芽生えるものがあるかもしれない
とりあえず、ドレアから聞きたいことは聞けた。
あとは俺の事情だが……。
「……」
俺の聞きたいことが終わったと判断したドレアが、次はそちらの番だと視線を向けている。
「確か、どうして俺が海神の槍を知っているか、だったか?」
「ああ、その通りだ。まさか、私にこれだけ話させて、そっちはだんまりなんてしないよな?」
「わかっている。といっても、信じるかどうかは微妙なところだがな」
「はっ! 普通なら信じないような話ってか? 面白いじゃないか。そんな話、この海にいくらでも流れている。誰も信じない絵空事のような宝を最後まであると信じて見つけたヤツだって居るんだ。信じるかどうかは私が決める」
「それはそうだ。さて、どう話したモノか」
話を切り出そうとした時、外からバタバタとこちらに向けて駆けてくる足音が響いてきた。
慌てているようなので、何かあったのは確実のようで、俺とドレアは顔を見合わせ、一旦話を中断させる。
「船長! ドレア船長!」
船員の一人が駆け込んできた。
既に汗が流れ始めていたので、相当急いでここに来たようだ。
「どうした? 何があった?」
「偵察からの報告で、『ドゥラーク海賊団』がこちらに向かって来ていると!」
「なんだと! あいつらの勢力圏からは外れているってのに……一体どうして」
「それどころではありませんよ、船長! まだ目視できる距離ではありませんが、それでもこの情報が町中に巡っていて、町の皆が恐慌状態になってしまっています! まずは船長から一声かけて落ち着かせていただけませんか?」
「それも仕方ないか。わかった」
ドレアが動こうとしたので、その前に声をかける。
「恐慌状態って、まだ見えただけだろう? どういうことだ?」
「この港町に居る者の大半は『ドゥラーク海賊団』によって被害に遭った者なんだ。だから、『ドゥラーク海賊団』が現れただけで恐慌状態になってしまう」
「船員たちの中にも被害に遭った者は居ます。ドレア船長は、そんな人たちが生きていける、戦える場所を用意してくれた大恩人です!」
「それが、この港町ってことか」
そうです! と頷く船員。
俺は妙に納得した。
ドレアが船員だけではなく、港町の人にも慕われているのを。
協力する話を受けた理由の中に、この港町の人たちも含まれているような気がした。
俺が納得している間に、ドレアは船員を連れて食堂を出て行こうとしていたので、俺もあとを付いていく。
「それで、数は?」
「三隻が確認できています!」
「三隻? ……少ないな。となると、ここに来た狙いは私たちではなく……」
ドレアが考えながら歩く。
危ないとは思いつつも、足取りはしっかりとしているので大丈夫かもしれない。
家屋から出る前に、ドレアは答えを出した。
「多分、私たち『青緑の海』が狙いではないな。私たちの拠点がここだとバレてはいないだろう。おそらくだが、王都・ポートアンカーの方での動きを察して、方々の島から物資を集め始めたんだ」
そういえば、元からその流れがあると、オセアンさんが言っていたな。
それを察して動いていた、ということか。
「つまり、目的は略奪か?」
俺がそう言うと、その通り、と頷くドレア。
動揺が見られないので、俺が付いて来ていると把握していたようだ。
「なんだかんだと、『ドゥラーク海賊団』が近海最大勢力なのは間違いない。その分、数が必要なんだろう」
「数だけは多いんですよね、あそこ」
船員がそう補足してきた。
「それにしても、この島に来たのは運が悪いな。私が纏めて沈めてやる」
ドレアが悪い笑みを浮かべる。
海神の槍を投擲して船ごと沈めるつもりだろう。
「船長。皆の前に出て落ち着かせる時は、その表情はやめてくださいよ。完全に悪役です」
「はあ? 私たちは海賊だぞ。寧ろ頼もしいだろうが」
「子供、泣きますよ?」
「……善処する」
多分、無理なヤツだな、と俺と船員は思った。
ただ、俺は思うところがあって、会話に割り込む。
「その今向かって来ている海賊船だが、俺がやってくる。そのまま王都・ポートアンカーに一度戻るつもりだ。協力を得られた訳だし、方々の島が似たような状況なら、王都・ポートアンカー側の準備を急かしたほうがいい気がする」
「それは……そうだな。時間が遅れれば、無用な被害が増えるだけだ。それは私としても気に食わない」
「だろ。だから、話の続きは件の海賊団を討伐したあとでいいか? 今少しだけ言うのなら、俺はドレアの目的に協力したいと思っている」
「はっ! 随分と気を持たせる。だが、確かに今は話している暇じゃないのは確かだ。わかった。『ドゥラーク海賊団』を倒したあと、色々と聞いてやる。協力したいのなら、協力させてやるよ」
ドレアが勝気な笑みを浮かべるので、俺も笑みを返しておく。
「あんな僅かな間で相思相愛ですか? やはり、一戦交えたあとは違いますね」
「「違うわ!」」
ドレアと共に船員にそう突っ込んで、俺は王都・ポートアンカー側を急かしたらまたここに来ると伝えて家屋を飛び出し、竜杖に乗って空へと舞い上がる。




