見えていなかった、なんてことはある
地上に下りると、早速ロアさんとルウさんから、ダグがどうなったのかを聞かれたので、隠さずに正直に伝える。
というか、あの天災のような空模様は見えなかったのだろうか?
かなり目立っていたと思うのだが、と思って巨大火炎大竜巻が起こったであろう方角に視線を向けると、地上部は木々で見えず、空も世界樹の生い茂る葉で覆い隠されていた。
こりゃ見えない。
なので――。
「……本当に?」
ロアさんから疑いの目を向けられる。
なんだったら、ここでお披露目しようか?
間違いなく、王都・ツリーフが壊滅すると思うけど。
世界樹は……正直どうにかできると思えない。
「……まあ、いいわ。間違いなく、ダグをやったのね?」
「ああ、それは間違いない。寧ろ、あれでやれなければ、今の俺にはどうすることもできない。それに、大爆発もしたようだったし、結局のところは自滅かもしれないがな。まあ、どちらにしろ、証明するようなモノは何も残らなかった」
「まあ、本当にあなたの言うようなモノが起こったのなら、文字通りの消し炭でしょうしね。……どちらにしろ、脅威が取り除かれたのならいいわ」
そう言って、ロアさんがムスッとした表情を俺に向けてくる。
な、なんだ?
俺が何かしただろうか?
「その……まあ……ありがと。なんだかんだ、助かったわ」
恥ずかしいとでも思っているのか、ロアさんの頬が少し赤い。
そして、頬以上にエルフ特有の長い耳が真っ赤だ。
まさかお礼を言われると思わなかったので、俺は呆気に取られてしまう。
「ふふふ。ロアは可愛いですよね。自慢の妹の一人です」
ルウさんが微笑みを浮かべてそう言って――。
「もちろん、私も助かりました。ありがとうございます」
感謝を伝えるように一礼してきた。
「まあ、できることをしただけだ。俺としても、レイさんの故郷はなんとしても守りたかっただけだしな」
「その口振り、やっぱりレイ姉を知っているのよね?」
「まあ、な。でも、それはここで話すようなことではないし、もう少し時間が欲しい。俺としては、こうして危機も乗り越えたし、レイさんも家族とはやっぱり会いたいと思う。ただ、こればっかりは受け入れられるかどうか……」
ロアさんの問いに、なんとも言葉を濁してしまう。
思わずアブさんを見てしまい、アブさんと一緒に肩をすくめる。
まあ、王都・ツリーフはこれから復興があるだろうし、ロアさんとルウさんもしばらくはここから離れられないだろう。
今の内に告げて、受けとめる時間を挟んだ方がいいかもしれない。
「まっ、それは横に置いておいて、世界樹とは会えるか? 一応、大丈夫かどうか確認したいんだが」
「大丈夫ですよ。では、こちらに」
「ルウ姉。私は護衛隊の一人として、王都内の状況確認をしてくるわ。未だに残っている魔物も居るかもしれないし、ついでに倒してくる」
「わかりました。気を付けてね」
この場でロアさんを見送り、ルウさんの案内で世界樹の下へ。
世界樹は、俺たちが着くと同時に精霊として現れる。
「この度は本当にありがとうございました」
………………。
「あなたの尽力のおかげで、すべてが上手く回り、こうして私も生き永らえることができただけではなく、最上質な大量の魔力によって回復も早く終わりました」
………………。
「事態がこれだけで終わったのも、協力していただいたおかげで……」
………………。
「あの、どうしてそんな呆れた目で私を見ているのでしょうか? 私、世界樹の精霊ですよ? エルフたちから信奉されている存在ですよ? あなたが救った可愛い世界樹ですよ?」
「……いや、よくよく考えてみると、この一連の出来事の中で一番危なかったのは、世界樹に魔力を注いでいるとダグに上から襲撃されて、回避しようとしたけど何故か世界樹から両手が離れなかった時だな、と。あれは本当に命の危機を覚えた」
うんうん、と何度も頷く。
ロアさんがここに居たら、きっと賛同してくれたに違いない。
あれは本当に危なかった、と。
「あ、あれは、本当に申し訳ございませんでした。あまりにも美味しい魔力で、つい」
てへっ、と舌を出す世界樹の精霊。
反省の色が見えない。
やはり、今の俺の全魔力による火属性魔法で燃やしてやろうか。
それで駄目なら、もっと魔力量が増えた時に再度――。
「はう! 何か危険で駄目な予感がします! こう、痛めつけられそうな予感! ……じわじわと、じっくりとお願いします。お前は俺のモノだとわからせるような……体に証を残すように」
「……焦げ跡でいいか?」
「燃え上がる思いの証明ですね。いいですよ。すべて受けとめましょう。大丈夫です。表面に焦げ跡くらいは残ると思いますが、心の中にはそれはもう同じくらい燃え盛っている思いが――」
良し。大丈夫そうだな。
それと、これ以上関わるのは面倒だ。
ここは世界樹の巫女にあとを任せよう。
そう思ってルウさんを見るが――。
「お気になさらずに。楽しそうなお姿が見ることができて、私も嬉しいです」
いや、助けて欲しいのだが。
このままここに居るのは危険な気がしたし、世界樹の無事も確認できたので、王都・ツリーフ内に戻ることにした。




