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賢者巡礼  作者: ナハァト
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寧ろ使えば沈みます

 アブさんのおかげでハーフェーン商会の貨物船を見つけるができた。

 しかし、その貨物船は既に海賊に乗っ取られ――いや、奪われていて、海賊しか乗っておらず、元の乗組員は船内のどこにも居なかったとアブさんは言う。


「……どう思う? アブさん」


「まあ、普通に考えれば皆殺しに遭ったと考えてもおかしくないが、その割には船が綺麗過ぎたな」


「どこか別のところに捕らわれている可能性がある、か」


 さて、どうしたものか。

 これまでの海賊退治と同じように港まで風属性魔法で貨物船を吹き飛ばしてもいいのだが、問題は捕らえられているかもしれない人たちだ。

 港まで運べば当然目立つし、目立った行動によって捕らえられているかもしれない人たちが殺害されても困る。

 捕らわれている人たちは居ないと割り切ってもいいが……多分居るだろうな。

 アブさんも居ると判断しているし。

 となると――。


「……仕方ない。港まで戻るのも時間の無駄だし、今ここでやってしまおう。面倒だが、その方が早いだろうし、動きやすい。情報を得るために数人は残しておかないとな」


「なんなら、某がしようか? こう、即死魔法でパパっと」


「いや、だから、数人は必要だと……」


 そこで思い出した。

 ソイソースを使った魚料理を味わっている時に、筋骨隆々な店主から魚の締め方も聞いたのだが、それを即死魔法でやれば……いや、血抜きも必要だし、傷を付けずにやるのは無意味かもしれない。

 いい方法だと思ったが……いや、違う違う。今は目の前のことに集中しよう。

 情報が欲しいので即死魔法はできるだけ行わないように言及してから、貨物船に突撃する。

 勢いは緩めずに空から強襲し、まずは突っ込んで適当な人員を掴んで引っ張り、ついでに進路上に居る人員にも突っ込んでいく。

 相手は突然のことに身動きが取れず、竜杖がめり込むように突き刺さって吹き飛んで貨物船から落ちる。

 こちらは勢いを抑えずにそのまま進み、船から海に飛び出したところで掴んでいたのを落とす。

 これで二人脱落。

 自力で上がるか、誰かに助けられるかはわからないが、向こうにとっての手間になるのは間違いない。


「な、何事だあ!」


 船上に居る誰かがそう叫ぶ。

 誰かが気付く前にもう一度同じことをしてさらに向こうの人数を減らした上で、俺は船上に降り立って竜杖を構える。


「なんだあ! てめえ!」


「この状況で相手が誰だとか聞く必要があるのか?」


 敵しか居ないと思うが?

 別に答えは求めていないので、気にせず動く。

 もちろん、今の俺の体は相手に比べて貧弱なので、筋肉痛にならない程度に身体強化魔法をかけて、だ。

 海賊が動き出す前に竜杖を振るって追加で二人ほど海に落とす。

 そこで、漸く海賊が動き出す。


「てめえ! 死んだぞ!」


「いや、まだ生きていますけど? 生き続けますけど?」


 素直に返答したら、顔を真っ赤にして海賊の一人が剣を抜いて襲いかかってくる。

 振るわれる剣を竜杖で軽く弾いていなし、隙を突いて一歩前に出ると同時に海賊の手を上からバシンと叩く。

 痛みで剣を手放す海賊。

 俺はくるっと回って勢いを乗せた竜杖の石突部分で海賊の顔を殴打。

 振り抜き、足で蹴り上げて竜杖の軌道を上昇に変えて、そのまま振り下ろしによる殴打を食らわせる。


「ぐほっ!」


 骨の折れるというか砕ける音が響き、感触が竜杖を通して伝わってくる。

 食らった海賊は悶絶の表情を浮かべて気絶した。

 斬撃はスパッとした痛みが走るが、打撃ってこう中に残る痛みというか……まあ、どちらにしても痛いことに変わりはないか。

 確かなのは、どっちにしても嫌ということである。

 杖術の練習成果が多少なりとも出ているだろうか? と思うのだが、竜杖の竜部分の顔を見ると、まだまだ練習が足りない、と不満げに見えた。

 ……本当に意思はないんだろうか?

 そして、未だ身体強化魔法頼りなのは間違いないが、杖術の練習も兼ねて魔法は一切使わない。

 というより、身体強化魔法以外でどうにかしようとすると、多分この貨物船は沈むことになる。

 寧ろ、沈ませない方が難しいのは間違いない。

 なので、魔法は使わない。

 危ない時は身体強化魔法を一時的にさらに強化して対処する。

 船上で十人近くをすべて竜杖による殴打で倒す。

 罵詈雑言を上げながら襲いかかってきてくれて、腕前自体は大したことがなかったので直ぐ終わった。

 そして、船内へ。

 海賊の位置はアブさんが把握しているので、物陰からの奇襲といったことがなく、寧ろ奇襲しようとする時は大抵その当人が無防備みたいなモノなので、わかっていれば対処は楽だ。

 船内を駆け、他に十人近くの海賊を倒し、最後に船長らしきドクロマークの入った帽子を被った海賊と対峙する。


「ま、待ってくれ! 俺は海賊じゃない! 元々ここの船員だ!」


 いや、せめて自分の風貌と恰好を変えてから言えよ。


「ちっ、騙されないか。だが、時間は稼いだ! おい! 誰かコイツを殺せ!」


 いえ、もう誰も救援には来れません。


「くそっ! どうして誰も来ない! こうな」


 言い切る前に、竜杖でゴツン! と頭部を叩いて黙らせた。

 ふう。これでこの船は俺の物だー! と竜杖を掲げ――冷静になって直ぐに下ろす。

 さっ、面倒だが海賊たちを一か所に集めるか。

 それから色々と話を聞こう。


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