誤解は直ぐ解いた方がいいと思う
………………。
………………。
「あの……」
「ああ、少し待て」
そう言って、拳を強く握り、上から打ち下ろす。
「へぶっ!」
食らったキザっぽい男性は膝から崩れ落ちるが、最後の力を振り絞るように目の前の相手――女王さまを見る。
「た、倒れる時は前のめりだ……何故なら、その先に桃源郷があるのだから」
そうして前のめりに倒れるキザっぽい男性の顔、女王さまが膝蹴りを食らわし、そのまま重心を下げながら前に出て、キザっぽい男性の顎に下から打ち上げる。
キザっぽい男性は宙を舞い、誰にも助けられることなく床に落ちた。
普通に痛そう……というか、既に意識はない。
「……ふん。この女の敵が」
倒れたキザっぽい男性を見る女王さまの表情には嫌悪感が表れていた。
その表情を、そのまま俺に向けてくる。
「それで、貴様も同じ目的だとか?」
女王さまがレイピアと手斧を持ち、構える。
「いいえ、誤解です」
思わず丁寧な言葉遣いになってしまうのは、それだけ女王さまに迫力がある……いや、正直に言えば怖い。
ボロ雑巾になったキザっぽい男性を見た影響もある。
いや、このままでは駄目だ。
こういう時こそ普段通りに。
それが俺の言葉と態度に信憑性を持たせて、味方だとわかってくれる……はず。
「そんな目的はない。一切。さっきも言ったが、通りすがりの凄腕魔法使いで、ドレアの協力者だ。それと冒険者でもあるから、ハーフェーン商会からも今回の戦いに参加して欲しいと直に依頼されて、それを受けた」
簡潔に事情を伝える。
女王さまは俺の言葉を受け、周囲の状況を確認して……構えを解く。
「いいだろう。今は信じてやろう。しかし、もしそれが虚実であれば……潰す」
今、俺の下半身辺りを見て潰すって言わなかったか?
いやいや、待て待て。
女王さまがはしたないとかそういうことを言う前に、何を潰すつもりなのかハッキリして欲しい。
いや、それも問題か。
さすがに女王さまが口にする訳にはいかない部分……という可能性もある。
もちろん、それ以外の可能性もあるが……そっちではないだろうな。
ただ、奇しくもと言うべきか、口にしたことでお互いに気付く。
「「ドレア!」」
キザっぽい男性を倒す前に見た限りでは、派手な衣服の男性とやり合っていて、互角のような戦いを繰り広げていた。
それは今も変わらないようで、一進一退の攻防が続いているようだ。
ついでに会話もしているようで、近付くだけで聞こえてくる。
「いつまでも私の付けた傷を気にしているとは、近海最大勢力なんて言われている『ドゥラーク海賊団』の船長という割には小さいヤツだな!」
ドレアが勢い良くそう言う。
なるほど。あの派手な衣服の男性が、『ドゥラーク海賊団』の船長なのか。
となると、先ほど倒した――女王さまが倒したにしたのは副船長といったところだろうか。
大幹部と似たような系統だし、間違いない。
……あれ? なんか敵船長に関して何か気になることがあったような………………駄目だ。思い出せない。
まあ、倒してしまえばいいだけだと、ドレアと敵船長が戦っている場に女王さまと共に向かう。
その間もドレアと敵船長の会話は聞こえてくる。
「はあ? 怒りや恨みを忘れるような大雑把でないからこそ、俺の海賊団は近海最大勢力なんだよ! たとえ小さな傷でも付けられたら、時間がかかろうとも必ずやり返す! それが恐怖を与えるんだ! ドレア! お前もいつかやろうと思っていた! それこそ、俺がこの国を落としたあとにでもな!」
「はっ! 小さいだけでなく、起きているのに叶わない夢まで見るようになっていたとはな! お前の目をやるんじゃなかったかもな! そのせいで現実が見えなくなってしまったんだろ!」
「いいや、現実はしっかりと見えているさ! 強がっているのが見え透いているぞ、ドレア! お前もわかっているはずだ! 水のない陸地では、お前の戦力は大幅に下がっていることがな!」
派手な衣服の男性が一気に猛撃する。
流れるような連続攻撃によって、ドレアは防戦一方。
反撃の糸口は掴めないようだ。
確かに、ドレアの戦力が大幅に下がっている……というよりは、本領発揮できない場所なのは間違いない。
それでも問題はない。
敵船長を倒すのに戦力が足りないのなら、足せばいいだけだ。
充分に近付いた、と判断して魔法を放とうとしたが、その前に女王さまが飛び出す。
「やらせない!」
ドレアに対して猛撃していた敵船長は、突っ込んできた女王さまの乱撃をすべて宝飾の剣で受け切り、そこにドレアが海神の槍を薙ぎ払うが、後方に跳躍して回避する。
敵船長。本当に強いかもしれない。
それでも倒すことに変わりはないと、ドレアと合流する。
「悪い。待たせたか?」
「いや、助かった。あいつ、実力だけは本当にあるからな」
俺は竜杖を構え、ドレアが海神の槍を構える。
そこに女王さまも合流し、少しだけ驚いた表情を浮かべたあと、レイピアと手斧を構えた。
……本当に味方だったのか、とか思っていそう。多分。
「ちっ。やれやれ。女王は任せてみたが駄目だったか。なら、俺が纏めて殺し……」
敵船長が女王さま、ドレアと見て、最後に俺を見て……動きがとまったかと思えば、満面の笑みを浮かべた。
瞬間――ゾワワッと背中に極大の強い悪寒が走る。
思わず一歩分後退した。




