邪魔だからその都度退場してもらう
貨物船に乗っていた海賊たちを集めて縛り上げていく。
縄に関しては、貨物船に大量にあったので問題ない。
多分、海賊たちが使う予定で載せていたのだろう。
それが自分たちに使われることになるとは思っていなかっただろうが。
「アルムよ。締め方が甘い。それでは逃げられてしまうぞ」
アブさんが縛り方について助言してくれる。
そうなのか? と教わりながらしっかりと手足を……後々うるさくなりそうなので、ついでに口にも縄を噛ませて縛っていく。
もちろん、協力できないように、一人一人離れた位置で柱なんかに繋ぎとめておいた。
船長らしき海賊は帆の柱に括り付けて縛るが、口には縄を噛ませていない。
色々と情報を得るためだ。
ただ、情報を得るだけなら船長だけで充分かもしれないが、他の者も必要になるかもしれないと念のため生かしておく。
まあ、どのみち王都・ポートアンカーに連れていくので、そこで捕まることになって、死よりもつらいことになるかもしれないが……まあ、自業自得だろう。
「て、てめ……よ、よくも、やり、やがったな」
そこで、海に落とした数名が戻ってきた。
まだ他のを縛っている最中で邪魔なので、もう一回海に叩き落とす。
「て……こら……」
また戻ってくるが、こっちもまだ縛り終わっていないので、再度叩き落とす。
「………………」
今度は黙って戻ってきたようだが、アブさんが知らせてくれたので、何かされる前にもう一度叩き落とす。
もう少しで縛り終わるから待ってろ。
「うっ……ぐす……もう、許して、ください……大人しく……縛られるので……」
泣きながら懇願してきたので、そうすることにした。
全員を縛り終えて、船長を叩き起こす。
「ふごっ! ……ここは……あ、お前は! ん?」
船長が自分と周囲を確認する。
自分の状況、それと周囲の状況も理解したようだが……何故か余裕の笑みだ。
「ふんっ! これで勝ったつもりか? 大人しく縄を解いて俺たちを解放した方がいい。でないと、後悔することになるぞ」
「後悔? するとでも?」
「当たり前だ。俺たちを誰だと思っている」
「誰だと言われても……知らん」
「俺たちはな! 近海最大勢力を誇る『ドゥラーク海賊団』の第三船団員だ! どうだ! 恐れ入ったか!」
「………………いや、知らん。ドゥ……なんだっけ?」
「『ドゥラーク海賊団』だ! 近海最大勢力の『ドゥラーク海賊団』!
首を傾げる。
こっちは、海洋国・シートピアに来てまだそんなに経っていないんだ。
そんな知っていることが前提で言われても正直知らないものは知らない。
それに、最大勢力とか言われても、正直俺一人でどうにかできると思う。
相性の問題というか、空を飛べるってやっぱりそれだけ強い。
最大勢力で来ても上空から魔法連発で船ごと一方的に潰すことができるし、拠点も最大火力でいけば諸々終わらせられると思う。
「いや、アルムよ。何を考えているかなんとなくわかるが、アルムの魔力でそれをすると、おそらく中にある宝物とかすべてなくなってしまうぞ」
アブさんが俺だけに聞こえる小声でそう指摘する。
ああ、確かにそうだ。
それはもったいない。
でも、わざわざ相手にするのも面倒――となんでもないように考えていると、まったく恐れていない俺の態度が癇に障ったのか、船長が喚き出す。
「い、いいから、さっさと俺たちを解放しろ! でないと、死ぬよりも酷い目に遭わせるぞ!」
「いや、状況的にどうやって俺に酷い目を遭わせる気だよ。どう考えても、遭うのはそっちだろ」
「あっ、いや、それは……ええい! うるさい! わかっているのか! 少しでも傷を付ければ、『ドゥラーク海賊団』を敵に回すことになるぞ!」
なんというか、非常に間抜けな感じだ。
縛られている海賊たちの中で起きた者は、こいつは駄目だと、どこか呆れた目を船長に向けている。
俺もそう思う。
この調子だと何を聞いてもまともに答えないだろう。
なので、ボカッ! と竜杖で船長の頭部を叩いて気絶させ、他の海賊と同じように縄を噛ませる。
さて、静かになったのはいいが、これからどうすればいいか………………人手を呼ぶか。
ここに目的の人物が居ないということは間違いなく居るのは海賊の拠点だろうし、そうなると人手は多い方がいい。
でも、そのためにはアブさんと少し相談が必要なので、竜杖に乗って上空へ向かう。
海賊たちは身動きできないし放置で問題ない。
「どうした? アルム」
アブさんが不思議そうに尋ねてくる。
「一つ確認したいんだが、ここから離れたとして、また戻ってくることはできるか?」
「ん? できるが……ああ、他から人を呼ぶのか。確かに、某とアルムだけだと人質が多い場合面倒だしな。それに、ここから向かった方が早いだろうし。呼ぶのはあの捜索船の者たちか?」
「そういうこと。案内をお願いできるか?」
正直言って、俺だけだと無理だ。
アブさんが快く了承してくれたので、そのまま向かうことにした。
まあ、そう時間をかけずに戻ってくるつもりなので、海賊たちはあのままで大丈夫だろう。
辺り一面が海なので真っ直ぐ進んでいるかどうかわからないが、体感的には真っ直ぐ進んでいるようなアブさんの案内に付いていくと、あっという間に捜索船と合流することができた。
また、運がいいというか、周囲に他の船は見当たらない。
俺は直ぐに船上へと下りて、捜索船の船長さんに簡潔に説明し、どういった意図であるかも伝える。
捜索船の船長さんは直ぐに案内して欲しいとお願いされたので、竜杖に乗って先を進むような形で誘導しようと思ったのだが……やはり竜杖での移動と比べると船速は遅い。
なので――。
『イィィエアァァァ……!』
捜索船に乗る一部の船員たちが熱狂する事態となったが、後方から風属性魔法を放つ誘導に切り替える。
かなり荒い移動手段のはずなのだが、何故か捜索船の船長は船首に立って大喜びであった。
落ちても知らないぞ。
幸いなことに脱落者は居らず、無事に貨物船に辿り着く。
一応、アブさんに調べてもらったが、海賊たちは全員縛られたままだった。
あとのことは任せて、俺は捜索船の方で休むことにする。
厳しい尋問にかけて情報を引き出すと言っていた。
相手は海賊だし、そこに容赦はない。
ほどなくして、捜索船の船長が戻ってきて情報を伝えてくる。
「どうやら『ドゥラーク海賊団』の第三船団というのは間違いなさそうだが、まだ全体が関わっている訳ではないようだ」
「というと?」
「要は、あいつらは目先の欲に取らわれて独断専行中ってことだ。マレハダさまたち――貨物船の船長含む船員たちも、今はあいつらの拠点に捕らえていて、あとで身代金をふっかけようとしていたそうだ」
「つまり、生きている」
「ああ。幸い、『ドゥラーク海賊団』全体を相手にする訳ではないし、このまま救出に向かうつもりだが、良ければ同行してもらえないだろうか? 単身であいつらを捕らえたキミの戦力は大いに頼りになる」
実際はアブさんの協力あってだが、その申し出を受けることにした。
海賊の拠点か……そういえば、初めて行くな。




