そうなるだろうな、となんとなくわかる時がある
海賊の拠点から出発し、王都・ポートアンカーの港が見えてきた。
それまでの間に、救出した人たちとはある程度紹介し終わっている。
その中での自己紹介で、やはりあの時、海神の槍を持つ女性――ドレアに島にある物は好きにしてくださいと言ったのは、マレハダ・ハーフェーンであった。
四十代前半くらいの男性で、柔和な雰囲気だが、どこか油断ならないようにも思える。
やり手の商人という感じだ。
捜索船の人たちは全員顔見知りであるために無事を喜ぶが、俺は完全に初対面である。
俺がここに居る経緯を捜索船の船長さん経由で聞き、ありがとうございます、と感謝の言葉を言われるが、多分火炎弾から守ったことも含まれているのだろう。
……俺の風属性魔法は、そのままなかったことにしておいて欲しい。
とりあえず、関係は良好なまま、王都・ポートアンカーに辿り着いたと思う。
着いたと思えば、今度はそのまま流れるようにハーフェーン商会へ。
親子の再会というのは見ていていいモノがある。
ここまでマレハダ・ハーフェーンの護衛と報告を行うために付いてきた捜索船の船長も涙を流していた。
詳しい話は翌日となり、俺はハーフェーン商会が用意してくれた宿に泊まる。
そういえば、王都・ポートアンカー内を自由に動けるようになったのだろうか?
なんだったかな……ちょっかいをかけてきそうだという商会の名前………………駄目だ。思い出せない。
そこら辺も明日聞くか。
そう考えて、用意してくれた宿の一室にあるベッドに腰かけて一息吐く。
「いやあ、アレは――海神の槍はヤバいな、アブさん」
そこで漸く、アブさんに話しかけることができた。
何しろ、多くの人と行動を共にしていたため、アブさんと話せる機会が中々なかったのだ。
どこにでも人の目があって厳しかったのである。
俺が変な目で見られるのは別にいいが、アブさんの存在を匂わせるようなことはなるべくしない方がいいだろう。
アブさんもそのことはわかっているので、人が多い時は緊急時以外は話しかけてこない。
「かいじんの槍? あの海賊の女性が持っていた武骨な武器のことか? あれは槍なのか?」
「ああ、そうか。知らないよな。そう。それで合っている。海の神と書いて海神だ。それと、槍で間違いない。槍っぽくないが」
「それはまた、神の名を冠する槍とは……普通なら分不相応だと思うところだが、あの威力を見せられるとな。某であっても、まともに食らえば一撃で終わるかもしれない。まあ、まともに食らえば、だがな。しかし、アルムよ。あの槍の名をよく知っていたな」
「ああ、それはウィンヴィさんの記憶の中にあった。でもまあ、あれはその名が示すように海においては絶大な力を発揮するが、逆にそれ以外だとただの大きくて重い槍でしかない。だから、いざという時は海から離れればいい」
「……随分と詳しくわかっているのだな」
「まあ、な。ウィンヴィさんにも色々あるってことだ。とりあえず、アブさんは姿を隠せてもそこに存在しているから、海神の槍が投擲された時に当たらないように気を付けてくれ」
「そんなヘマはせんよ」
「………………」
「………………本当に気を付けようと思う」
「そうしてくれ」
本当に気を付けるに越したことはない。
これからも一緒に居たいからな。
しかし、気になるのは海神の槍だけではない。
アレは本来、誰にでも使えるような代物ではないのだ。
となると、ドレアには海神の槍を使う資格があるってことになるが……まさか、な。
もし、そうなら……と考えている内に寝た。
―――
翌日。
詳しい話を――と言っていたので、ハーフェーン商会に行こうと思っていたのだが、既に迎えが来ていた。
前の時と同じく、ジェリ・ハーフェーンである。
「えっと……」
「どうぞ。気軽に呼んでください。何しろ、あなたのおかげで父が救われたのですから。それだけではなく船員たちまで。ハーフェーン商会の恩人です」
「いや、それは……」
どちらかと言えば、ドレアが率いる海賊団の方が海の魔物という脅威から直接救った――と思わなくもないが、当人がそう言っているので、とりあえず「さん」付けでいこう。
ハーフェーン商会に着くまでの間に、俺にちょっかいを出そうとしている商会について聞いたが、あれからそんなに時間が経っていないということもあって、まだ解決自体はしていないそうだ。
今も念のために裏道のようなところを進んでいるし、ジェリさんが迎えに来たのも、その辺りを警戒して、といったところだった。
「ですが、そう心配する必要はありませんよ。少なくとも、しばらくの間はイレート商会だけではなく、どこも大忙しになるでしょうから。そのような暇はありません」
何か起こるようだが、それは後程わかりますと言われ、そのまま付いていく。
前回と同じく裏から入り、案内される部屋も同じ。
違うのは、そこにオセアンさんだけではなく、マレハダさんも待っていたということだろうか。
マレハダさんから改めてお礼を言われたあと、オセアンさんからも感謝の言葉をもらい――当然、それで終わりではない。
先ほどまでは穏やかな雰囲気であったが、今は少しビリつく雰囲気の中、オセアンさんが口を開く。
「こうしてマレハダを救い出していただいたのに、こちらはまだイレート商会の件も、陛下と会うという願いも叶えられていない中、改めて協力をお願いするのは不躾で恥知らずであるというのは重々承知しているのですが……」
この時、なんとなくだが、何をお願いされるのか、なんとなくわかる。
「これから私たちは近海最大勢力である海賊団――『ドゥラーク海賊団』とことを構えることになるでしょう。できれば、そのお手伝いを願えないでしょうか?」
だろうな、と思った。




