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賢者巡礼  作者: ナハァト
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隠し場所は多種多様

「……そうして、私までもがその男の毒牙によって服従することに……いや、駄目だ。そう簡単に屈服する訳にはいかない。そう簡単に屈服するよりは中々屈服しない方が好きなはずだし、何よりそう簡単だとその後が楽しめな……ゴホン。いや、なんでもない」


 俺とドレアの少し呆れた目に気付いたのか、グラスさまが流れる空気を変えるように咳払いを一つ。

 それで変わったかどうかはわからないが、少なくとももうやめることには賛成だ。

 何しろドレアの表情は真っ赤だ。

 プルプル震えているし、こういう話は苦手なのかもしれない。

 ちなみに俺は、執事見習い時代に同僚のメイドたちからもっと生々しい話をしていたのを聞いたというか聞こえていたので耐性があるというか、寧ろ、グラスさまの妄想がたくましいとさえ思っていた。

 こういうのは大抵元となるのがあるのだが……室内の片隅にある書棚。そこが怪しい。

 一見すると政に関する本ばかりのようだが……背表紙を変えている? あるいは、本のうしろに……といったいくつかある手法で隠している、とかだろうか?

 しかし、確認はしない。

 まず、ここは私室。それも海洋国・シートピアの女王さまの。

 女性の部屋を不躾に物色するなんてやってはいけない。

 それに、そんな真似をすれば間違いなく殺される。

 なので、空気を変えるというのであれば、それに従う所存である。


「とりあえず、私が凄腕であるかどうかはこの際置いておきますが、少なくともドレアの協力者であることはわかっていただければ構いません」


「敵ではない、と?」


「はい。ですが、それはここに招かれた時点で、そう判断されていると思っていましたが?」


「いや、ドレアが連れて来ただけだ」


 まあ、だろうな、と思った。

 いきなり信用しろというのは無理な話だし、ドレア基準なのは納得である。

 そんなドレアは、俺に向けて目を見開いていた。


「アルム……お前、そんな喋り方もできたんだな」


「……相手が一国の女王さまである以上、それ相応の話し方をするのは当然だと思うのだが?」


 失礼な。

 たとえ妄想たくましい女王さまであったとしても、女王さまであることに変わりはないのだ。

 接し方には注意しないと不敬と捉えられてもおかしくない。

 ……そういう事態になったら、とりあえずラビンさんのダンジョンに逃げよう。


「ああ、今そういうのは気にしなくていい。話しづらいというのもあるが、今それを認めるとドレアも気を遣ってしまうかもしれない。ドレアとは、気安い友人関係で居たいのだ」


 グラスさまからそう言われたので、頷いておく。

 まあ、俺が話す機会なんてそうないだろう。

 元々グラスさまには聞きたいことはあったが、それはドレアから聞けば済む話だ。

 それに、グラスさまも俺と話すよりドレアと話したいはず。

 置物のように大人しくしておこう。

 でないと、また何かの妄想に巻き込まれることになるかもしれない。


「それで、ドレア。此度のことだが……」


「ああ、わかっている。公表はできない、だろ」


「すまない。一応、個人的なお礼はするが……」


「気にしなくていい。私は海賊だからな。だが」


 ドレアが俺を見る。

 うん。嫌な予感。


「アルムにも何か褒美をやってくれないか? かなり協力してくれたからな」


「……なるほど。そういうことか」


 予感が当たった気がする。


「ここで言う訳だろう? 『なら、俺は褒美としてお前の体をもらう。心は……じっくりと堕としてやる』と」


 要らないし、そんなことは言いません、と首を横に振る。


「なんだと! 私の体はそんなに魅力がないと言うつもりか!」


 もうどうしたらいいのかわからない。

 助けを求めるように天井を見る。

 無理無理、とアブさんは顔を横に振った。

 この場に俺の味方は居ないようだ。


「まあ、冗談はさておき。褒美については何か考えておこう。今はまだ『ドゥラーク海賊団』の影響で騒がしいからな。一応知らせは出したが、海の方ではまだ戦っているだろうし、それらが落ち着いてからだな」


 その判断は素晴らしいが、冗談という部分には疑問が残る。

 少なくとも、俺に向けていた目は本気だった。

 本気でそう言ってくると思っていて、本気で言っていたように見える。

 蒸し返す気は一切ないので追及はしないが。


「それで、ドレアはこれからどうするつもりだ? しばらくは王都に居るのか?」


「いや、もう戻る。船の方を置き去りにしてここまで来たからな。問題ないとは思うが、早めに戻っておくに越したことはない」


「置き去り? どういうことだ? そういえば、どうやってここまで来た? 『ドゥラーク海賊団』の動きを読んで、『青緑の海(エメラルドオーシャン)』ごと来たのではないのか?」


「いいや、違う」


 ドレアが俺を見る。


「空を飛んで、だ」


「そっ! ……真実か?」


 ドレアの視線を追って、グラスさまが俺を見てきた。

 ……仕方ない。と竜杖に乗って浮いてみせる。


「お、おお……」


 少し驚くグラスさま。

 まあ、普通はできないことなので、驚くのも無理はない。

 もっと驚いてくれてもいいのだが? と思っていると、グラスがハッ! と何かに気付いて、ドレアを見る。


「なるほど。だから、協力者か。行くつもりだな?」


「もうあそこしか当てがないからな。空からなら侵入できる。なら、行くしかない」


 どうやら、空からでないと行けないような、そんな場所に行くらしい。

 ドレアの目的を考えると……海神の船がある場所だろうか。


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