手を差し出されたら何か置きたくならない?
王都・ツリーフの復興を少しばかり手伝う――前に、一旦ウッドゲートに向かうことにした。
終わったことを早く報告した方がいいだろうということになって、最速が空を飛ぶ俺であるため、俺が報告することになったのだ。
避難しているエルフたちを早く安心させた方がいいだろうということである。
その際、誰かを連れて行った方がいいかと思ったが、俺一人だけで向かうだけでいいらしい。
というのも、エルフたちだけではなく、ここに来た冒険者と兵士も残って、復興を手伝うそうだ。
ウッドゲートに戻る時は、自力で戻るらしい。
今は森の中の魔物の数が多いため、その数を間引く意味もあるとのこと。
なので、俺だけでウッドゲートに向かい、着くと同時にまずは門番の兵士たちに伝え、一番大きな交易所に入って、避難しているエルフたちに戦いは終わったことと、王都・ツリーフの現状を伝える。
あと、もう少ししたら護衛隊が来ると思うので、それまではここに居て欲しいことも合わせて伝えた。
何しろ、森の中にはまだ多くの魔物が居る。
非戦闘員である避難しているエルフたちでは、ただ餌食になるだけだろう。
最後に、ギャレージ商会のヴァネッサさんにも同じことを説明した。
「そうかい。終わったか。無事に終わったのなら、何より」
そう言うヴァネッサさんだが、何やら含みのありそうな視線を俺に向けている。
「ところで、話は別だが、少し前に離れた場所の空模様がこの世の終わりのように変わり、巨大な火炎竜巻が目撃されているんだが、何か知っているかい? なんといってもここからでも見えるくらいの大きさであったし、周辺にどれだけの災害が起こっているか確認しないといけないんだよ。ただ、一つ不思議なことがあってね、そう時間がかからずに消えてしまったのさ。自然に起こったのではなく、まるで魔法のようにね」
ニッコリ、と笑みを浮かべるヴァネッサさん。
これはアレだな。
俺がやったとわかっているから、そこら辺も報告しろ、ということだと思う。
しかし、そう簡単に言っていいことではないと――。
「そうそう。結構な人数が目撃していてね、下手をするとここ――メド国が調査するかもしれない。何しろ、国内で起こったことだからね。ある程度は把握しておく必要があるのさ。ただ、そうなると、そんな魔法を扱える者なんて……そういえば、ここ最近居たね。通りすがりの凄腕魔法使いが」
ははあん。なるほど。
そういうことか。
俺はヴァネッサさんに向けて、執事見習い時代に培った技術を活用して、礼儀正しい一礼をする。
「自分がやりました。どうか、上手く誤魔化しをお願いします」
「わかっているよ。私に任せな。上手く言いくるめておいてあげるよ」
「えっと……いいのか?」
お願いしておいてなんだが、そこまでの義理はないような気がするのだが。
「構わないよ。あんたがこちらに協力を求めたから、エルフたちが救われたんだからね」
ヴァネッサさんはどこか確信しているように言うが、正直そう言われてもピンとこない。
いや、世界樹回復とかはそうだが、エルフたちが救われたというのは、その結果でしかないような……。
「わかっていなようだね。エルフたちはどこか排他的なところもあってね。今回の件も、外部の協力を自ら申し出たかどうかわからない。何しろ、エルフは長命だ。エルフ狩りがあったという過去から、未だエルフ以外は誰も信じられないエルフも居る」
言いたいことは……まあ、わかる。
どうしても人を許せないエルフは居るだろう。
実際、思い当たることはある。
戦いで協力するようになったのは、ある程度時間が経ってからだった。
けれど、今王都・ツリーフは共に乗り越えたことで喜び合い、手を取り合っている。
復興も手伝う話になっているのだ。
それはきっと大事なことだと思う。
「エルフたちが自発的に協力を求めてくるとは思えない。いや、最終的には求めてくると思うけれど、その時は既に終わっている――どうにもならない状況だった可能性の方が高い。報告を聞く限り、これだけの規模のことが起きて、被害がそこまでじゃないのは、間違いなくあんたがエルフ以外に協力を求めたからだ。そのお礼だよ」
「そうか。なら、甘えさせてもらう」
「もちろん、報酬がいいというのもあるんだけどね」
そう言って、ヴァネッサさんが俺に手のひらを向けてくる。
はいはい。わかっておりますとも。
出る前にルウさんから預かった、残りの報酬――世界樹の枝数本と世界樹の葉数枚をマジックバックから取り出して渡す。
「良し。確かに受け取ったよ。けれど、これじゃあ、今回の件に関してはもらい過ぎだね。だから、その余剰分を埋めないと、商人としての私が納得しない」
「はあ」
「復興に必要な物を言いな。全部用意してやるよ」
さすが、と言う他ない。
そうして、しばらくの間、俺は王都・ツリーフとウッドゲートを行ったり来たり――復興に必要な物資を運び込んでいく。
復興は順調に進み、ある程度目途が立って、俺が行き来しなくても済むようになり、護衛隊の人たちがウッドゲートに避難にしていた人たちを迎えにいこうと話し始めた頃、俺はここから離れようと思った。
一旦ラビンさんのダンジョンに戻り、次の新たな地へ。
ただ、その前に心構えのために言っておこうと思い、ロアさんとルウさんの家で二人だけに話す。
「それじゃあ、まだ二人はここから離れられないだろうから、考える時間がある――心構えができるということで、先に言っておくことがある。レイさんのことだ」
ごくり、とロアさんが息を飲む。
ルウさんもどことなく真剣だ。
アブさんも当然この場に居るのだが、どことなくハラハラしている。
「レイさんは、生きている」
ハッキリと言うと、二人は喜びの表情を浮かべる。
「ただ、その、なんだ……普通の状態ではないというか、いや、ある意味、あれが今の普通というか……う~ん……」
「どういうことなのよ。ハッキリと言いなさいよ」
「わかった、わかった。レイさんは今……スケルトンとなって生きているんだ」
二人から優しい目で見られる。
いや、嘘ではないから。
とりあえず、伝えられる範囲で伝えると――ロアさんとルウさんが姿を現しているアブさんを見た。
「………………い、いや、某ではないからな!」
アブさんが必死に否定する。
「そんなこと言われなくてもわかっているわよ。ただ、スケルトンと漠然と言われてもね。そういう感じなのかと見ていただけよ」
ロアさんがどこか呆れたように言い、はあ……と息を吐く。
「レイ姉らしいというか、なんというか……」
「そのようなこともあるのですね」
思ったよりも拒否反応はないようだ。
良かった。
アブさんと一緒に、ホッと安堵する。
ただ、二人もどのような状態であれ、生きているのなら今はいいと、まずは王都・ツリーフの復興を優先させて、それが終われば会わせて欲しいと言ってきた。
もちろん了承して、光のレイさんにもこのことは伝えて、心構えをしていてもらおうと思う。
そして、俺はアブさんと共に王都・ツリーフをあとにして、ラビンさんのダンジョンへと戻る。




