できなくたって恥ずかしくない
海、広い。
そんな当たり前のことを、空を飛んでまで理解してしまった。
本当に広くて困る。
今はまだ陸地が見えているからどうにか自分の位置がなんとなくわかるのだが、全方位が海になると間違いなく迷う。
海図も本当に助かっているが……こんな調子でハーフェーン商会の船を見つけることができるだろうか。
出発してからそれなりに時間は経っていると思うが、貨物船も捜索船も見つからない。
船自体がない訳ではないのだが、ハーフェーン商会の印章が描かれている帆というのがわかりづらい。
というのも、他にも帆に印章のようなモノが描かれているのだ。
どの船も自らの所属を明らかにするためというのはわかるが……正直判別が難しいのもある。
しかし、協力すると言った以上、どうにか見つけたいが……せめて、捜索船の方でもいいので見つけたい。
「大丈夫か? アルム。海図ばかり見ていては船を見逃してしまうかもしれないぞ」
「わかってはいるんだが、初めて見るモノでまだ感覚が掴めないんだ。一応、見方は教えてもらったが……」
それに、風のウィンヴィさんの記憶の中に海図を読み解いている部分があるのだが、それを自分に落とし込むことができない。
記憶を受け継いで直ぐ魔法が習熟していないのと同じように、技能とかそういうのは記憶があっても実際に使う俺自身に身に付いていないと駄目なのかもしれない。
「ふむ。そういうことなら某が見ようか?」
「え? 見れるの?」
アブさんから手を出されたので海図を渡す。
何かを読み解くように、顎を指先で弄りながら海図を眺めるアブさん。
「……うむ。読めるな。ダンジョンマスターとして与えられた知識の中に、海図を読む知識がある」
「それは……普通にすごいな」
けれど、よくよく考えてみれば、アブさんのダンジョンにも疑似的だが海があった。
そこら辺の知識があるからこそだろう。
俺は一つ頷く。
「なら、海図はアブさんに任せてもいいか?」
「ああ、問題ない。この海図には貨物船、捜索船の予定航路も描かれているし、まずはその通りに進んでみようか」
「任せる」
俺にはさっぱりなので。
いや、時間をかければ海図も読めると思うが、今はほら時間がないから仕方ない。
できるだけ早く見つけた方がいいのは間違いないのだし、できる人に任せよう。
そうして、アブさんに任せて直ぐ――。
「見つけた。アレではないか?」
いやいや、まさか――と確認してみると、確かにハーフェーン商会の印章が帆に描かれている船があった。
先ほどまで見つけられなかった俺はなんなのか……。
少し落ち込みつつ、こういうことも勉強した方がいいな、と考えながらハーフェーン商会の船に向けて下りていく。
俺が空から現れて船上が騒然というか慌ただしくなって武装までされたが、直ぐ船に下りるようなことはせず、船長らしき人と対話して味方だとわかってもらうために、割符を渡して確認してもらう。
敵ではないとわかってもらい、状況確認。
これは目的の貨物船ではなく捜索船の方だった。
貨物船の方は、こちらもまだ見つけていないそうだ。
残念ではあるが、ここからは協力してあたることができる。
捜索船はこのまま貨物船の予定航路だったところを進んでもらい、俺はそこから外れたところを探すことになった。
海図を見せられながら説明されたが……理解しているように何度か頷いて見せる。
実際は……まあ……うん。半透明のアブさんが俺の隣で聞いていたので大丈夫だろう。
俺に向けて親指を立てていたし。
そうして、アブさんと共に再び空に戻り、より沖の方へ。
いや、正確にはアブさんに付いていくような形だが。
時々休憩を挟み、アブさんが現在位置の確認のためにとまったりと、それなりに時間が経ったが、漸く見つけることができた。
帆にハーフェーン商会の印象が描かれている船が航海している。
捜索船ではない。
荷が載っているので貨物船だ。
方向的に王都・ポートアンカーの方に向かっているようだが……。
念のため直ぐには下りずに、上空の見えない位置――雲の中に待機して様子を窺う。
「……なあ、アブさん。さすがに、どうだろうか?」
「いや、疑って当然だろう。姿を消していた船が再び姿を現わそうとしているのだ。それに、正確に言うのであれば、あの方向は確かに王都の方だが、僅かながらズレている。ズレたまま進んだ先は――多くの船が行き交う海路にぶつかるようだ」
「となると。これは――」
「ふむ……某が見て来よう。どうせ、アルム以外には見えないのだからな。ここで少し待っていろ」
「ああ、任せた」
アブさんが下りていき、貨物船の様子を窺いに行く。
俺は見つからないように雲の中から出ずに待つ。
思っていたよりもアブさんは早く戻って来て、貨物船内の様子を告げる。
「ここ数日見たような者たち――つまり、海賊しか乗っていないな。このまま商船を襲いに行くと馬鹿みたいに騒いでいる」
やっぱり、そうなっていたか、と思った。




