実はまだマシだったというのはある
敵船長――「ドゥラーク海賊団」の船長を倒した。
さすがに船長がやられた衝撃は大きかったのか、倒れた敵船長を見た海賊たちの戦意はみるみる内に低下していき、逆に勢い付いた騎士たちが次々と倒していき、ダンスホールでの戦いはあっという間に決着がつく。
海賊たちの中には自ら投降する者も居たくらいだ。
ただ、その結果――ダンスホールの床は爆発で砕けていたり、火炎球の灼熱で溶解している部分が多数にあって、風の刃による切り傷、あるいは光線による貫通跡も目立つ。
綺麗な彫刻が施されていた柱は砕け、そこらに残骸となって転がり、最早元の形がなんだったのか、どのような彫刻であったかを思い出すのは難しい。
ダンスホールの壁……は、もうあってないようなモノだ。
いや、あるにはある。
ただし、それは大爆発したところの反対側にあるというだけで、比較的爆心地に近かったところの壁はもうない。
そこに、これはそうだと何故かハッキリとわかる潮風を遮るモノはなく、今は新しい場所だと次々と入ってきている。
何しろ、元々ここは三階分の吹き抜けだ。
つまり三階分の壁がない。
いや、上部に少しだけ残っているが……一度崩した方が修繕は早いといった感じである。
それで終わりではない。
今見えているのは外と繋がっていた窓枠部分だ。
だからこそ、その先にキラキラと輝く綺麗な海原が風景として広がっている。
けれど、壁というのは何も内と外を隔てるモノだけではない。
内の中を隔てる場合にも使われるのだが……今はちょっとその跡しかない。
ダンスホールの壁――俺とドレアが入ってきた方の壁はほぼ崩れ、通路が剥き出し……では終わらず、さらに奥のいくつかの部屋の中まで丸見え状態となっていた。
相当な物量を放ったし、偶発的な何かでいくつかそっちの方に飛んでいったのかもしれない。
いや、敵船長が抵抗していたようだし、それで――だろうか。
とりあえず、確かなこととして、見えている風景としては……半壊? いや、全壊に近い、九部壊くらいだろうか。
なんというか、室内で強い魔法を連続で使うとこうなるのだな、というのがよくわかった。
あと、天井付近にアブさんの姿を見かける。
破壊状況を見て、アブさんが、うわあ~……という雰囲気を醸し出していた。
「そこまでの損害ではないな」
こちらに来たドレアがそう言う。
「そうか?」
「ああ、寧ろアルムにしては大人しい方だと思うが?」
「そうか?」
個人的にはかなり破壊してしまったという印象なのだが。
それに、複数が相手でこうなったのならまだしも、特定の一人に対しての行動でこうなったのだ。
しかも、それで倒し切ることができなかったという……いや、言わせてもらうなら、確かに多少威力は強めた。
怖かったし。
けれど、今回は威力を気持ち強めにしただけであって、まだ制御できる状態での物量だったのだ。
制御を手放した上での物量だと……間違いなくこの程度では済まない。
多分、その一発で今の状態とかになりそうなんだが……大人しい?
相対的に見れば確かに大人しいと言えなくもないが……。
「……そうか?」
やっぱり大人しいとは思えない。
「そうだ。何しろ、下手をすればあの超巨大弩級大嵐がここで発生してもおかしくなかったからな。そうなったら王都壊滅だ。それを考えればまだマシな方だと思わないか?」
「まあ……確かに」
そうか。ドレアの中で基準になっているのは、あの時の大嵐か。
確かに、あれならドレアの言っていたことも頷ける。
「いや、少し待て! 王都壊滅とかどういうことだ? そんな威力の魔法を放てるのか、そいつは? この状況ですら、修繕するのにどれだけの期間がかかることかと頭を悩ませたというのに」
女王さまがご立腹である。
しかし、やってもいいと言ったのは女王さまだ。
ドレアがそう許可を取っていた。
なので、ドレアに視線を向けると、ドレアは肩をすくめていた。
「それぐらい、いいだろ。グラス。助かったんだから」
「それは否定しない。しかし、それとこれとは別問題であるし、何より修繕費が……それに、まだ終わっていない」
「ああ。確かに終わっていないな」
女王さまが未だに海賊が侵入して来ようとしている大きな扉を指し示し、ドレアも同意を示す。
ちなみに、反対側はもう扉というか壁自体ない。
「残党狩りもついでにしていくか」
酷薄な笑みを浮かべ、やる気を見せるドレア。
そこで俺は気になることを尋ねる。
「というか、まだ聞いていないのだが、二人はどういう関係なんだ?」
ドレアと女王さまを指し示す。
知り合いというのはわかるのだが、もっと親密な関係のように見える。
「あとで説明してやる。今は残党退治だ」
「そうだな。何をするにしても、まずは海賊という脅威を排除する」
ドレアだけではなく女王さまもやる気のようなので、俺もそれに付き合う。
侵入して来ようとしていた海賊たちに関しては、タイミングを見計らって開けてもらい、同時に俺が風属性魔法を放ってほぼ一掃。
ドレアと共にそのまま王城内を回って「ドゥラーク海賊団」の残党を倒していき、女王さまだけではなく騎士たちも各方面を回って倒していく。
どうやら、元々王都・ポートアンカーに乗り込んできた「ドゥラーク海賊団」の主力部分は王城に居たのがそうだったようで、あとは雑兵といった強さと数でしかなく、それほど時間がかからずにこの一連の出来事は終息した。




