実際そんなのが居たら普通に怖い
王都・ポートアンカーに着いて直ぐ、ハーフェーン商会に向かう。
顔を覚えられていたようで、商会に入って商会長に会わせて欲しいとお願いすると直ぐ通されて、オセアンさんと会うことができた。
マレハダさんとジェリさんは、商会の仕事で出払っているようである。
部屋の中の人の数が少なくて、アブさんはわかりやすくホッとしていた。
慣れない人が居るところでは、まだまだ緊張するようだ。
「それで、こうして早急に戻って来たということは、『青緑の海』との協力は得られなかったということでしょうか?」
オセアンさんがそう尋ねてくるが、わかっていて言っているのか、それとも本当にわかっていないのか……見ただけではわからない。
まあ、相手は名の知れた商人……いや、百戦錬磨の商人だ。
俺が見ただけでわかるような態度は出さないだろうし、誘導するなんてことも、言葉だけで追究するなんてこともできない。
何しろ、俺は元執事見習いの、通りすがりの凄腕魔法使いでしかないのだから。
まっ、勘でいいのなら、多分――。
「いや、そっちは協力してくれることになった」
「そうですか! いや、それは良かった。本当に……ただ、こちらも予想外のことが起きたため、今動くが得策になるかどうか……」
「どういうことだ?」
「状況が想定していたよりも大幅に進んでしまったのです。既に、『ドゥラーク海賊団』を壊滅させるべく、国軍が動いて向かっています。国軍となるとどうしても貴族が絡んできますので、その一部は『青緑の海』を敵視していますので」
ああ、なるほど。
そういえば、ドレアのところは海賊を狙う海賊で、あくどい商人の船も狙っていたんだったな。
その商人と繋がっていた貴族は……まあ、確かに繋がっているとわかると面倒になるな。
「わかっていただけたようで何よりです」
理解していただけると思っていました、と笑みを浮かべるオセアンさん。
会ったあとなら俺がそう思うとわかっていたような感じだが、オセアンさんがわかっていないこともある。
「そうだな。だが、急いで戻って来たのは、あの港町が件の海賊団に襲われそうになったからだ。それで急いだ方がいいと」
「な、なんですって! 町の者たちは大丈夫なのですか? あの町の者たちは――」
予想以上に取り乱した、というのが正直な思いだろうか。
同時に、狼狽えるということは、どういう経緯でできた町であるかも知っているようである。
これはもう確定だが、まずは落ち着かせよう。
「大丈夫だ。港町に着く前に接近が発覚して、俺が――いや、海の魔物と思われる大きな魚が海賊船ごと飲み込んだ」
「???」
訳がわからない、という顔をしたので俺は説明を行う。
う~む。話していて思うが、海の魔物にはあんな巨大なのも居るのか。
普通に怖い。
気が付いたら……いや、気が付く前に下からパクリといかれる可能性もあるのか。
考えるだけで怖い。
さすがにあんな巨大なものばかりでないことを願う。
オセアンさんの方は、聞いて納得したのか安堵の息を吐く。
そして、苦笑いを浮かべた。
「……これは、さすがに言い逃れできない態度を見せてしまいましたね」
「まあな。ただ、元々そう思われるとわかっていて、俺にあの場所を教えたんじゃないのか?」
「ええ。もしもの時、守っていただけると思いまして。本当にそのもしもが起こるとは思いませんでしたが。あそこは、ハーフェーン商会という訳ではなくハーフェーン家が協力している港町なのです」
「ん? 何が違う?」
「商会としてではなく、家族ぐるみで協力しているのです」
「……知り合いでも居るのか?」
「そのようなものです。ただ、国軍が向かっているのは『ドゥラーク海賊団』の本拠点ですので、周辺の各島にまで手は回っていません。このままだとそちらの方は悪戯に被害が増えてしまいます。なので」
「ああ。わかった。そっちは俺が『青緑の海』と共に回ろう」
「よろしくお願いします」
オセアンさんが一礼して、これで漸くと安堵の息を吐く。
ただ、俺としては気になることがある。
「……近海最大勢力という海賊の方は、本当に任せていいんだな?」
「もちろんです。今は戦闘船だけが先行していますが、如何に近海最大勢力であろうとも、こちらは国軍。戦力も数も違いますので大丈夫です。実際、戦闘船だけでも片は付くと思いますが、念のためと援軍と補給船も直ぐにあとを追う手筈が整っていますので」
「それは随分と話が早いな」
普通、国軍が動くとなるとそれなりの準備期間が必要だと思うのだが。
それも大軍ともなると。
「宰相殿が動いてくれたのです。そういうことならと、国軍の全戦力をもって速やかに討伐すれば、早期決着によってそれほど浪費しなくても済む、同時にもし内通者が居ても迅速であれば相手の取れる手も少なくなると陛下に進言したのです」
それはまた――随分とやり手のように思える。
いや、やり手ではないか。
本当にやり手であるのなら、もっと早くに手を打っていただろうし。
「わかった。なら、件の海賊団の方は任せる。こっちは各島を巡って安全確認、あるいは海賊たちが居れば相手をする、ということでいいんだな?」
「はい。よろしくお願いします」
やることが決まったので、またあの港町に向かう。
急がないと、各島の被害が大きくなる一方だ。




