運も実力の内ということで、狙ってやりました
再び水柱が高々と上がる。
ただ、それは上がっているというよりは、先を行く何かが引き連れているかのようにも見えた。
それが何か――先ほど駆け抜けて魔物数体を貫いたモノが何か――その姿を現わす。
――槍、だった。
ただ、それを槍と言っていいのかはわからない。
穂先が大剣のように長く巨大で、持ち手の柄部分が人の身長並に長い。
柄が長いからこそ槍だと思えるというか見えなくもないが、特にこれといった装飾もなく、武骨な様相である。
けれど、それは間違いなく槍。
少なくとも名称は。
――「海神の槍」。
そう呼ばれる槍だと、風のウィンヴィさんの記憶が教えてくれる。
海神の槍が、まるで意思があるかのように飛来してきた元の方向へと戻っていく。
まさか、アレを使える者が居るのか。
「あの槍は! となると!」
捜索船の船長さんが大慌てで海神の槍が戻っていく方向に視線を向ける。
合わせるように、俺もその先を目で追う。
海神の槍が戻っていく先にあったのは、船。
船首に槍を持つ女性の彫像が付けられ、左右の舷側にはいくつもの砲門が飛び出し、三本のマストを持つ巨大な船――おそらく、戦闘船である。
砲門は、魔力を込めるだけで火炎弾を放つことができる魔道具であると、これも風のウィンヴィさんの記憶が教えてくれる。
そして、船首の上に立っていた女性の手に海神の槍が収まる。
あと、その船の甲板にも多くの女性が居て、全員武装しているように見えた。
「間違いない! 『青緑の海』だ!」
船長さんの言葉に他の船員たちも同意を示す。
いや、そっちだけでわかっていないで、俺にも教えてくれ。
正直、俺とアブさんは、え? どういうこと? と付いていけていなくてオロオロしそうなんだが。
わからないなら、聞けばいいと船長に尋ねる。
「何者だ?」
「海賊だ!」
「海賊? なら、敵か?」
「いや、敵ではない……だが、味方でもない!」
それがどういうことかを問う前に、新たに現れた海賊……団が動き出した。
海の魔物を前にしても臆することなく進んでいて、再度海神の槍が投擲される。
先ほどと同じく海の魔物を数体貫いて、女性の手元に戻っていく。
「海賊なのに敵でも味方でもないってどういうことだ?」
海賊団が海の魔物の相手をしている間に、船長さんに改めて問う。
今聞かないと、あとで取り返しのつかないことになるかもしれないと思ったからだ。
「あ、ああ、あいつら――『青緑の海』は、海賊を狩る海賊なんだ。商船も、あくどいことをするところしか襲っていない。ただし、こちらに協調している訳ではない。その気配すらない。何かしらの目的はあるかもしれないが、独自に動いている海賊の一団だ」
「なるほど。こちらの指示に従う訳ではないから、敵でも味方でもない、か。なら、ここに現れた目的はわかるか?」
「さあな。時々、海の魔物を相手にしているのを見かけた、と言うヤツも居たし、戦闘訓練……あるいは、第三船団の拠点だからそこに溜め込んだ宝でも奪いに来たか」
どのみちわからない、か。
まあ、向こうからこちらが見えているにも関わらず襲撃してこないのは、まずは海の魔物を相手にする、ということだろうから、今は放っておいても大丈夫かもしれない――と思ったが、認識が甘かった。
こちらに協調しないということは、こちらの事情を鑑みないということだ。
戦闘船が曲がり、左舷側を海の魔物の方に向ける。
「てえー!」
海神の槍を持つ女性の合図と共に、戦闘船・左舷側にあるすべての砲門から火炎弾が放たれる。
狙いは、宙を舞うクラゲの魔物のようだ。
一度だけではなく、何度も火炎弾が放たれる。
クラゲの魔物の方も一発なら耐えられるようだが、数度当たると駄目なようだ。
そこに海神の槍も投擲されてきて、見ようによっては一方的に見える。
ただ、問題が発生。
戦闘船はとまっている訳ではなく、動きながら砲撃しているのだ。
そして、位置的に非武装の人たちが武装した者たちによって盾にされているのが見えていない。
そのため、下手をすれば火炎弾が島に居る人たちに襲いかかってもおかしくない――というか、今まさにという感じで――。
「させるかよ!」
俺は竜杖に乗って飛び出し――。
「ついでにやられとけ! 『緑吹 振るわれるが目に見えず あらゆるモノを断ずる 鋭き一閃 風刃』」
そうした方が狙いを定めやすいので、片手を剣のように振るう。
ミスった。
咄嗟で魔力制御が甘くなり、魔力が過剰に流れてしまう。
振るった手の範囲以上の大きな風の刃が一直線に飛び出し、島に居る人たちに当たりそうになっていた火炎弾の数発と、ついでにクラゲの魔物を裂き、それでもとまらず島の自然である木々まで裁断して、地面に大きな傷跡を作ってしまった――で終わればまだ良かったのだが、振った手の範囲から飛び出したのは大きな風の刃だけではなかった。
文字通りの荒れ狂う風の刃が無数に飛び出し、上下左右、広範囲に渡って風の刃が裂き乱れる。
大きなタコ足を散切りにし、クラゲの魔物は言うまでもない。
また、海の中にも届いていたようで、魔物による血の海が広がってしまう。
……こわっ。
本当に幸いだったのは、島に居る人たちのところは綺麗に避けていた、ということだろう。
……いや、違う。
狙ってやりました。
……守ろうとしたのに危うくやってしまうところだった。
ホッと安堵を吐くのと同時に冷や汗を拭――おうとして、背筋がゾワッとする。
強い視線を感じ、感じる方に視線を向ければ――そこに居たのは、海神の槍を肩に担いでいる女性が居た。




