気軽に話せる相手と環境って大事だよね
ハーフェーン商会に協力すると決めたからといって、まだどういった協力なのかわからない。
協力内容によってはまた考えることになると思うが――。
「それで、俺に協力して欲しいことってのはなんだ? 空を飛ぶこととどう関わってくる」
「その前に、こちらの事情に少しばかり協力していただけないでしょうか?」
オセアン・ハーフェーンがそう言ってくる。
口振りから判断するに、二つ商会が共通している目的とは別のことのようだ。
「どういった事情だ?」
「私の……息子の命がかかっているかもしれない事情です」
………………。
………………。
「息子……の命?」
なんか急に話が重くなった気がする。
「はい。私の息子。そして、ジュリの父親です」
いや、孫なんだから、それはそうだろうよ。
「どういうことだ?」
さすがに命がかかっているとか言われると、こちらも慎重になるのだが。
話はこうだった。
オセアン・ハーフェーンの息子である「マレハダ・ハーフェーン」はハーフェーン商会所有の貨物船に乗って海運による輸送を行っていて、魔道具を用いてここと連絡を取り合っていたのだが、三日前からその連絡が取れなくなったそうだ。
つまり、行方不明の状態となっていた。
「魔道具が壊れたとかじゃないのか?」
「一つだけであればその可能性は充分に考えられますが、そういう時のために修理道具を持たせていますし、マレハダは修理技能も得ています。それに、念のために連絡用の魔道具は二つ持たせているのですが」
「どちらにも反応がない、と」
オセアン・ハーフェーンがその通りだと頷く。
なら……。
「……魔道具はなんらかの理由で使えなくなったが、既にこっちに向かっていて、まだ着いていないだけという可能性は?」
オセアン・ハーフェーンは首を横に振った。
「もちろん、その可能性も考えましたが、たとえ魔道具が二つとも壊れてしまったとしても、普通に航海していれば既にここに着いているのです。それに、昨日捜索、あるいは迎えの船を出したのですが、未だ見つかっていません。マレハダだけではなく、船すらも」
「それは、何かあったと考えてもおかしくないな。何もなかったのなら、それでいいが……その捜索に協力して欲しいということか?」
「はい。空からであるならば、見つかる可能性が大いにあると見込んで……お願いできませんか?」
オセアン・ハーフェーンが頭を下げてくる。
ジェリ・ハーフェーンも。
……なんとしてでも家族を救いたい気持ちはよくわかる。
なので、受けることにした。
―――
ハーフェーン商会所有の貨物船と捜索船には、ハーフェーン商会だとわかるように、帆に印章が染められているそうだ。
貴族の馬車に印章が刻まれているのと同じようなモノだろう。
その印章がどのようなモノかを教えてもらい、それと一緒に二つの物が貸し出される。
一つは、割符。
二つで一つの符になっている物で、素材は色々あるが渡されたのは鉄札だった。
これは、行方不明となっているマレハダ・ハーフェーンと、捜索船の船長が持っているため、確認のために持たされる。
まあ、奪った物という可能性もあるのはあるが、少なくとも持っていなければ信用ならない相手ということだ。
もう一つは、海図。
貨物船がどのように進んでいたはずだという経路と、連絡が取れなくなった付近に丸印が付けられている。
情報として助かるのは事実だが、普通こういうのは秘匿されるモノであって、貸し出していいモノではないが、それだけマレハダ・ハーフェーンを見つけたいということだろう。
その思いは伝わった。
あと、今回は人の命がかかっているかもしれないので、出し惜しみはなしにする。
「俺はマジックバッグを持っている。もしものための必要な食料や水、物資を持っていけるが?」
オセアン・ハーフェーンの行動は早かった。
商会の力を使い、直ぐに必要な物資が用意されて、俺はマジックバッグの中に入れていく。
元々必要な物はマジックバッグに入れているのだが、所詮は個人分だけなので、これで大丈夫だろう。
準備が整うのと同時に、俺は直ぐに出発する。
ハーフェーン商会の建物の屋上から飛び立ち、港の方へ。
途中、港に向かっている時に、如何にも荒くれ者といった連中が俺に向かって何か叫んでいたが、無視した。
多分、あれがイレート商会の関係者だと思う。
そのイレート商会については、俺が捜索に出ている間にハーフェーン商会の方でどうにかするので、戻ってくる頃には自由に動けるようになっていると、オセアン・ハーフェーンが約束してくれた。
そのまま港から海に出て、沖まで一気に飛ぶ。
台座を用意すれば人を乗せて運ぶこともできたのだが、正直そこまでする気はない。
連れていくのが面倒というのもあるが、一番の理由は――。
「悪いな、アブさん。勝手に決めてしまって」
「構わんよ。海は初めてで楽しいしな。それに、あのままだとアルムは満足に動けなかったのだ。それを解消するためだと思えば、どうということはない」
誰かが居るとアブさんと気軽に話すことができないからである。
そして、まずは海図を頼りにして、ハーフェーン商会の船を探すところから始めた。




