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賢者巡礼  作者: ナハァト
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理由はなんだっていい時がある

 海賊が現れたようなので、実際に見に行ってみる。

 俺以外にも見に行く人が多く、人の流れに合わせていけば問題なかった。

 着いたのは、港。

 多くの船が泊まり、荷が大量に積まれている。

 その沖――といっても、かなり沖の方。

 豆粒くらい小さく見えるくらい遠いところで、船の一艘が別の船に追われていた。

 逃げている方はどうにかこちらに来ようとしているようだが、風が向かい風であり、船速も追っている方が速い……ように見える。

 追いつかれるのは時間の問題だろう。

 つまり、襲撃されるのも。


「海賊で間違いないのか!」


 誰かが確認するように叫ぶ。


「間違いねえ! 後ろの船のヤツら、全員武装してやがる!」


 誰かがそう答える。

 いや、ここからそれが見えるの?

 目、いいな。

 チラリ、と空中を漂う半透明のアブさんを見ると、間違いないと頷きが返される。

 アブさんも、目、いいね。


「今から船は! こちらからなら追い風だ!」


「間に合わねえよ! もう海賊船が直ぐうしろに迫ってやがる!」


「ちくしょう! 海賊め!」


 周囲がわいわい騒いでいる内に、さらに多くの人が集まって沖の様子を窺う。

 すると、その中に見知った顔を見つけた。

 筋骨隆々な店主である。

 今にも泣きそうな表情を浮かべていた。


「おい、どうした?」


「……え? あ、ああ、兄ちゃんか」


 声をかけると、俺をチラリと見たあと、筋骨隆々な店主は沖の海賊船から逃げている船をジッと見ている。

 その様子から察するに――。


「あの船に知り合いでも乗っているのか?」


「……あ、ああ。妻の商会の船だ……妻も乗っている」


 おっと、それは確かに心配だ。

 泣きそうな表情にも納得できる。

 ん? 待てよ。ということは……。


「あんたのところのソイソースってのは、もしかして」


「……ああ、妻が仕入れている」


「そうか……なら、助けないとな。美味かった料理の礼だ」


「は? え? ちょ、兄ちゃん!」


 筋骨隆々な店主が慌てるように声をかけてくるが、俺はすいすいと人の中を抜けて一番前へ。

 この港町に衛兵と思われる人たちが船を出そうとしているのが目に入る。

 間に合わないとわかっていても、出さずにはいられないのだろう。

 もしかしたら、という可能性もあるし、救える命だってあるかもしれない。

 その様子を見て……声をかける。


「衛兵たち。これから海賊船をここに持ってくるから、もっと人を集めて対応できるようにしておいてくれ」


「……は? 何言ってんだ、お前」


 船出の準部をしていた衛兵たちが俺を見て、その中の一人がそう答える。

 とりあえず、言うだけは言った。

 まあ、対応する準備ができていなかったら、俺の方でどうにかするか。

 竜杖に乗って空を飛ぶ。


「じゃ、よろしく」


 軽く手を上げて、返答が聞こえる前に出発して一気に加速する。

 まずは間に合うことが大切だ。

 アブさんが付いてきていて、声をかけてくる。


「どうするつもりだ?」


「どうするも何も、言った通りに港まで持っていく――いや、この場合は押し出す、という方がただしいか?」


 なんてことを言っている間に近付くことができた。

 近付くとよく見える。

 逃げる船は貨物船で、追う船は確かに海賊船だった。

 いや、言ってみただけ。

 海賊船自体は偽装の意味も兼ねているのは、そこらの船と特に変わらない。

 ただ、乗組員がまったく違う。

 海賊船の方は二十人ほど居て、全員武装している。

 中には矢を放ち、魔法を撃っているのも居るのだが、逃げる貨物船自体にはできるだけ傷を与えないようにしていた。

 多分、貨物船ごと奪い、そのまま荷を運ぶつもりなのだろう。

 貨物船の方も迎撃はしているが、人数差があり過ぎて効果は薄い。

 それに、最初に見えていた通り、貨物船が荷を積んでいる影響からか、速度は海賊船の方が速いため、いずれ追い付かれてしまうだろう――このまま何もなければ。

 俺は自身の存在を見せるように船の間を通り過ぎていき、海賊船の方の帆に向けて手をかざす。


「『緑吹 目に見えずとも存在し 目に見えずとも感じられ 目に見えずとも流れる 息吹ブレス』」


 これは、風属性魔法における初歩の初歩。

 なんてことはなく、ただ風を起こすだけ。

 普通はそよ風くらいだろうか。

 けれど、風力は注ぐ魔力によって大きく変わる。

 もちろん、俺はガンガン注いでいるため――強風が放たれる。

 あまり強過ぎると海賊船が転覆して後処理が面倒になるので、強くなり過ぎないように加減だけはしておく。

 海賊たちが俺に対して何かを言う前に強風が吹き、パンパンに張った帆が海賊船を強風が吹く方に無理矢理押して進む。

 いや、この場合は押し出されるだろうか。

 海賊たちは海賊船から落ちないように何かを掴んで必死に耐えている。

 俺はそのまま強風を放ち続け、海賊船を押し出しながら港の方へと誘導していく。

 ある程度まで近付くと風力を上げて一気に押し出し、海賊船が港の一部に衝突。

 衝突の勢いで海賊船が大きく傾き、海賊の多くが港に落ちる。


「よく来た。海賊共」


 海賊船が近付いてくるのが見えていたのだろう。

 俺が出た時よりも多くの衛兵たちが港に集まっていて、その中の一人が港に落ちた海賊たちに向けてそう言った。

 集まった衛兵たちは海賊たちの倍は居て、あっという間にボコ――捕縛される。

 海賊船に残っていたのも反撃しようとしたり逃げようとしていたが、俺が追加で強風を放ち、あっけなく海賊船から落ちて同様の結果を辿ることになった。

 海賊たちが全員ボコ――捕縛されると、集まっていた人たちがワッ! と盛り上がって喜びを露わにし、その中にいた筋骨隆々な店主は、俺に向かって大きな声で感謝の言葉を発してきたので、手を上げて応える。


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