しっかりとした確認は必要だ
現場をしっかりと確認しておく。
ドラゴンローブ越しでも熱さを感じるレベルの高熱が残っているのだが、こういうのはしっかりと確認しないと、あとで実は――みたいなことになりかねない。
………………。
………………。
良し。何も残っていない。
本当に何も残っていないのは少々驚きだ。
骨くらいはあると思ったが、それも燃え尽きたのか……あるいは大爆発で粉々に砕け散ったのか。
そこまでの詳細はわからない。
確かなのは、ダグの姿は完全になくなっているということ。
焼死か爆死か――死因はわからないが。
できれば、色々と聞きたかったことがあった。
もちろん、話したからといって許しはしないが、どうしても気になることがある。
それは、ダグは呪樹をどこで、どうやって手に入れたのだろうか、ということだ。
あんなモノ、普通は手にしようとも思わないだろうし、手にしようとしても手に入らない類だろう。
その上、呪樹を世界樹に設置して、その生命力と魔力を奪おうなんて考え付くだろうか?
人によっては考え付くだろう。
しかし、ダグがそういうタイプかと問われれば、少し違う気がする。
もっと感情的というか……。
でも、それは見せかけ――とも考えられるが、俺はどうにもうさん臭さというかきな臭さを感じる。
なんというか……火のヒストさんの存在が歴史の中に残されていなかった時のような、裏に何か、誰かが居るかのような、なんとも言えない居心地の悪さを覚えてしまう。
……もし、ダグに協力者が居て……ただ、その協力者にとっても世界樹が厄介であったために、エルフと世界樹に憎しみを抱くダグを利用したとしたら、どうだろうか?
ついでに言えば、その協力者は火のヒストさんの方にも………………いや、これは考え過ぎか。
発想が飛び過ぎているし、実際にそんな協力者が居たかどうかなんてわからない。
確認のしようがないのだ。
今は、ダグが滅び、世界樹が救われたことを喜ぼう……救われた?
そういえば、まだ魔物が残っているな! と森の中から飛び出している世界樹を見た瞬間、世界樹から優しい光が漏れ出る。
多分だけど、世界樹が目覚め、結界が張られたのだろう。
もう安心だとは思うが、この目見るまでは気を抜けないと、王都・ツリーフまで急いで戻る。
―――
王都・ツリーフまで戻ると、先ほどまでとは違い、既に終わっているということがわかった。
「グワアアア!」
「グオオオオ!」
「ギャア! ギャア!」
魔物たちが騒いでは、その姿を森の中に消していく。
何しろ、一定距離から先に進めないのだ。
目には見えないが、結界が張られているのがわかる。
もうどうにもできないとわかった魔物から、去っていっているようだ。
中には抵抗して残る魔物も居るが、それはあっけなく狩られる。
まあ、ここまでくると、もう多勢に無勢だろう。
そして、結界の中。
俺とロアさん、ルウさんがダグとやり合っている間に、結構攻め込まれていたようだ。
世界樹の聖域部分までは到達していないが、それでも王都・ツリーフ内の建物がかなり壊されている。
ギリギリ、という訳ではないが、結界がないままでもう少し時間が経っていたら……わからなかったかもしれない。
それと、結界の大きさが違うことに気付く。
俺が見た時よりも広くなっており、それこそ光のレイさんが居た時と変わらないくらいまで大きな結界となっていた。
世界樹に力が戻った証明だろう。
そんな結界の中は今、大きな喜びの声で満ちていた。
一人や二人ではなく、その場に居る全員が勝利の喜びの声を上げていて、そこにエルフ、冒険者、兵士といった枠はなく、誰もが抱き合ったり、ハイタッチしたりと共に喜んでいる。
世界樹も、どこか機嫌が良さそうだ……まあ、樹なので、そう見えるだけだが、きっと間違っていないだろう。
そうして空から様子を見ていると、アブさんがこちらに来るのが見えた。
「おつかれー」
「おつかれ~」
俺とアブさんも軽くハイタッチする。
「それで、なんだって別のところに行ったんだ? しかも、その先で物凄い炎の竜巻が出現したが……アルムがやったのか?」
アブさんがそう尋ねてきたので、俺は頷いてからダグとの戦いについて簡単に説明する。
「……という訳だ。最後は何も残らなかったな」
「なるほど。己で御し切れぬ力を手にした代償だな。まあ、元々不完全な取り込みであった訳だが、あの者にとってはそれでも分不相応な力であったのは間違いない。どれだけ時間を置こうが、御し切れずに同じ結末を辿っていたであろうよ」
「不完全な取り込み?」
「そうだ。本来なら、呪樹は世界樹が死ぬまで吸収していたが、世界樹は死なずに済んだ。呪樹の吸収した力を取り込もうとしたが、その前に某が死滅させた。世界樹の完全な生命力と魔力を取り込んだ訳ではないのだ」
「そういうことか」
そのきっかけになったのも、光のレイさんの記憶のおかげだな。
ただ、そんな不完全な状態であの強さとか、勘弁して欲しい。
魔法が通じないとなると、途端に俺は何もできなくなることがわかった。
身体強化魔法も限界はあるし……竜杖がある訳だから、杖術でも身に付けてみるべきだろうか?
そうしてアブさんと話していると、地上で俺を呼ぶ声が聞こえる。
ロアさんとルウさんだ。
アブさんと共に、地上へと下りていく。




