どれにこだわる?
竜杖に「帰還」と告げて、ラビンさんの隠れ家へ。
戻るまでは少し時間がかかるので、アブさんと会話しながらだ。
「アブさんの人見知りも、だいぶ緩和されたんじゃないか?」
ロアさんと一緒? ――というのは少し違うが、それでも行動を共にできたようなものだ。
「そ、そうか? ……ま、まあ、アレだ。某も外に出て刺激に満ちているからな。成長しているということだ」
うんうん、と頷くアブさん。
嬉しそうにしている。
俺も嬉しい――が、ここで急かしてはいけない。
じゃあ大丈夫だとこっちが勝手に判断してはいけない。
時間をかけて、ゆっくりと緩和されればいいと思う。
そうして、お互いにウッドゲート、王都・ツリーフでの思い話をしつつ、ラビンさんの隠れ家へと戻った。
前回の例もあるので、いきなり中に入るようなことはせず、居ないかもしれないけれどノックしてから扉を開ける。
誰も居なかった。
いや、これが普通。
前回が賑やかで、今はまだたった一回の出来事だが、少しだけ寂しさを感じた。
まあ、下に下りるまでの間の感情だが。
そうして、魔法陣に乗り、ラビンさんのダンジョンの最下層へ。
慣れ親しんだ通路を進み、多分皆が居るであろうボス部屋の大きな扉を開けようとした時――内部から爆発音が響き、ボス部屋の大きな扉が衝撃で揺れ、一瞬だけ空いた小さな隙間から白い煙が漏れ出る。
「……え?」
思わず、アブさんと顔を見合わせる。
まさか、襲撃されているのか?
最下層まで来れるヤツが居たのか?
驚きと共に大きな扉を開けて中へ。
中は白煙に包まれていて、何も見えない。
「アブさん。何か見えるか?」
「ふむ。まったく見えん。魔力すらも感じないぞ。この白煙……ただの白煙ではないかもしれない」
「……只事ではないことが起こっているということか」
とりあえず、白煙が晴れないことにはどうしようもないと、風属性魔法で消し飛ばそうとした時、その前に白煙が動く。
俺が発動した訳ではないのに風が巻き起こり、白煙が渦を巻き始め、霧散して消失する。
確保された視界に捉えたのは――妙に白くなっている無のグラノさんたちと、何やら筋肉を美しく魅せるポーズを取っているカーくんが何やらよくわからない残骸を囲い、少し離れた位置で白煙が付いた障壁の向こうに佇むラビンさん、母さんとリノファが居た。
他には誰も居ない。
……ということは、襲撃ではない?
いや、今相手がやられた……というのも違う気がする。
残骸は様々な物品が集まっているようなモノで、戦闘痕のようなモノは一切ない。
アブさんと顔を合わせて不思議がっていると、みんながこちらに気付く。
『あっ、おかえり』
なんでもない調子で言われたので――。
「ただいま。……それで、これは何事?」
思わず、尋ねてしまった。
―――
事情を聞いた。
なんとも信じがたいが、これも女性陣の洗濯修行の一環だった。
女性陣の話によると、既に洗濯の洗い方は習得したそうだ。
思わず母さんを見るが、母さんは微笑むだけ。
言葉にしない……てことは、まだだな。
そんな洗い方は習得したと思い込んだ女性陣が今回やったのは、洗剤作り。
というか、なんで洗剤作りを? と尋ねると、水のリタさん、土のアンススさん、光のレイさん――それぞれにはどうやら違うこだわりがあるようだ。
「やはり柔軟な仕上がりことが大事であると、私は思う。着心地は大事だろう?」
水のリタさんの意見。
「ウチはやっぱり芳香かな。着ているだけでいい匂いがすると幸せにならない?」
土のアンススさんの意見。
「……白いモノを白く。どんな汚れも許さない。漂白こそ正義」
光のレイさんの意見。
女性陣の意見を聞いて思った。
「いや、全部兼ね備えたので良くない?」
誰もが思うことだろう。
だから、そういうことではないと怒られた。
曰く、その三つを兼ね備えているのは前提として、どれに特化しているのかで揉めている――譲れないモノがあるようだ。
ただ、その結果が、先ほどの爆発だそうだ。
いや、意味がわからない。
何故こだわりの洗剤を作ろうとして、爆発物を仕上げてしまうのか。
それでも、洗剤としての効果はあったようで、それを示すのが妙に白くなった無のグラノさんたち。
これも白骨化と言っていいのかはわからないが、確かに白い。
地の色かもね? とおどけた感じで明るく言う闇のアンクさんは、どこか泣きそうだった。
カーくんは……まあ、面白がっているので放置。
ラビンさん、母さんとリノファは、この件には何も言わないそうだ。
個人のこだわりであるために。
「いや。でも、爆発……」
思わずそう言うと、ラビンさんが乾いた笑いを上げる。
……あっ、これ、今回が初めてじゃないな。
多分、何度か通過したことだ。
だからこそ、障壁が張られていたんだろうな、と結論を出した。
しかし、こだわりは大切だ。
どこにこだわるかは個人の自由というのも納得できる。
俺は大人しく何も言わないことにした。
迂闊に踏み込むと巻き込まれるのが明白である。
けれど、この状況にも慣れたものというか、この騒動を見て帰ってきたな、と思うようになっていた。




