勝手に仲間に加えないで欲しい
女王さまとキザっぽい男性の戦いはまだ続いていた。
手甲と脚甲を装備した格闘家らしきキザっぽい男性は、女王さまが繰り出すレイピアと手斧による乱撃を上手く捌いていて、余裕の笑みすら浮かべている。
何しろ、防戦一方という訳ではなく、時折反撃から始まる連撃で女王さまが防戦に回っているのだ。
まるで遊ばれているように感じているのだろう。
女王さまの表情には少なからず怒りと苛立ちが垣間見える。
それでも繰り出す攻撃が単調になっていないのは、まだ冷静な部分が大きいということだと思う。
実際、女王さまはこの状況でも怒りに身を任せないだけの強さを持っている。
そこらの騎士より強いと思う。
それでも相手を倒せないのは、それだけキザっぽい男性が強い、ということだろう。
……嫌だな。
正直、そこらの海賊ならまだしも、キザっぽい男性の相手をしたくない。
状況的に手助けをした方がいいのはわかる。
しかし、それでも……なのだ。
というのも、それだけ強いとなると、間違いなく敵海賊団の幹部――あるいはそれ以上の存在である可能性が高い。
そこで思い出されるのがドレアとの会話。
大幹部より上に副船長と船長が居るということであり、キザっぽい男性はそのどちらかである可能性が高い。
脳裏に思い起こされるのは、大幹部二人。
……頼むから、あれらと同類でないことを願いつつ、女王さまの戦いに割って入る。
「そこまでだ! 大勢は決した! 周囲をよく見てみろ!」
俺がそう声をかけると、女王さまとキザっぽい男性が距離を取って周囲を確認。
海賊たちの大半がやられ、今やこのダンスホール内の状況は騎士たちの方に大きく傾いている。
未だ海賊たちは抵抗しているので完全に勝敗が決するのはまだ先だが、それでも時間の問題なのは間違いない。
勝利が近付いたことで、女王さまはホッと安堵する。
「なるほど。……たく。だらしないな。俺が楽しむ時間も稼げないのか」
キザっぽい男性が悪態を吐く。
そのまま視線を俺――ではなく、女王さまに。
「だが、ここまで来れば関係ない。せっかくここまでしたんだ。俺は俺の目的を叶えるまで!」
「ふう……目的。私の命か?」
一息吐いた女王さまが、問いながらレイピアと手斧を身構える。
キザっぽい男性は笑みを浮かべた。
なんというか、その笑みはねちっこい。
というか、待って。いや、待とう。
あれ? また俺の存在が見えていない?
いや、先ほど声に反応したからそんなことはないはず。
しかし、また状況の外側に追いやられたような……とりあえず、このままだと援護もままならないので――。
「『緑吹 振るわれるが目に見えず あらゆるモノを断ずる 鋭き一閃 風刃』」
風の刃を放つが、キザっぽい男性は身のこなしだけで回避した。
普通の海賊にはできなかったことなので、やはり強い。
そこで漸くキザっぽい男性が俺を見るが、その間に俺は女王さまの下へ。
「何者だ?」
女王さまからレイピアの尖端を向けられる。
こういう尖端って人によっては恐怖の対象になるのだが……少し怖い。
見ていられないというか……それに、戦闘中ということも相まって、女王さまから殺気というか圧が発しているので余計に怖い。
手斧の方にしてくれないだろうか?
……いや、それはそれで怖い。
「通りすがりの凄腕魔法使い……ではわからないだろうから、ドレアの協力者だ」
「ドレアの?」
ぴくり、と女王さまが反応するが、虚偽かもしれないと疑いの眼差しを向けられる。
さすが女王さま。眼光が鋭いというか、増した迫力が怖い。
どうすれば信じてもらえるだろうかと考えていると、キザっぽい男性が先に口を開く。
「邪魔をしないでもらえるか? 俺の狙いは女王陛下。船長と違って男に興味はない」
「え? なんだって? 船長が」
「わからないか? いや、あれか? もしかして、お前も俺と同じ目的か? そのために女王陛下に近付いたのか!」
まるで謎を暴いたかのように、キザっぽい男性が俺に言ってくる。
女王さまの俺を見る目がさらにきつく強くなり、少し俺から距離を取った。
要らぬ誤解を受けている気がする。
「そんな訳あるか! そもそも、お前の目的すら知らないというのに」
「知らぬなら教えてやろう! 俺は貴族の女が好きだ! それもだらしない貴族の女がな!」
「「……え?」」
俺と女王さまの反応が被った。
キザっぽい男性はこちらの反応を気にすることなく話し続ける。
「見目麗しい貴族の女。その美に金をかけるのは当然。だが、普段から贅沢をしていれば、一度でも気を抜くとたちまち体に現れる。そう。俺はぷにっとした貴族の女が好きだ! コルセットの奥に隠したぷにっとしたお腹を愛でたいのだ!」
「「……は?」」
「女王陛下など、それこそ贅沢三昧だろう? なら、隠しているはずだ。その服の下に、ぷにっとしたお腹を!」
キザっぽい男性がビシッと指差す。
それがどこかは考えない。
視線を向けてもいけない。
何故なら、女王さまが居る方向からもの凄い殺気を感じるからだ。
冷静でいられるのは、先に大幹部たちと会っていたからだろう。
嫌な耐性ができたと思う。
だからこそ気付く。
女王さまからの殺気が、僅かながら俺にも向けられていることを。
キザっぽい男性のせいで、同じ目的で近付いたと思われているようだ。
心外である。
「いや、それはさすがに暴論だろ」
「いいや、間違いないね!」
再度、キザっぽい男性が女王さまのどこかを指差す。
それをやめろ。
このままだと女王さまが暴走しそうなので、先手を打つ。
ついでに言えば、キザっぽい男性は女王さまのどこかに注目しているので今が好機である。
「『白輝 天から隠れることはできず 悪逆に対して 裁きを下す光柱 断罪光』」
「ぎゃあああああ!」
裁きの光を与えてみたが、どうだろうか?
叫びは聞こえてきたが………………いや、駄目だ。
「はあ……はあ……『ぷにぷにぷにぷに』という真名の下、負ける訳には……」
相当なダメージを負わせることはできたようだが、意識は残している。
しぶとい。というか、なんだその名は。
とりあえず、もう一度、今度はもっと強く――と思ったところで、女王さまが飛び出す。
キザっぽい男性は対応しようとするが、ダメージを負って無理。
「貴様は……ただでは死なさんぞ!」
女王さまはレイピアと手斧を使わず、固く強く握った拳による殴打を連発。
……そっと目を逸らした。
とりあえず、キザっぽい男性と同じ目的で来た訳ではないと、あとできちんと誤解を解いておこう。




