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賢者巡礼  作者: ナハァト
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当たって欲しくない時ほど当たる時がある

 王都・ポートアンカーから黒煙が立ち昇っているのが見える。

 俺のうしろで竜杖に乗せていたドレアからも見えたようだ。


「当たって欲しくはなかったが、アルムが考えた通りのことが起こっているようだな」


「みたいだな。当たって欲しくなかったよ」


 今、国軍の大半は近海最大勢力である「ドゥラーク海賊団」とやり合っている。

 しかし、アブさんの調査で、何やら「ドゥラーク海賊団」の上の方――所謂中心人物などの主要人物たちがその場に居ない、ということがわかった。

 そこで俺は考えたのだが、国軍の大半が駆り出されているのなら、王都・ポートアンカーの警備は最低限になっているかもしれない、ということである。

 そこを狙われたらどうなるのか――それは考えるまでもないだろう。

 つまり、近海最大勢力という部分を囮にして、おそらく少数精鋭で王都・ポートアンカーに海賊が乗り込んできた、という訳だ。

 狙いは――やはり王だと思う。

 人質にするか――あるいは命を絶つか、まではわからないが、確かなのはそれが実行され、王都・ポートアンカーは今非常に危険な状況だということだ。

 チラリ、とアブさんを見る。

 わかった、と頷き、王城の方に飛んでいってくれた。

 あとはこちらも急ぐだけだと、竜杖の速度を上げる。


「このまま突っ込んで問題あるか?」


「ないな! 黒煙が立ち昇っている場所の先は王城がある! 狙いはグラスだ! 急げ!」


「グラス?」


「『グラス・シレ・ルメール』。この国の女王だ!」


 ドレアも同じ結論のようだ。

 随分と気安い感じでこの国の女王さまの名を口にしていたが、知り合いなんだろうか?

 まあ、ドレアもその出自の元は王族だし、何かしらの関係性を構築していてもおかしくはないと思う。

 ただ、今直ぐ確認しなければいけないということでもない。

 それに、あとでわかることかもしれないと思うのと同時に、王城付近で黒煙が立ち昇る。

 もう魔の手はそこまで迫っているようだ。

 急ぐ。


     ―――


 王都・ポートアンカーの港付近に着くと、壊れた船の残骸に、救助されている人たちの姿がところどころで見られた。

 その先、港には体当たりするようにして突っ込んで、港の一部を壊している船が三隻。

 多分、この三隻が海賊たちの乗っていた船だろう。

 つまり――それなりの人数が居ると思った方がいいようだ。

 港に突撃している三隻の船に人の姿は見えない。

 乗り込んだ全員で王城に向かっているのだろうか。


「他を気にするな! とりあえず王城に向かえ! 向かうまでに居たら私が投擲する!」


 ドレアがそう言ってくる。


「随分と自信があるようだが、大丈夫なのか?」


「はっ! 誰に向かって物を言っている! 任せろ!」


「なら、任せた!」


 俺は進むことに専念する。

 瞬間、ドレアが海神の槍を投擲した。

 動いたのがわかったので、ドレアを落とさないように気を付ける。

 投擲された海神の槍は、港で警備兵らしき人たちと争っていた海賊らしき者たちに直撃して、ドレアの手元に戻ってきた。


「……うわあ」


 いきなりだったし、防御する暇もなく、鉄の塊の直撃である。

 海神の槍が当たったところは爆心地のようになっていて、被害は甚大だろう。

 それでも、手加減されているのがわかった。

 海賊の中には無事なのも居るし、警備兵の方にまで被害が及んでいないのである。

 ドレアが本気で海神の槍を投擲したら、その程度で済まない。


「優しいんだな」


「はあ? そんな訳あるか。警備までやるとあとが面倒なだけだ」


 ドレアが乱暴な口調でそう返す。

 照れ隠し――と思ってしまうのは、「青緑の海(エメラルドオーシャン)」やあの港町の人たちに毒されてしまったからかもしれない。

 海神の槍が戻ってくることでこちらの存在が発覚するが、それに応えている時間はないので、そのまま進んでいく。

 王城まで一直線に進むまでの間で、数度ドレアが海神の槍を投擲して海賊を倒していた。

 その場での状況は、多少有利になったと思う。

 そうして辿り着いた王城――その門では既に騎士たちが海賊たちとやり合っていた。

 パッと見で優勢なのは、海賊の方。

 単独では騎士の方が強いのだが、海賊たちの方も質は悪くなく、その上で人数も優っているため、騎士たちの方は防戦一方だ。

 また、門と城壁の一部が決壊して門自体を閉めることはできず、王城の窓の一部からも黒煙が立ち昇っていた。

 どうやら、既に侵入を許している状況のようだ。

 だが、ここを放置すれば更なる侵入を許すことになるため、騎士たちはここを離れる訳にはいかない、といったところか。


「どうする?」


「決まっている! 敵を倒しながら最速で突っ切って王城に入る!」


「……それ、こっちも賊と認識されないか?」


「心配するな! どうにかなる!」


 どうにか……なるのだろうか?

 だが、躊躇うとそのまま状況を悪くするかもしれないから……そこら辺は後回しだ。


「そうだな! どうにかなると信じて――行くぞ!」


 高度を落とし、門前に集まっている海賊たちのところに突っ込んでいく。


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