何故かバレるよね。本当に。
海洋国・シートピア。
開国した王家「ラメール」には、二つの特別な宝物があった。
――海神の槍。
呼べば主の下に戻り、触れている海水、いや水全般を操ることができる槍。
海中・水中で呼吸もできる。
――海神の船。
魔力を注げば風がなくても動く――だけではなく、海の魔物に襲われることがない船。
また、強力な魔力砲と強固な結界を張ることもできる。
王家「ラメール」の初代が、その二つの宝物の力によって開国したのが、海洋国・シートピアの成り立ちだとされている。
ただ、この二つの宝物は本当に特別であった。
誰も彼もが使える訳ではなく、王家「ラメール」も例外ではない。
実際、歴史を紐解くと、この二つの宝物を使えた者は数えるだけしか居なかった。
そして、あった――ということは、今はないということでもある。
失ったのは、約百五十年前。
今や国中の誰もが知っている話。
当時、名の知れた悪逆海賊と手を組んだ王族――第二王子が、その協力の見返りに海神の槍と海神の船を提供した――と伝えられている。
国を裏切った王族の名は「ウィンヴィ・マレ・ラメール」。
第二王子である。
その第二王子・ウィンヴィには兄と妹が居た。
その妹の名が「ソフィーリア・マレ・ラメール」。
自分はその「ソフィーリア・マレ・ラメール」の子孫だと、ドレアは語った。
「それはつまり、自分が王族だと……跪いた方がいいか?」
本当に「ソフィーリア・マレ・ラメール」の子孫なら、そうしてもいいが……。
「やめろやめろ。そんな大したモンじゃねえよ。今この国の王家は別の家系だ。『ラメール』はもう王家じゃない。ただの海賊だよ」
王家と言われて嫌そうな表情を浮かべるドレア。
とりあえず、当人にその気はないようだ。
ただ、そうか……「ラメール」はもう王家ではないのか。
それなら、別に今の王家に興味はないな。
ハーフェーン商会に王族との接触をお願いしていたが、それが無駄になったな。
何しろ。元々会いたいと思っていた王族は「ラメール」だ。
つまり、今目の前に居る。
しかも、「ソフィーリア・マレ・ラメール」の子孫だというのなら、尚のこと。
何故なら、件の裏切った王族という「ウィンヴィ・マレ・ラメール」こそ、俺の知る風のウィンヴィさんなのだから。
そして、もちろん記憶受け継いだことで知っている。
風のウィンヴィさんは、決して国を裏切ってなどいないということを……。
「そうか……」
「……私から言ったし言うのもなんだが、今の話を信じるのか?」
「海神の槍を使えているんだ。少なくとも、その証明の一つにはなる」
それに、そう言われて改めてドレアの顔を見てみると……確かに「ソフィーリア・マレ・ラメール」の面影がある。
「ついでに、もういくつか聞いていいか?」
「……」
俺の問いに、ドレアがぶすっとした表情を向けてくる。
私が話したのだし、そっちも話すべきじゃないのか? という意思がありありと見て取れた。
確かにその通りなのだが、できれば先に知っておきたい。
「……まあ、負けたのは私だしな。仕方ない。これ以上何が聞きたいんだ?」
「まず、海神の槍をどうやって手にしたのか、だ。少なくとも、一度消失したのは確かだ。行方知れずになったのは間違いない。それをどうやって手にしたのかを知りたい……いや、知っておきたい」
「さてな。私も詳しいことは知らない。元々家にあったモノだ。母は使えなかったが、私は使えた。それだけ。何時見つけたのかは知らないが、確か……どっかの海賊が海神の槍だと知らずに放っていたのを見つけたと言っていたような……」
当事者でなければそんなモノだろう。
それに、誰にでも使える訳ではない以上、それが海神の槍だとわかっていなければ、ただの馬鹿でかい武器にしか見えない。
運が良かったと言うべきか、それとも執念による結果か……。
「そうか。その母親は?」
「あ? なんだ? まさか、私の婿になったという挨拶でもするつもりか?」
「それをやれば、余計に引っ込みが付かなくなるぞ」
冗談やからかいでは済まなくなる。
「……そうだな。母があっち側にいったらあっという間に固められてしまう……それでなくても、孫はまだと急かされているというのに……」
ドレアがこの世の終わりのような表情を浮かべる。
色々とあるようだ。
ただ、直ぐに気を持ち直し――。
「ま、まあ、大丈夫だ! 母はここには居ない! 別の島だからな!」
虚勢を張った。
ただ、こういう場合というか、親って妙に勘が鋭い時があるんだよな。
俺の母親もそうだったが、隠し事が通じない。
今回のことも――いや、考えるのはやめておこう。
それで巻き込まれるのは間違いなく俺だ。
「それはさておき、あと一つ聞きたい。どうして元王族が海賊なんてやっている? 何か目的があるのか?」
話と気持ちを切り替えるように真面目な雰囲気で尋ねると、ドレアも真面目な表情と雰囲気へと変わる。
「決まっているだろ。見つかっていないお宝を見つけるためだ」
「……海神の船か?」
「そうさ。まっ、他国出身のあんたに言っても仕方ないが、さっき話したのは間違った歴史……かもしれない。『ウィンヴィ・マレ・ラメール』は裏切ってなどいない。少なくとも、先祖である『ソフィーリア・マレ・ラメール』はそう信じている。それを証明する手掛かりが、海神の船にあるかもしれないからな」
「証明するため……証明して、王家に返り咲くつもりなのか?」
「はあ? 王家? んなもん、興味ない。あんな退屈で窮屈そうなモノになんかなりたくない。私はこのまま――海賊のままでいい」
「なら、純粋に先祖が信じていることを証明するために?」
「まっ、そういう殊勝な部分はついでだ、ついで。私は海賊だ。なら、お宝を求めるのは当然だろ。それに、海神の槍が扱えるのなら海神の船も扱える。同様の条件なら、それは私にしか使えない船だ。手に入れようとして当たり前だろ」
そう言うドレアだが……まあ、ついで、ではないだろうな。
そんな気がする。
でもまあ、そういうことなら、俺は協力できると思った。




