知ってからわかることもある
出航の準備は直ぐに終わり、海賊団「青緑の海」の船が港に姿を現わす。
以前見た戦闘船だ。
改めて見たことで、ふと気付くことがある。
船首に槍を持つ女性の彫像があるのだが、あれって……微妙にわかりにくくしているが、ドレアではないだろうか?
「お気付きになられたようですね」
先ほどまで俺を全力でからかっていた港町の人たちの中の一人、港のおばさまが、にんまりと笑みを浮かべる。
「あれって」
「そう。一見すると誰かはわかりません。ですが、ドレア船長とそれなりに接していればわかります。その女神像の元になっているのが誰かというのは」
「女神像……なのか?」
「それはもちろん。私たちを――この町に住む者たちの大半はドレア船長に救われましたから。私たちにとっては女神そのものです」
確かに、そういうことなら救いの女神に見えてもおかしくない。
さすがは港のおばさま。情報通だ。(個人的見解)
そう納得していると、港のおばさまがウフフ、と笑みを浮かべる。
「それでも、ここに住んでいる訳でもないのに数日でわかるのは最速ですよ。やっぱり、わかったのは――愛、かしら」
船が出てきたので、もうからかわれるのはごめんだと、竜杖に乗ってそのまま船へと向かう。
あらあら、照れなくても――と聞こえた気がしないでもないが、こういうのは過剰に反応したら負けだと思う。
同僚だったメイドたちも、この手の話で盛り上がっていたなあ……と思い出した。
俺が飛んでくるとわかっていたのか、船は港に寄るようなことはせずにそのまま沖に向けて出航し始める。
甲板に下りると――。
「ようこそ! 『破滅と祝福の鐘号』へ!」
海神の槍を肩に担いで、ニヤリと笑みを浮かべて歓迎の言葉を言うドレア。
船員たちもどこか誇らしげだ。
自慢の船、ということか。
「よろしく」
そう返しておいた。
―――
海賊団「青緑の海」の船――「破滅と祝福の鐘号」が広大な海原を疾走していく。
およそ船が出せる速度――ではない。
それ以上である。
何しろ、俺が風属性魔法で全力後押ししているのだ。
というのも、いくら海賊船とはいえ、各島を巡って安全確認、あるいは「ドゥラーク海賊団」の魔の手が伸びていた場合は戦闘となると、どうしても時間がかかり過ぎてしまう。
時間がかかれば、それだけ被害は大きくなってしまうので、できるだけ急ぐ必要があった。
なので、これまで何度かやってきたが、向かう島がある方角を教えてもらい、俺が竜杖に乗って船の後方に位置し、強烈な追い風を起こして船を疾走させているのである。
ただ、これまでと違い、「青緑の海」の大半は大人しい。
最初に驚きはしたものの、「イエアアアアア!」とか「ほぉほぉ!」とか雄叫びのようなモノを一切上げなかった。
しかし、一部には大変好評であり、喜びを露わにしている。
特にドレアは船首に立って風と波飛沫を肌で感じているくらいに喜んでいた。
「おらあ! アルム! もっと速度を上げろ!」
普通、風を切っていくような速度なら声なんてまともに聞こえないのだが、何故かドレアの声はよく聞こえる……のだが、もっと上げろか。
いや、できない訳ではない。
ただ、上げ過ぎると船体がもつか不安になるのだ。
実際に、船の整備をしているという船員たちから、これ以上は勘弁してくださいと船尾から俺に向けて両腕を交差させて×印を作って見せてくる。
無理。ドレアにはこれで満足してもらうしかないようだ。
そうして、各島を巡っていく。
けれど、こちらも言ってしまえば海賊船である。
……あれ? 大丈夫なのだろうか? と思うが――そこまで気にすることはなかった。
そもそも、襲われているかどうかは遠目に見てわかる。
怪しいのは、俺が飛んでいって確認すればいいだけなのだ。
そうして調べていくが、大抵は無事だった。
襲われていないというのもあるが、中には撃退したところもあるようだ。
その反対も――当然あった。
戦闘中の場合は思いっきり介入する。
といっても、基本的に海という場所において、海神の槍の前に敵は居ない。
船なら尚更だ。
投擲一回で海賊船を沈める。
また、「青緑の海」の船員たちが「破滅と祝福の鐘号」の砲門による砲撃で追い打ちして、トドメだ。
ドレア曰く、食料を集めているのは「ドゥラーク海賊団」――いや、全海賊の中でも二流、三流の海賊だろうから、数だけで大して強くないそうだ。
まあ、惨状を見る限り、その通り、としか言えない。
それに、最初「青緑の海」はドレアという特出した強さを前面に出した海賊団だと思っていたのだが、船員たちを他の海賊団の船員と比べると、「青緑の海」の船員たちの優秀さが際立つ。
船全体の操作技術もそうだが、いざ戦闘となった時、砲門の狙いは的確で次弾も直ぐ発射される。
中には白兵戦が得意な人も居て、ドレアと一緒に前線で戦う人も居た。
単純に、とても強い海賊団だと思う。
なので、いざ戦闘になっても大丈夫なのだが……各島を巡る中で、間に合わなかったところもある。
こればかりはどうしようもない部分もあるが、それでも可能な限りの援助はしておいた。
こういう時のために、海賊船「破滅と祝福の鐘号」には大量の食料、それと!治療薬が積まれているし、俺のマジックバッグも活用して、各島を巡る間に補充もしている。
少しでも、希望を――前を向いて欲しい。
そんな感じで数日間、「青緑の海」と共に各島を巡っていると、アブさんが戻って来た。




