ろしたあと、とりあえずだが今後についての話は終わっていたので、船員たちからからかわれる前に飛び上がって出発した。




