どっちを選択しても同じってことない?
海賊団「青緑の海」の協力を得るために、船長であるドレアとやり合うことになった。
強さを示せばいいだけだと思ったのだが、どうやら俺が欲しいらしい。
「負ければ私の物になれ」と力強い口調で言われる。
「てめえもなんか勘違いしているだろ! 絶対!」
ドレアが担いでいた海神の槍の切っ先を俺に向けてくる。
海神の槍の武骨さによる言葉にできない異様さと、ドレアから感じる迫力で正直怖い。
「駄目ですよ、船長」
「怖がらせてどうするんですか!」
「将来の旦那になるかもしれないんですから、もっと優しくしないと逃げられますよ?」
「それとも、もう尻に敷いているってことですか?」
「があー! うるせえ! だから、ちげえって言ってるだろ!」
ドレアが怒りの咆哮を上げるが、船員たちは一切動じない。
寧ろ楽しんでいるというか、煽っているように聞こえるのは俺のせいだろうか?
それだけ、ドレアの婚期を気にしているということの裏返し――とも取れる?
悩んでいると、船員たちが俺にも声をかけてくる。
「頑張って!」
「船長をモノにしちゃえ!」
「応援しているぞ!」
船員たちは俺の味方のようだ。
ついでに言えば、アブさんも声は出さずに両手を握ってぶんぶん振っている。
応援しているのだろうか?
ただ、ドレアから出された勝敗の結果は、どちらが下に付くかである。
………………あれ? 結局結ばれることになっている?
「お前もいつまで勘違いしたままなんだ! そんな訳ねえだろ! それに、そういう相手になら私だって、その……こんな武力じゃなく……言葉で……星が輝く夜空の下……船の上で、とか……」
『ひゅう~』
俺と船員たちの行動が被った。
ちなみに、アブさんも恥ずかしそうにしている。
まあ、一番恥ずかしいのは口走ってしまった自分かもしれないと思ったドレアが――。
「コロス!」
理不尽な怒りを俺だけにぶつけてきた。
いや、船員たちも一緒に言ったのに。
「私の想いをあなたに受け止めて欲しいってことですね! 船長!」
ドレアが海神の槍をぶんぶん振りながら船員たちの方に向かい、船員たちは叫びながら蜘蛛の子を散らしたかのように逃げ出した。
一撃でもまともに入ると危ないからな。
逃げ出すのも仕方ないと頷き、ドレアへと声をかける。
「決闘はわかった。協力とは別にこっちも聞きたいことがある以上、決闘を受けて勝った方が話が早い。それで、いつ始める?」
すると、ドレアは海神の槍を振るのをやめ、俺に向けて好戦的な笑みを浮かべる。
「そうこなくてはな。それに、いつ始まるなど、そんなの決まっている。戦いとは、どちらかが戦うと決めた瞬間から――始まっている!」
ドレアが襲いかかってくる。
ただ、なんとなく予期していた。
殺意とまではいかないが、敵意――いや、好戦的な雰囲気が言葉の途中から一気に増していたからだ。
だから、少しだけ余裕を持って口を開く。
「実戦のつもりでいいんだな?」
「当たり前だろう! 寧ろ、手を抜けるモノなら抜いてみな! その瞬間に終わらせてやるよ!」
「そうか。わかった」
実戦のつもりでいいのなら、俺は俺の優位性を活かす。
というか、真正面からやり合っても、貧弱な俺が勝てる訳がない。
ドレアが海神の槍を横薙ぎに振るうのに合わせて身を引き、そのまま竜杖に乗って空へ。
「まあ、そうくるよな! だが――」
ドレアがそのままその場で回転し、勢いを付けて海神の槍を投擲。
飛び上がった瞬間を狙われたため、多少姿勢が悪くなろうとも体を倒して回避する。
竜杖と魔力的な繋がりがなければ落ちていた。
瞬間――背筋がざわつく。
本能に従って急上昇すると、その下を海神の槍が通り抜けていった。
……俺が回避して安堵すると見越していて、そこに合わせて海神の槍を引き戻したのか。
「よく避けた、と言いたいが、それくらいはしてくれないと、な!」
再度、ドレアが海神の槍を投擲。
今度は竜杖にしっかりと乗り、回避。
引き戻しにもしっかり対応して――反撃を行う。
「『赤燃 赤く熱い輝き 集いて力となる 基礎にして原点 火炎球』」
火炎球を同時に五つ作り出し、時間差で連発。
ドレアは海神の槍を引き戻して、火炎球を斬り裂くように振るってすべて裂き消した。
「そんなもんじゃないだろう! お前の力は!」
「……『白輝 闇を裂き 流星のように降り注ぐ 拡散する一筋の煌めき 光輝雨』」
光の帯状の輝く筋が幾重にも散らばり、ドレアに向けて一点収束していく。
ドレアは海神の槍の大剣のような穂先の背をかざし、盾のようにして一点収束を受け――「光輝雨」の勢いに少しドレア自身が押されるが、それだけ。
海神の槍には一切の傷は付いていない。
まあ、この程度の威力ではそうなるよな。
暴走しそうになる魔力をどうにか抑えているため、威力も抑えているのだ。
それでどうにかできるとはさすがに思っていないが、それでも正直これ以上の威力は――出したくない。
というより、出せない。出してはいけない。
何故なら――。
「期待外れだったか? この程度の威力しか出せない魔法使い――魔力の持ち主ではないと思ったが……ああ、そういうことか」
ドレアが居る場所は港なのだ。
海賊団「青緑の海」の拠点かもしれないが、普通の人たちも使っている港を、下手に魔法を放って壊す訳にはいかない。
ドレアもそのことに気付いたのか――。
「ああ、なるほどな。確かに、こりゃ私の落ち度だ。悪い悪い」
頭をかいて、港から海へ。
海の中へ落ちる――ことなく、ドレアは海の上をなんでもないように歩いて、港から離れていく。
あれは言ってしまえば海神の槍の能力の体現だ。
どうやら、本当に海神の槍を使えているようである。
港から充分に離れたあと、ドレアはより好戦的な笑みを浮かべた。
「さあ、これで本気を出せるな……お互いに」
ざわり、とドレアの髪が揺れ、その青が交じった緑色の髪色が――海のような蒼色へと変化する。




