そんな目で見……言うな
魔法による物量攻撃によって海底で倒れていたドレアを確認したところ、死んではいなかった。
気を失っていただけで、ホッと安堵。
これで俺の勝ちなのは間違いない。
ただ、暴風の壁を維持するのがつらいので、島の港町に戻ることにする。
気絶しても海神の槍から手を離さないドレアを担……担ぎ………………身体強化魔法を発動して、海上に移動。
超巨大竜巻を消し去って海を元に戻し、島の港町へと戻る。
着いたところで、海賊団「青緑の海」の船員たちに取り囲まれる。
「その様子だと船長に勝ったのか! やるな、あんた!」
「グフフ。これで船長はあんたのモノだね」
「今晩が楽しみだ。ちなみに、船長はこれまでそういった経験はないから、それこそあんた色に染められるね」
「「「ひゅう~」」」
……今ならドレアの気持ちがわかる。
まさか俺までからかわれるとは。
俺とドレアにそんな気はない……と思うが、船員たちもそれをわかってやっている節がある。
……そうでもしないといけないくらい、ドレアが奥手ということだろうか?
………………。
………………。
いや、まさかね。
このまま絡まれるつもりはないので、まずは気絶しているドレアを船員たちに渡す。
え? いいの? みたいな目で俺を見るな。
「ベッドインしないの?」
海賊団「青緑の海」の船員たちは、思ったよりもたくましい……想像力が。
少なくとも俺より。
とりあえず、ドレアが起きないことには話もできないので、看護は船員たちに任せて、俺はそれまでの時間を潰すことにした。
ここは港町なので、観光するには充分である。
「案内しようか?」
「大丈夫だ。ブラブラと見て回るだけだからな。ただ、宿だけは教えて欲しい」
念のため。
ここには宿が一軒しかないそうで、「安らぐ潮の音」という名前だそうだ。
その名を出して聞けば、誰でも行き方を答えてくれるだろうと教えてもらったので、忘れないようにしよう。
それと、ドレアが起きたら呼びに来ると告げて、船員たちは港町の中に消えていった。
残された俺は、早速ブラブラと観光をしつつ、小声でアブさんと話す。
「いやあ、危なかった」
「海神の槍か。その名の通り、海においては無類の強さを誇るな。アルムが海の中に落ちた時は焦ったぞ。まあ、そのあとは巨大な竜巻に巻き込まれまいと必死だったが」
「それは、まあ……悪かった。ちょっと怒ってしまって」
「まっ、無事に範囲から出られたのだから問題ない。ただ、そのあとの魔法連発の方が、某は怖かった。あれは某でも受け切れるかどうか……あの娘も、よく生きていたモノだ」
「ああ、多分、海神の槍を盾のようにして防いでいたんだろう。ただ、それでも衝撃は伝わるし、周囲からの影響もある。さすがに耐え切れなかったんだろうな」
「あの物量であれば仕方ない」
わかるわかる、と頷くアブさん。
そこまでの物量だっただろうか?
無我夢中で放ちまくっていたから、実際どれくらいなのかわからないんだよな。
……確かに、今思い返してみると、露わになっていた海底の形が妙に歪になっていたような……いや、気のせいだな、きっと。
そのあとは、本当にブラブラと観光というか散策をする。
さすがにソイソースを使ったモノはなかったが、それでも新鮮な魚の料理ということで、魚の身を薄切りにしてソースをかけたモノや、下味を付けた魚の身の両面をバターで焼き、レモンソースを振りかけたモノなど、どれも美味い。
港から見える海の風景も悪くなく、いい街だと思った。
満足して、宿に向かう。
教えられた通り、宿の名「安らぐ潮の音」の場所を尋ねると、誰もが親切に教えてくれた。
中には、今日はもう泊まっていった方がいいと心配する声もかけられる。
その理由を尋ねると、なんでも沖合の方で巨大な竜巻が突然発生したため、今日は危険かもしれない、と言うのだ。
船の入港と出港も、天候を気にして慎重になっている、と。
………………すみません。それ、俺……いや、あえて語るまい。
宿の場所だけしっかりと聞き、お礼を告げて進む。
少しだけ速足になっているのは、きっと気のせいだ。
辿り着いた宿は、頑丈な造りで二階建ての大きな建物だった。
そこで一泊し、翌日。
宿他の前に、どことなく見かけた女性が立っていて、俺を待ち構えていた。
「あっ、船長の旦那さん」
誰が旦那だ。誰が。
なんというか、外堀から無理矢理埋めようとしていないか?
ただ、それで誰かはわかった。
海賊団「青緑の海」の船員の一人だ。
「旦那ではないが?」
「もう、そんな細かいことはいいじゃないですか」
細かくはないと思うが?
「それより、船長がお呼びです」
「目を覚ましたのか」
「はい。なので、私たちの家――『青緑の海』の拠点に案内します」
わかったと頷く。
「あっ、宿どうします? なんでしたら、宿は引き払って、今日はそのまま船長の私室に泊まっちゃってもいいですよ」
だから、無理矢理既成事実を作ろうとするな。




