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賢者巡礼  作者: ナハァト
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何故かバレそうになる時がある

 竜杖に乗り、空を飛ぶ。

 そんな俺の隣にはアブさんが居る。


「……アブさん。見てくれよ。このドラゴンローブの中の服。ボロボロだろ? 爆発したような状態だろ? それでも、ギリ着られるんだぜ」


「すまなかった、アルムよ」


「それに、結局ドラゴンローブで隠せるからな。ボロボロだって誰もわからない」


「本当にすまなかった……許してくれ」


 反省の色を見せるアブさん。


「……まあ、気持ちはわかる。それに、正直なところ、俺の中に着ている服が犠牲になっただけで済んでよかった。さすがに、アブさんのローブが破損すると不味いだろうしな。近付かないのは賢明な判断だよ」


「うう、すまぬ。しかし、その通りだ」


「たださ、一つだけ疑問なんだが」


「なんだ?」


「確かに爆発する洗剤だが……言葉にしてなんだそれ? と思わなくもないが、爆発する洗剤でそのローブに傷――穴って空くのか? 仮にもダンジョンマスターが着ているローブなんだし、特殊性があるとか、見た目以上に頑丈とか……何かあるんじゃないか?」


「確かに、普通のローブではない。某の力を高めるようなモノで、そこらの刃では傷一つ付かないように加工されている。しかし、あの爆発洗剤に耐えられるかどうかだと………………何故だろうな。普通は大丈夫だと思うところだが、不安しかない。絶対ではないと思えてしまうところが怖い」


 わかる、わかると頷く。

 女性陣スケルトン・レディースは恐ろしい、というのが共通見解となった。


     ―――


 次に向かうのは、風のウィンヴィさんの故郷。

 そこは、海に面した国であり、相当な数の離島、孤島を領土として持ち、海軍戦力は世界で最も高いと言われている。

 ――海洋国・シートピア。

 中立国を中心とした地図上では、南方にあるフォーマンス王国を越えて、大陸の端――南寄りの南西にある国である。

 なので、このまま向かってもいいのだが、折角進路方向にフォーマンス王国があるのだ。

 どうせなら、と少し様子を見ておくことにした。

 俺が出た時は、まだ内乱の影響で荒れているところがあったが、あれから数か月は経ったし、その時間分は落ち着いたように見える。

 王都はもっとわかりやすく、もう完全にいつも通りに戻っていた。

 フォーマンス王国の王となったテレイルの手腕が、それだけ優秀ということだろう。


「ここが、アルムの故郷か」


「まあ、国としてはな。正確にはここからもう少し離れた場所だが」


 半透明となったアブさんと共に王都を少し散策する。

 物珍しそうにアブさんはキョロキョロしているので、少し危なっかしい。


「ぶつからないように気を付けろよ」


「わかっている。そのようなヘマはしない」


 まあ、念のための注意であるし、アブさんもそんなミスはしないだろう。

 ……さて、これからどうしたものか。

 具体的に言えば、テレイルと会うかどうかだ。

 というか、そもそも会いに行ったとして、会えるのだろうか?

 何しろ、相手はこの国の王さまだ。

 会いに来ましたで会える――そんな気軽な存在ではない。

 ただ、テレイルからすればリノファの様子も気になるだろうし、そこら辺の近況を伝えるだけでも会う意味はあるんだけど……気がかりが一つ。

 王城にゼブライエン辺境伯とシュライク男爵がまだ居た場合……間違いなく発散させろ――体を動かしたいと言ってくる。

 ま、まあ、そうそう都合良く発散相手が居る訳ないし……。


「……ん? どうした? アルムよ。そんなに某を見て」


「い、いや……」


 アブさんの存在を知ったら、面白がってやり合いそうだ。

 しかも、そういう時のあの人たちの嗅覚は半端ではない。

 急に背筋が寒くなった。

 ……よ、よし。もう出よう。

 危険で危ない気がする。

 テレイルには……そうだ! 手紙でも出しておこう! そうしよう!

 今直ぐここから退散しようと、アブさんに言おうとした時――ガシッ! と両肩が掴まれる。

 左確認……ごつくて力強い手。

 右確認……細いがしっかりとした手。

 どうやら二人が俺の肩に手を置いているようだ。

 意図は明白。

 逃がさない。

 その証拠に、肩を掴まれているだけなのに俺を逃がさないとしっかりと押さえ付けている。


「いやあ、これはいいところで出会った。丁度、近場で魔物が溢れていると報告があってな」


「これなら短時間で行って帰って、時間的な余裕ができる」


 笑い合う二人。

 逃げられないのなら仕方ない。

 覚悟を決める。


「どうも、お久しぶりです。ゼブライエン辺境伯さま。シュライク男爵さま」


「『さま』付けなど堅苦しい。私たちとそなたの仲ではないか! はっはっはっ!」


「そうそう。私たちの中に遠慮は無用! はっはっはっ!」


「はっはっはっ!」


 乾いた笑いしか出てこない。

 どういう仲だよ、とは言えなかった。

 俺は二人ほど戦闘好きという訳ではないのだが。

 そうして、二人にお願いされたかどうかは憶えていないが、二人を近場に溢れているという魔物のところに運んで蹂躙するところを眺めたあと、王都に戻ってテレイルと会う。

 ゼブライエン辺境伯とシュライク男爵に挟まれている俺を見て大体の事情を察したのか、テレイルは苦笑いを浮かべたあとに歓迎してくれて、こちらもリノファのことを口頭で伝えることができた。

 楽しそうで何より、とテレイルは言っているが、楽しいだけではないということを俺は知っている。

 具体的には、最近だと俺の衣服が。

 ついでとばかりに、ドラゴンローブの中の衣服も新調しておいた。

 テレイルも俺と話すと気が紛れるというので、数日共に過ごす。

 ただ、怖かったことが一つ。


「……強者の気配が……いや、気のせいか?」


「……今、不意に……勘違いか?」


 存在を察知させないために気を配っていたアブさんを、何故かゼブライエン辺境伯とシュライク男爵は感じ取っていた様子が垣間見えた。

 独特の感性を持つ人たちって怖い。

 それでも、やはり故郷の国ということで少しはリフレッシュできた。

 また来ると告げて、今度こそと海洋国・シートピアに向けて出発する。


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