こういう風に進んでも良くない?
すみません。色々やっている内にこんな時間に……。
申し訳ない。
次回からはいつもの時間に投稿するように気をつけます。
「身を低くしていろよ!」
ドレアがそう言ってきて、何をするのか直ぐにわかった。
言われた通り身を低く――竜杖にしがみつくような姿勢で真っ直ぐに突っ込んでいく。
「おら! おら! おら!」
ドレアが海神の槍を振り回し始める。
普通の槍であっても異様な光景というか、近寄り難いというのに、それが海神の槍であり、振り回す速度に関してもそこらの剣士が剣を振る速度よりも速い。
最早一種の台風だ。
竜杖の速度も相まって、海賊たちが後方から迫る俺たちに気付く前に海神の槍によって斬り飛ばされていく。
中には咄嗟に防ぐのも居たが、勢いが付いた海神の槍を受けて押さえられる訳もなく、結局変わらずに斬り飛ばされていた。
「なんだ! なんだ! なんだ!」
「うわあああ! ど、どけ! 早くどけよ!」
「がっはあ!」
海賊たちが突然の乱入に混乱し出して逃げようとする――が、元々そう広い場所ではなく、門に向かっていたため密集しているのだ。
それなりに被害を与えたあと、もちろん騎士たちの方には一切手を出さずに、そのままその上を飛んで門を越える。
「な、なんだ!」
「うわっ! 空から!」
「敵か!」
俺たちの登場に混乱しているのは騎士たちの方もだが、できれば目の前の海賊に集中して欲しい。
ただ、念のため。
「敵ではない! 海賊を倒すための助力に来た、ただの通りすがりの凄腕魔法使い……とその友人だ!」
これで良し。
「おい、なんだ今の紹介の仕方は?」
と思ったが、ドレアから苦情が入った。
「他に何かいいのがあるのか? 少なくとも、海賊と戦っているんだから海賊とは名乗れないぞ」
「………………まあ、言ってしまったのなら仕方ない。今更訂正してもな」
納得してもらえたようで何よりである。
「だが、これはどこに向かっている? 城の入口はあそこだぞ」
ドレアが不思議そうに言って、門から続く道の先にある王城の大扉を指し示す――が、俺は竜杖を上昇させていた。
「それは見ればわかる。下降したのは、門で戦っている騎士側が危ないと思ったから助太刀に入っただけで、本来は上から入るつもりだったんだよ。何しろ、こっちは空を飛んでいるからな。どこから入ろうが自由だ。それに」
「王の城だからな。当然、私室や謁見の間も上にある。まずはグラスの安全を確保するのは私も賛成だ」
反対意見が出なくて何より。
三階建ての大きな王城。その三階にバルコニーがあったので、そこに下りて中に入る。
―――
さすがに王城内部で飛ぶのは逆に動きが悪くなるので下りる。
ただ……どうしよう。
「……こっちだ」
ドレアが頭を振って、行く道を指し示す。
「わかるのか?」
「来たことがあるからな」
まあ、元王家の家系であるし、現王家ともなんらかの関わりがあるのかもしれない。
それで何度か訪れたことがある、といったところか。
とりあえず、行く先がわかるのなら問題ないとドレアに付いていく。
ドレアの案内で向かった先――私室と思われる部屋、執務室と思われる部屋、それと謁見の間と順に巡っていったが、そこには誰の姿もなかった。
「これは……もう逃げ出したあとか」
「まだ戦闘音は聞こえてくる。その途中といったところだろうな。グラスであれば戦えない者たちを逃がすために率先して戦っているかもしれない。あいつはそういう女だ」
そういう女って……ただ、そうなってくると――。
「上から入ったのは失敗だったか?」
「いや、そうでもない。下手をすれば一度三階に行ってから探しに戻るといった手間があった。私もグラスは三階に居ると思っていたから、この場合は私の予想以上にグラスたちの行動が速かった、といったところだろう」
「そうか。なら、急いだ方がいいな」
ドレアが頷き、行動を開始する。
そして、三階と二階を繋ぐ大階段の踊り場。
そこで騎士三人が海賊の一人とやり合っていた。
「あれは?」
「見たことある顔だ。確か、『ドゥラーク海賊団』の大幹部の一人だ」
海賊は青い髪の男性で、そこらの剣士よりもよっぽど腕のいい剣技を持っているようで、騎士三人を相手に互角に渡り合っている。
「――と、見ているだけにはいかないな」
「当たり前だ! アレは敵だ!」
ドレアの意気込みが急に強くなった。
怒りが溢れていると言ってもいい。
海神の槍を構え、ドレアが跳躍して青い髪の海賊に向けて振り下ろす。
「死ねえええええ!」
言葉が直球だし、それだと不意討ちはできない。
それだけの強い感情が溢れていたのだが、やはり事前に察知されて青い髪の海賊は容易に避ける。
「おっと! おっ! これは誰かと思えばドレアか。お前もここに居るとは……『青緑の海』総出か? それならそれで楽しみなんだが!」
「お前と会話するつもりはない! さっさと死ね!」
ドレアの振るう海神の槍を、青い髪の海賊は剣で上手くいなす。
青い髪の海賊が強いというのもあるが、ドレアの動きが単調過ぎる。
頭に血が上り過ぎているのだ。
突然の乱入に騎士三人も戸惑っているので、俺はそっちに声をかける。
「大丈夫! こっちは味方だ! ハーフェーン商会からの依頼で動いている!」
依頼された内容とは少し違うが、それは言わなければわからないだろうし、オセアンさんならわかってくれるだろう。
あの人はドレアさんの味方だろうし。
騎士三人は一応警戒したままだが、ハーフェーン商会という言葉が効いたのか、こちらを襲ってくるようなことはしなかった。
まあ、先ほどまで戦っていた青い髪の海賊がまだ居るし。
と、ある程度近付いたところで気付く。
騎士三人……全員女性だ。
すると、青い髪の海賊が俺に向かって怒りを露わにして叫ぶ。
「貴様あ! その三人は私の獲物だ! 手出しはさせんぞ!」
いや、手を出しているのはお前の方だ。
というか、意味がわからない。
なんで今俺は怒られた?
疑問に思っていると、女性騎士三人が教えてくれる。
「あいつ……気持ち悪いんです」
「先ほどから私たちに何かを言わせたいようで」
「そのために殺さず痛めつける、と」
……は? なんだそれは?
ますます意味がわからない、と思っていると、青い髪の海賊とやり合いながらドレアが叫ぶ。
「さっきも言ったが、こいつは『ドゥラーク海賊団』の大幹部の一人! 女騎士に『くっ、殺せ』と言わせたい変態野郎だ!」
「変態とは失礼だな。男は皆、強く、気高い、そんな女騎士が散々汚されて屈辱に塗れ、それでも自尊心を失うことなく相手を睨みながら『くっ、殺せ』と言う状況がたまらないはずだ。なあ?」
俺に話を振るな。
違うと首を横に振る。
「死ねえ!」
ドレアの殺気が凄まじい。
相手がどういうのかわかった女性騎士三人の殺意というか嫌悪感も凄まじい。
それでも、青い髪の海賊は海神の槍を剣で上手くいなして回避している。
腕前だけは、本物かもしれない。
強い分、厄介だともいう。
「それとドレア! お前のような気の強いのが言うのもアリだ!」
「……コロス」
「ああ、それと、気の強い女は私のことは真名で呼んで欲しい。そう、私の魂に刻まれた真名――『クッコロスキー』と」
「『赤燃 上に立つことを認めず 噴出し立ち昇り その罪を燃やし断ずる 罪炎柱』」
「ぼげえええええ!」
俺の火属性魔法によって、青い髪の海賊が炎の柱に包まれる。
詠唱文に罪を燃やすとあるが、多分燃えない気がした。
死ぬまでその業を背負ってそうだ。
炎の柱が消えると、黒焦げになった青い髪の海賊が倒れる。
ピクピクしているので、まだ生きているようだ。
「まだ生きているぞ!」
ドレアがそう言うのと同時に、女性騎士三人が飛び出し、囲んで蹴り始めた。
好きなようにさせよう。
俺にとめることはできない。




