それはわかるけどわからないってない?
フォーマンス王国の騎士団所属の特殊部隊の一つ「ゴブリン」の行く手を遮ったか、もしくは全滅させてしまったようだが、俺が接触をした、追われている方はとまる気がなく、そのまま進んでいた。
いや、うしろ、すごいことになっていますよ?
まあ、俺がやったんですが。
素直な反応をしているのは、話しかけていた戦士職だと思われる男性。
「……」
口をあんぐりと開けて、呆然と炎の檻……ではなく、壁を眺めている。
馬が素直に走ってくれているが、きちんと前方確認はした方がいいと思うが。
「……」
二台ある馬車の後方にある馬車からも、先ほどまでは「ゴブリン」に向けて矢や魔法を飛ばしていたのだが、今はやんでいる。
多分、同じような反応をしているのだろう。
「おい! どうした! なんかあったのか!」
対して、御者台に座る斥候職だと思われる男性は、反応が返ってこなくなったことを気にしてか、声を荒げている。
後方確認がしたくても、馬車本体によって見えないのだ。
なので、状況がわからないようだし……伝えた方がいいだろうか?
仲間外れ、良くない。
そうしようかな、と思っていると、戦士職だと思われる男性が我に返ったのか、俺を見てくる。
状況的に炎の檻――壁を出したのは俺だとわかるし、そもそも詠唱していたので確定しているようなモノだ。
「……辺境伯の秘蔵っ子か?」
ん? 何故に辺境伯? と不思議に思っていると、俺の反応で違うとわかったのか、別の質問をしてくる。
「……味方、でいいんだよな?」
「さあ? 今のところは成り行きでしかないし、そっちがどういう一団なのか知らないし」
場合によっては、敵では?
今はなんとも言えない。
「それもそうか……わかった。今はこのまま付いてきてくれないか? あんたみたいな凄腕の魔法使いが一緒に居てくれるのなら助かる。それに、今は詳しく言えないが、『ゴブリン』の隠語を知っているのなら、味方になってくれるだろうし、こちらも味方になれると思う」
……どうしたものか。
関わったのは、本当に話を聞くためだけだし、早く母さんを助けたい気持ちはある。
けれど、何か本能のような部分で、手助けした方がいいと囁かれている気がする。
「あとはまあ、助けてもらったのは事実だし、その礼くらいはしたいからな」
どうだ? と尋ねてきた。
そこで俺はさらに考える。
今の俺は無一文だし、よくよく考えれば身元保証の類いも持っていない。
あの跡継ぎのお付きというだけで国外に出たし、あったとしても今頃処分されていそうだ。
そうなると町に入るのも面倒な手続きが必要だが、この一団と共に入れれば、そこら辺は気にしなくてもいいかもしれない。
辺境伯という言葉から、何かしらの特別措置が働いているのは間違いないだろうし。
それに、辺境伯を見かけたことはないが、この腐った国の貴族の中で、まともだと言われている貴族の一人でもある。
………………まあ、いいか。
辺境伯が関わっているのなら、向かう先は辺境都市だろうし、入ってしまえばこちらのモノだ。
そこから別行動になったとしても、そこで身元保証と金が手に入れば充分である。
「……護衛として、多少なりとも金を払ってくれるのなら構わない」
数日の宿代くらいは出るよな?
それくらいは欲しいし、もちろん、多ければ多いほどいい。
「よし、決まり! といっても、正式に決めるのはあちらさんだが、ちょっと待ってろ」
戦士職だと思われる男性が、前の馬車に話を通しに行く。
ほどなくして、特に揉めた様子もなく、話は通った。
強い魔法使いなら大歓迎だそうだ。
そして、前の馬車に乗っている人物は顔すら拝めなかったが、御者をしているのが老齢の執事だったので、もしかすると貴族かもしれない。
嫌な貴族でなければいいが。
その代わりという訳ではないが、いつまでも飛び続けると魔力消費が続くので、途中でうしろの馬車に乗せてもらい、そこに居た人たちとは少しばかり交流した。
俺の名を教え、とりあえず「通りすがりの凄腕魔法使い」と名乗っておく。
対する相手は、冒険者パーティ「新緑の大樹」。ランクは「B」。
剣、斧と盾が得意な戦士で、赤い短髪の男性――リューン。
器用でなんでもござれな斥候で、濃い緑髪の男性――ロロン。
水と風属性魔法を使える魔法使いで、水色の長髪が似合う美人女性――リディ。
弓が得意なエルフで、流れる金髪と非常に整った顔立ちの超美人女性――ベルデ。
見た目は全員二十代前半くらいで若い。
俺の方が若いけど。
けれど、ランク「B」ともなれば、まず普通は到達できないランクと言われている。
冒険者は「S」を頂点として、「A」から「F」と順に下がっていくランクで分けられていて、その大半が「C」ランクで留まり、様々な理由でそのまま終わっているのだ。
そこを突き抜けたのが「B」ランク以上であり、優秀の証明である。
そんなランクが絡んでいるとなると……普通では達成不可能な案件だということ。
厄介な……危険な臭いがする。
……まあ、一度言ってみたかっただけで、実際はそんな臭いは一切していないが。
そもそも危険な臭いとは一体……と、答えが出ないまま、気付けば目的地だと思われる辺境都市に辿り着いた。




