関係ない時に思い出すこともある
魔法の練習をしながら、休憩時にはラビンさんからもらった本を読みつつ、フォーマンス王国へ向かう。
その間に気付いたことが二つあった。
まず、俺が使う魔法について。
生活魔法、戦闘魔法(現在は火属性のみ)は問題なく使える。
それに間違いはないが、初お披露目の一芸の時に操作を失敗した。
その原因を俺なりに考えてみたのだが、おそらくというか、考えてみれば当然のことだけど、俺の体と火のヒストさんの体が違うことが原因だと思う。
俺は火のヒストの記憶のままに火属性魔法を使用したが、その感覚は火のヒストが自身の体の感覚によるモノなのだ。
長年培われ、体に馴染んだ感覚である。
体が違えば、抱く、感じる感覚は違うため、体に合わない感覚のままに魔法を使用しても駄目なのだ。
そのため、狂いが生じて魔法の操作を失敗したのではないか……と思う。
なので、その感覚を掴むまでは、出力が想定より違っていたり、狙いとは違う変な方向に飛んでいったりといった、何かしらのことが起こりそうな気がする。
ただ、感覚となると数も必要なため――想定外のことが起こった場合も、まあ仕方ないと数をこなしていくしかない。
そして、もう一つ。
これはそろそろフォーマンス王国に辿り着きそうだという時に気付いた。
空を飛んでの移動であったため、運がいいのか悪いのか、ここまで来るまでに村や町に寄ることがなかったのだ。
だから、今更で気付く。
元々俺は金を持っていない。
あの跡継ぎが俺に金を持たせる訳がないのだ。
その上で、マジックバックの中にも金は入っていない。
白金貨、大金貨、金貨、大銀貨、銀貨、大銅貨、銅貨と分けられていて、白金貨1枚は金貨100枚、金貨1枚は銀貨100枚、銀貨1枚は銅貨100枚の価値があり、大系はそれぞれ50枚分の価値がある。
……つまり、最低額である銅貨一枚すら持っていないのが、今の俺である。
これは……詰んだか?
入れ忘れ……とか思えない。
ラビンさんがそんな失態をするとは思えないし、思いたくもない。
―――
「う~ん……」
「どうした? ラビン。何やら難しい顔をして」
「いや、アルムくんに渡すモノを何か忘れているような気がして……カーくん、わかる?」
「我にわかる訳がなかろう」
「だよね。でも、思い出せそうで出せないというか、喉の奥に魚の小骨が引っかかっているような感覚でイヤなんだよね」
「それはイヤだな。まあ、そういうのは案外忘れた頃というか、意識するとかえって思い出せない場合もあるぞ」
「……それもそうだね。なんかやってれば不意に思い出すかもしれないし」
「そういうことだ。はっはっはっ」
「はっはっはっ」
―――
となると、金が入っていなかったのは……何かしらの意図があるはず。
その意図がなんなのかを考えた場合、やはり金くらいは自分で稼げ、という叱咤激励ではないかと思う。
稼げるだけの力が、今はあるのだから。
そこで、金を稼ぐのと同時に今後の身の振り方を考えると、まずは冒険者になるのが一番かもしれない。
依頼を受けて金を稼ぐ冒険者。
受けられる依頼の中には魔物を相手にするのがあって、魔法の練習にはうってつけだろう。
素材を駄目にする可能性もあるが……というか、その可能性があるからこその練習だ。
それに、もっと体を鍛える必要がある。
でなれば、無のグラノさんたちの魔力と記憶を受け継ぐことができないのだから、体を鍛えるという意味でも冒険者はアリだ。
色々な依頼があるらしいし、打ってつけだと思える。
火のヒストの魔力と記憶を受け継いだ今なら、それなりに稼ぐこともできると思うし。
そうして今後について考えていると――。
「……ん?」
ふと、何かを感じ取ったのか、地上が気になって見てみる。
全速力といった感じで、草原を駆けていく馬車が二台と、人を乗せた馬が一頭並走していた。
行商とか、そういう一団かと思ったが、何かしらの事情を抱えているようで、後方に向けて魔法を放ったり、矢を射ったりしていて、後方にはその一団を狙っています、という感じの追っている一団が居るのだ。
しかも、追っている方の規模は倍以上。
馬車が四台に、人が乗っている馬が一、二、三……八頭並走している。
また、どちらも武装しているのだが、追われている方はバラバラで、冒険者パーティとその護衛対象という風に見えて、追っている方は統一感があった……というか、あって当然だった。
見間違いでもない限り、追っている方の装備は金属鎧で固められ、その意匠はフォーマンス王国の騎士団だということを示している。
……フォーマンス王国の騎士団が追う相手、か。
上空に居る俺には気付いていないようだが、何かあるかもしれないと、追われている方に接触を試みるために降下する。




