悩んだ時は遡ってみるのも一つの手
最初感じたのは、眩しさだった。
人工的なモノではない。
自然の光――暖かさを感じる陽の光だ。
眩しさに視界が慣れてきたので、周囲を確認する。
小さな部屋。
床に魔法陣が描かれ、火の灯っていないランプと一枚の紙が置かれている台があって、その横の壁に肩掛けカバンがかけられていること以外、これといって特徴はない。
窓からは雲一つない青空と木々が見えるので、森の中だと思う。
まずは、一枚の紙を確認。
最初に書かれていたのは、ここが世界最大ダンジョン――要は、ラビンさんのダンジョンだが、それがある中立国の国内にある森の中に、この小屋があるということだった。
この小屋自体はかなり隠蔽に力を入れたようで、姿を隠す結界の中にあって、その周囲には道を迷わす呪いなど、色々と手段を用いているため、まず見つからないそうだ。
それに、見つかってもこの魔法陣は俺専用で、魔法陣上で「転送」と言えば最下層の魔法陣と繋がって移動するような仕組みらしい。
補足のように書かれているのは、他の者には使えず、無のグラノさんたちも挑戦してみたが駄目だった。
非常に悔しがっていたことと、何事にもルールはあるってことだね、と記されている。
ただ、そこで俺は疑問に思う。
あれ? これって、俺も外に出たら戻れないんじゃ? だったのだが、そこも抜かりはなかった。
渡された竜杖に「帰還」と囁けば、この小屋まで自動で飛んでくれるそうだ。
ありがたいことである。
あと、肩掛けカバンについても書かれていた。
俗に言う「マジックバック」。
見た目以上の容量のカバンで、時間停止まで付いている最上級品だそうだ。
ただ、これは俺専用という訳ではないので、盗まれたりしないようにと注意書きがあった。
そんなマジックバックの中には、当面の間の食料、回復薬一式、地図、着替え……それと、俺の母さんへのお土産まで入っている。
念のため、確認。
食料は食料で、お土産はお土産。
着替えは今俺がドラゴンローブの中に着ているのと同じ物が二着入っている。
計画的に洗濯しないとな。
回復薬一式は、回復薬とか状態異常回復薬などが、それぞれ複数本用意されているのだが、一番の優れモノは地図かもしれない。
初めて見るが、これは世界地図だと思われる。
ただ、それだけではない。
「詳細」
世界地図を手に取り、魔力を流しながらそう言うと、変化が起こる。
世界が描かれていた地図が、俺を中心とした周囲一帯の現状の表示へと変わった。
何故それがわかるかといえば、俺の名前が書かれている点が中心にあって、周囲に小屋と森が描かれているからだ。
魔力を切れば、元の世界地図に戻る。
こちらも注意点として、俺専用という訳ではないため、燃えるとかでなくなるとかはいいのだが、盗まれたりはしないように、と同じく注意書きされていた。
あと、最後に「用事がなくても、顔見せだけでも来ていいから。困った時の相談でもいいよ。一人でできることも、一人で考えられることも、限界があるからね。それじゃ、頑張って」と書かれている。
ありがたいことだ、と一枚の紙もマジックバックにしまおうとして気付く。
裏面に何か書いてある。
――もし国の力が必要になったら、この国を頼ればいいよ。代々の国王とは友達だから――
………………。
………………。
意味がわからない。
いや、書いていることは読めるし、わかる。
でも、代々の国王と友達ってどういうこと?
ラビンさんって……もしかして、俺の想像以上にすごい人なのかもしれない。
あっ、ダンジョンマスターだった。
とりあえず、この一枚の紙も大事にした方がいいと思い、改めてマジックバックにしまう。
マジックバック自体はドラゴンローブの中で肩掛けしておく。
これで大丈夫だろうと、部屋を出た。
出た先は小屋のリビング。
キッチンと繋がっていて、他に机と椅子が置かれ、出入口と他の部屋に繋がっている。
他の部屋を確認すると、寝室とトイレと風呂。
ここで過ごすこともできるようになっているようだ。
……よし。ここを「ラビンさんの隠れ家」と名付けよう。
緊急避難先とかで使えそうだ。
そう決めたところで、外に出た。
自然が溢れているからこその澄んだ空気が俺の鼻孔をくすぐる。
視界一杯に広がる緑の森と大地。
その隙間から差し込む光は輝き、俺の行く道を照らしているかのようだ。
……まあ、歩いていくのではなく、飛んでいくつもりだが。
「さて、それじゃ、いきますか」
………………世界地図を取り出して確認。
あっちがアレで……こっちがコレだから……そっちがそうなって……確か、ラビンさんのダンジョンに来た道順を逆に辿れば……え? どっち………………ああ、わかった、わかった。
行き先がわかったので、早速竜杖を使う。
「飛翔」
言葉と共に魔力を流し、手放す。
竜杖は地面に落ちず、空中に浮かんだままでとまる。
恐る恐る立ったまま乗ってみるが、不思議と一体化しているかのような安定感があった。
これなら落ちることはないだろう。
この状態で、上昇・下降、前進・後退は俺の意思で動く。
「それじゃあ、出発」
竜杖に乗って、大空へと飛翔する。




