見極めの上手い人って居る
海賊団「青緑の海」の拠点は、普通の家屋だった。
いや、正確に言うのであれば、見た目は普通の家屋だが、三軒くらいが繋がっている大きな家屋である。
案内してくれた船員によると、海賊団「青緑の海」はここで共同生活を送っているそうだ。
「ふひひ。この女の園と言ってもいいところに、初めて男性が入ることになりますよ」
「は? ……冗談だろ?」
「ええ、もちろんそんな訳ないじゃないですか。この町の人たちだって来ることがあるんですから。ただ、そう言っておいた方が嬉しいでしょ?」
……否定はしない。
ただ、海賊団「青緑の海」は、からかうのが本当に好きなようである。……船長は除く。
「まっ、ほどほどにな。人によっては怒ることもある」
「え? 心配してくれるとか……もしかして、ウチみたいなのがタイプですか?」
「帰っていいか? ドレアにはそっちから出向くように言っておいてくれ」
「冗談ですよ、冗談。本当に。船長に怒られるから帰らないでください。それに、きちんと怒られないだろうな、という相手を選んで怒らないギリギリのところでからかっているので問題ありません」
「いや、問題になるようなことを口走っているんだが」
これも冗談なのかと問いたいが、話が終わらない。
根負けしたように項垂れ、さっさと案内してくれ、と伝える。
「は~い! 船長の旦那一名様ご案内~!」
最早何も言うまい。
大きな家屋の中も、そこらの一般的なのと変わらず普通だった。
船員たちの何人かが興味深そうに俺を見ているだけではなく、明らかに船員とは思えない年若い――十にも満たないような少女の姿をちらほら見かける。
同じく、こちらを興味深そうに見ていることに変わりはない。
なんというか、海賊団「青緑の海」の拠点というよりは――。
「まるで、大家族の家のようだな」
俺としては、素直な感想というか、ぽつりと思ったことが口に出てしまっただけなのだが、案内役の船員には聞こえていたようで、嬉しそうな笑みを浮かべる。
「そうですか? えへへ。そう見えるのなら嬉しいです」
これまでで一番上機嫌になった船員が案内を始める。
ちなみに、アブさんも家屋の入口までは付いてきていたのだが、中の人の多さにビシッ! と固まり、上に避難――周囲に怪しいモノがないか警戒をしてくると空に飛んでいった。
……まあ、室内だと不意に触れられてしまうこともあるだろうし、それでアブさんの存在がバレるとマズい事態になるのは間違いないから仕方ない。
そうして着いたのは、食堂のような場所。
船員と思われる女性から小さな女の子まで、様々な人たちが食事を取っていた。
その中に、ドレアが居て、同じく食事を取っている。
「船長! 旦那さんを連れて来ましたよ!」
「……たく。だからちげえって言っているだろ。それより、これからそいつと真面目な話をするから、悪いが全員席を外してくれるか?」
ドレアの言葉に従って、この場に居る全員が動き始めた。
またからかうような言葉が出ると思ったのだが、ドレアの発する雰囲気が真面目なモノであり、それを察したのだろう。
ほどなくして、食堂には俺とドレアだけが残り、ドレアが対面の席を勧めてきたのでそこに座る。
「……さて」
先に切り出したのは、ドレア。
「勝負は勝負。負けたのは私だ。約束通り、『ドゥラーク海賊団』を潰すのに協力しよう」
「ああ、助かる」
「皮肉にしか聞こえないな。そもそも、近海最大勢力だろうが、あれだけの魔法を使えるのならアルム一人でもどうにかできるだろ?」
「否定はしない。実際できると目算してできると思ったからな。ただ、その場合は溜め込んでいる宝物とか全部駄目になる」
「ああ……それはもったいない。確かにもったいない」
海賊として宝は見逃せない、とドレアが頷く。
「それで、協力するとして、私たちはどう動けばいいんだ?」
「さあ? そこまでは聞いていない。ハーフェーン商会から依頼されただけだ。だから、詳しくはそっちに聞いてみないとわからない」
「……あの爺」
ぶすっとした表情を浮かべるドレア。
その反応を見るに、もしかして知り合いなのだろうか? と思ってしまう。
そういえば、オセアンさんは何故かここの場所を知っていたし……と考え始めると、ドレアが訝しげに俺を見てくる。
「なら、これ以上の話はできないようだから、別の話をしようか」
「別の話?」
「どうしてあの槍のことを知っていたのか、それを教えてもらおうか」
ドレアの俺を見る目は、吐くまで決して逃がさないと訴えているかのようだった。
「俺としては……まあ、別に言ってもいい。一応、それに類することを隠しているが、それは公にしていいモノではないからだ。まあ、そもそも言っても信じないというのもあるが」
「信じる信じないをそっちで勝手に判断するな。それは私が決めることだ」
「そうだな。その通りだ。だが、おいそれと話せるような内容でないことも事実だ。だから、先に一つ聞かせてくれないか? その答えで俺も話すかどうか決める」
「……なんだ? 何を知りたい?」
「どうして、あの槍……海神の槍を使える?」
「……それを教えれば、そっちのことも教えてもらえるってことか?」
「内容によるな」
「……一つ聞くが、お前はこの国の者か?」
「いいや、違う。別の国出身だ」
「まっ、だろうな。それなら……いいだろう。予備知識がない方が信じるかもしれないし。ただ、私のもそっちと同じで公にしていいことではないから、ここで聞いた話は黙っていてもらう」
「ああ。誰にも言わない」
しっかりと目を見てそう答える。
ドレアも見返してきて、少しの間互いに目を逸らさなかった。
「……私の正式な名は『ドレア・マレ・ラメール』。約百五十年前。国を裏切り、悪逆な海賊と手を組んだ王子『ウィンヴィ・マレ・ラメール』の妹である『ソフィーリア・マレ・ラメール』の子孫だ」




