誰にだってコレというこだわりがある
「ドゥラーク海賊団」の大幹部――「クッコロスキー」と「メイドグルイ」を倒した。
性格はアレだが、敵の戦力を大幅に削った……と思いたい。
大幹部だし、それだけの強さは有しているはず。
だが、数の上では大幹部といっても二人でしかないし……やっぱり削ったというのは少し違うかもしれない。
それでも「ドゥラーク海賊団」の数を減らしたことに変わりはないと考えて、捜索を進める。
二階部分をかなり見て回ったが、「ドゥラーク海賊団」と思われる海賊を何人か倒しただけで、あとはこれといった発見はない。
時間をかけると間に合わなくなる可能性もあるので、もう一階に下りた方がいいかもしれないとドレアと相談していた時、戦闘音が聞こえてきた。
ドレアと頷き合い、一気に駆ける。
曲がり角を曲がった先で、戦闘しているのが見え、た?
いや、戦闘はしている。
それは間違いない。
しかし、戦っているのが騎士や兵士といった戦闘職ではない。
もちろん、メイドでもない。
戦っているのは……白い衣服を見に纏い、頭にコック帽を被っている女性料理人たち。
相手は当然海賊だが、一人のようだ。
いくら戦闘職でないとはいえ、複数人を相手にして優勢に戦っている。
「ちっ。当然あいつも居るか」
「知っているのか?」
「『ドゥラーク海賊団』大幹部の――ギョウという名のヤツだ!」
ドレアが一気に飛び出す。
「どけ! 私が相手をする! お前たちは下がれ!」
いつまでも女性料理人たちに戦わせる訳にはいかない、ということだろう。
ドレアの言葉が合図となったのか、女性料理人たちは下がり、ドレアが追い抜いて大幹部とやり合い始める。
「大丈夫か? 俺のう――」
しろに、と言う前に、女性料理人たちは俺を盾とするように後ろへ。
まあ、いいけど……盾としてはそこまで大したモノではない、ということをわかっているのだろうか?
少なくとも、身体だけならまだ貧弱の部類である。
それでもこちらに来たら魔法を唱えられるように魔力を体に漲らせ、ドレアの戦いの様子を窺う。
大幹部だという海賊は、茶髪の男性で、確か曲刀と呼ばれる剣を使用している。
あと、体捌きが上手く、ドレアの振るう海神の槍を危なげなく避けていた。
「……ったく! お前がここに居るなんて計算外過ぎる!」
「はっ! つまり、お前らの終わりって意味だな!」
「それはどうかな! わざわざ殺されに来たってことだろ! だから、ここをお前の墓標にしてやるよ!」
やり合い始めるドレアと茶髪の海賊。
その戦闘は段々と激しくなっていき、壁や床、天井にまで戦闘痕が多く刻まれていく。
「もう少し下がった方がいいな」
そう判断して、女性料理人たちと共に下がろうとして……気付く。
「……あれ? 無傷?」
女性料理人たちは誰も傷付いていなかった。
茶髪の海賊と結構激しい戦闘を行っていたと思っていたのだが……。
その代わりという訳では……いや、多分、訳なのだが、無傷とわかったのは、衣服がところどころ斬り落とされているのである。
全体までは及んでいないが、腕部分や足部分。背中部分も。
だからこそ、際立つモノがあった。
それは、エプロン。
エプロンだけは、一切斬られていない。
「お前、気付いたようだな。いや、気付いたということは、同類だな?」
茶髪の海賊がドレアとやり合いながら、仲間を見るような目で俺を見てくる。
女性料理人たちが俺から距離を取ろうとしているように見えたため、即座に反論した。
「いや、意味がわからないことを言うな。というか、勝手に同類にするな」
「いいや、わかっているはずだ!」
いいや、わかっていない。
そう返す前に、茶髪の海賊はドレアから一旦距離を取り、宣言するように両腕を広げる。
「俺は女性の裸が好きだ!」
直球である。
ドレアと女性料理人の表情は見えないが、多分嫌悪感丸出しな気がする。
前方と背中から感じる圧が怖い。
しかし、茶髪の海賊は動じない。
「いつまでも眺めていたいモノ……女性の裸は『美』だ。だからこそ、女性は常に裸で居て欲しいと、俺は常々思っている。そうすれば、目に優しく、気分も高まるからな」
とりあえず、もう口を閉じた方がいい気がする。
圧というか、殺意が垂れ流しだ。
「そんな俺だが……唯一、裸の女性に身に付けて欲しいモノがある。そう……『エプロン』だ。夢見ているはずだ……男なら誰だって……そう……朝起きて最初に見る女性の姿が裸にエプロン。仕事から家に帰って最初に見る女性の姿が裸エプロン。前は隠れている。しかあし、後ろは丸見え。グッとくるだろう。そして、裸エプロンの女性と共に食事をし、そのあとに『デザートはわ・た・し』と、エプロンをたくし上げ……いただきます! 俺は、そんな生活をお」
「『緑吹 振り下ろされる力 あらゆる動きを封ずる 不可視の槌 超重気圧』」
茶髪の海賊の頭上から、空気の壁とでも言える圧力による巨大な槌が振り下ろされる。
まともに食らい、茶髪の海賊は床にめり込むように倒れた。
「ぐわあああ! な、なんだいきなり!」
さすがは大幹部と言うべきか、気を失うようなことはなく、話す力もあるようだ。
しかし、圧力はかけ続けているので、口以外は動かせないようである。
「うおおおおおっ! 諦めない! 俺は諦めないぞ! 『ゼッケイ・ハダカエプロン』という真名の下、裸エプロンの女を」
「黙れ! そのまま続けていろ! アルム!」
ドレアが飛び出し、茶髪の海賊に向けて海神の槍を面で叩き付けた。
それで茶髪の海賊は身動きが取れないと理解したのか、女性料理人たちも加わって制裁が始まる。
俺は言われた通りに圧力をかけ続けた。
―――
制裁の途中で騎士たちが姿を見せたので、あとのことは任せることにする。
情報を聞き出す必要はあるが……見た感じ、再起不能だ。
まあ、どうにかするだろう。
騎士たちに丸投げして、俺とドレアは捜索を続ける。




