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賢者巡礼  作者: ナハァト
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感性は人それぞれだと思う

 食堂のおばさまと話していると丁度お昼時になり、食堂内が慌ただしくなってきた。

 おばさまも俺と話している暇もないくらいに忙しくしている。

 何しろ、食堂は満席だ。

 なので、俺も食事を再開して食べ終わろうかという時、おばさまが俺に向かってくる。

 忙しいのに、そんなに俺と話したいのだろうか?


「あんた、何をやったんだい? いや、詮索しても意味はないね。それより、面倒になる前に逃げな」


 そう言って、おばさまが食堂の裏口を示してくる。

 ……え? いや、意味がわからない。

 そもそも、何もやっていないのだが?

 しかし、おばさまの表情は真剣である。

 俺を騙そうとか、そういうことではなく、純粋に善意によるモノだと感じた。

 何かが起ころうとしているのは間違いない。

 おそらく、このままここに居るのは良くないだろうし、それに、この食堂にも迷惑がかかる可能性もある。

 それは良くない。

 良し。ここは言葉に甘えよう。


「意味はわからないがわかった」


 何が? と自分でも思うが、今はそこを気にしている暇はない。

 おばさまに誘導されて調理場の横を駆けて出ようとした時――。


「ここに妙な杖とローブを着た者が居るだろ! 怪我したくなければさっさと出て来い!」


「はあ? そんなヤツがどこに居るんだよ? 杖とかローブとか、持っているヤツなんていねえよ!」


「なんだと! 隠し立てするってんなら容赦しないぞ!」


「やれるもんならやってみろや!」


 食堂の方からそんな声が聞こえた。

 まさか、妙な杖とローブを着たというのは俺のことか?

 どこが妙だと文句を言いたいが、どうやら、俺を探しに誰かが来たのは間違いない。

 しかし、誰が? と頭を捻るが答えは出ず、その代わりという訳ではないが、食堂の方ではより喧騒が高まって飛び交っている。


「相手は知らないが、食堂に居た人たちは大丈夫なのか?」


「あいつらは大丈夫だよ。海の男だからね」


 おばさまは笑みを浮かべてそう答える。

 いや、そういうことではなくて。

 それとも、「海の男」というのは何かしらの特殊技能でもあるのだろうか?

 答えが出す暇もなく、裏口に辿り着く。

 そこに、男性が一人居た。

 黒髪黒目で、柔和な顔立ちに、仕立てのいい服を見に纏っている、二十代前半くらいの男性。


「彼が、あんたが狙われていると教えてくれたんだよ。それじゃあ、任せたよ」


「お任せください」


 その男性がおばさまに向けて綺麗な一礼をする。

 おばさまと男性に初対面感はないから、多分知り合いだと思う。

 しかし、問題は俺がその男性と初対面だということだ。

 おばさまは男性に俺を任せると、食堂の方へと向かっていく。

 途中、その手にフライパンを持っていたが、使うつもり――いや、使ったとしてどう使うつもりなのだろうか?


「事情は後程説明させていただきます。今はどうか私を信じて付いて来ていただけないでしょうか?」


「……今はおばさまを信じる。少なくとも、あのまま放置してもいいのに、何やら厄介事から逃してくれたようだからな。そのおばさまがあんたに任せると言った。だから、今はあんたに付いていく」


「ありがとうございます。それでは、見つからないように注意していきますが、念のためにこれを」


 男性が黒いマントを渡してきた。


「今はこれでその杖とローブを隠していただけますか?」


 なるほど。これで妙な杖とローブを隠せと……どこが妙な杖とローブだ!

 いや、目の前の男性が言った訳ではない。

 食堂の方で今も騒いでいるヤツらの方だ。

 というか、立派な杖とローブだろうが!

 妙な杖と言われて、こころなしか竜杖が怒っているような気がするのは、気のせいではない気がした。

 まあまあ、と宥めて、羽織った黒いマントでローブを隠し、竜杖もマントの中で持つようにする。


「それでは、私のあとに付いて来てください」


 そう言って、男性が裏口から出て左右確認。

 ……いや、その前に、誰に見つからないようにすればいいのか教えて欲しい。

 それだけ焦っている、ということだろうか?

 その説明もあとであるのだろう。

 男性が問題ないと頷いたので、俺も裏口から外へ。

 裏の細道には誰も居らず、ついでにチラリと上空を確認。


「……」


 グッ! と親指を立てるアブさん。

 どうやら見逃さなかったようで、ホッと安堵。

 上空からそのまま見ていてもらおう。


「では、行きます」


 先行する男性のあとを付いていく。

 裏道、細道だけではなく、悪路や屋根の上なんかも通りながら進んでいった。

 どこに向かっているかはわからないが、なるべく何か――誰かに見つからないように進んでいるのはわかる。

 それにしても、これはどこに向かっているのだろうか。それと、もう一つ。

 なんてことを考えていると、港部の中では造船所に次いで大きな建物の裏手に辿り着く。


「ここです」


 男性がそう言って中に入っていくが……ここがどこかは、あとで一緒に教えられるだろうと思い、あとを追って俺も中に入っていった。


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