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賢者巡礼  作者: ナハァト
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崩壊する時はあっという間でとめられない

 ロアさんの行動と上手く噛み合う。

 なんというか、なんとなくだが、次にどう行動するのかわかるというか……多分だけど、光のレイさんの記憶に影響されているのだろう。

 そうして時間をかけている間に、先に限界を迎えそうなのは――ダグ。

 ロアさんの剣が、ダグの肩を裂く。

 傷は直ぐに癒えたが、それでも、黒い靄はもう立ち昇るほど出ていない。

 それに、肌の色も薄く――元の肌色に戻っているように見えた。

 もう魔法も通じそうな気がする。

 変質した世界樹の生命力と魔力の限界――消失は近い。


「もう終わりね」


 ロアさんがそう言う。

 いや、そういうのを言う時に限って、何か起こると思うのだが――その通りだった。


「ふ、ふざけるな……これで、終わる訳にはいかない……終わる訳にはいかないのだ!」


 ダグがそう叫ぶのと同時に、ダグの体がさらに盛り上がっていく――いや、この場合は盛り上がるというより膨れ上がっていくと言った方が正しい気がする。


「グ、ゴゴ、ガア……」


 ダグの口からおよそ人とは思えないような潜った声が漏れ出て、その体は膨張していく。


「こ、殺す……殺してやる……森のエルフを……世界樹を……」


 変わらず――いや、殺意だけは衰えない。

 ただ、その目はこちらを見ているのだが、見ていないような……。


「狂ったか?」


 剣を身構えていつでも斬りかかれるようにしているロアさんがそう言う。

 正しい気がする。

 すると、ルウさんもダグの変化を見ながら口を開く。


「おそらくですが、奪い取った世界樹の生命力と魔力をさらに引き出そうとして、体がそれに耐えられなくなったのです。元々自分の体にはない力なのですから、本来なら馴染むまでにそれ相応の時間をかけなければいけませんでしたが――」


「その時間がなかった、ということか。この事態を起こした張本人が自分であると直ぐに発覚したために、身を隠してやり過ごすといったこともできず、呪樹は消え、世界樹も俺が魔力を注いだことで予定よりもかなり早く回復することになって結界が張られたら手が出せないから、時間をかけて攻めることもできない」


 だから、ギリギリまで粘って襲撃を起こしたが、それでも完全ではないために耐えられない、と。

 ならそれは、間違いなく光のレイさんのおかげだ。

 光のレイさんが最初に怪しいと思ったからこそ、記憶を受け継いだ俺を通して今この時に、ダグに時間を与えなかったのだ。

 ――本当に必要な時間を。

 とりあえず、ここのエルフたちに光のレイさんへの感謝を示して欲しい。

 光のレイさんのおかげで、事態は最悪の展開にならなかったのだから。

 まあ、存在を明らかにはしないつもりなので無理だけど。

 ………………。

 ………………。


「いや、これ、どこまで膨らむつもりだ?」


 思わず言ってしまう。

 何しろ、ダグの膨張がとまらない。

 とまる気配がない。

 今も膨らみ続け、既に倍以上の大きさとあんり、横幅も不気味に増して形としては球体のようになっていっている。


「ゲ……グガ……エ、ルフ……ロス……」


 合わせて、ダグの意識も残っているのか怪しくなっていった。


「限界を超えてしまったのだと思われます。その結果、とまれなくなったのでしょう」


 ルウさんがそう言うと、ロアさんが尋ねる。


「最終的にどうなるの? これ」


「おそらく、大爆発します、それも、下手をすればこの周囲一帯が消し飛ぶほどの威力で」


「「へえ~……ん?」」


 ロアさんとまったく同じ反応をして、揃ってルウさんを見てしまう。

 いや、さらっと言ったが、かなりの大事なのでは?


「一応、さきほどから変質した世界樹の生命力と魔力を抜いていますが、大爆発の方が先かと。時間稼ぎしかできません」


「そのまま抜き切れないのか?」


「できません。先にダグの体の方が限界を迎えます」


「今爆発させてしまえば?」


「威力が多少弱まるだけで、結果としてはそう大差ありません」


 矢継ぎ早に質問するが、結果は変わらず。

 寧ろ、ダグがより膨らむ結果でしかない。

 ……これは、マズいのでは?


「私は既に時間稼ぎで手一杯ですので、どうにかしていただけないでしょうか?」


 ルウさんが俺を見る。

 ロアさんも俺を見る。

 いや、見られても……どうしろと。

 ……いや、できなくはないな。


「二つ確認したい。まず一つ。ルウさんのその秘術は、離れても――森の外でも可能か?」


「いえ、そこまで遠くであれば効果はありません」


「なら、もう一つ追加で、効果が切れてから爆発までどのくらいの猶予がある?」


「……数分、かと」


「わかった。なら、もう一つ。たぶん……おそらく……きっと……少しばかり周囲が傷付いてしまうが大丈夫か?」


「大爆発よりはマシです」


「なら――しっかり踏ん張れよ!」


 ロアさんとルウさんにそう告げて、竜杖を構え、魔力を漲らせる。


「『緑吹 荒れ狂う暴風は あらゆるモノを引き込み 渦巻く風はすべてを蹂躙する 大嵐サイクロン』」


 穏やかだった風が徐々にその風力を増していき、ダグを中心とした大竜巻へと変化する。

 豪風による影響で、耳に届く音は強い風の音だけ。

 ロアさんが何か言っているような仕草を見せるが、正直聞こえない。

 え? 何? なんだって? 聞こえないんだが!

 まあ、威力が強過ぎるとか、そういったことだろう。

 というか、あまり意識を他に回したくない。

 何しろ、多少練習はしたとはいえ、外で風属性魔法を使うのは初めてだ。

 案の定というか、風力が強過ぎるし、上手く――完璧に制御できない。

 暴走前提であるため、時折大竜巻から外れた豪風が周囲の木々をなぎ倒し、魔物の首を裂き、近くにある無人の住居を巻き上げて壊したりしている。

 こうか……いや、こうか?

 風の向きを指定するのが難しい。

 風のウィンヴィさんの記憶だと、この何倍もの風力を片手で気軽に操っているのだから、改めて凄い人なのだと思う。


「早く! どうにか! してよ! あんたが! ここを! 壊す気なの!」


 ロアさんの声がいきなり聞こえてきた。

 驚いて視線を向けると、直ぐ傍まで来ていたようだ。


「あっ」


 驚いたことで制御が甘くなり、豪風が再び無人の建物を壊す。


「早く!」


「わかっている!」


 今のは俺のせいではないと言いたい。

 ただ、早くケリを着けた方がいいのは間違いない。

 暴れそうな大竜巻をどうにか制御して、内部のダグを巻き込んで空へと上げていく。

 あとは時間との勝負。

 竜杖に乗り、俺も空へ。

 大竜巻ごとダグを連れ去り、大急ぎで森を抜け――見渡す限り何もない草原へ。

 ここなら大丈夫だろうと、そのまま大竜巻ごとダグを地面に叩き付ける。

 ダグが直ぐにでも大爆発しそうだった。

 爆発の威力がどれだけかわからないが、できる限り抑えてみせる。


「『赤燃緑吹 道先を遮り 荒れ狂う暴風は 泊め留めて あらゆるモノを引き込み 此処に縫い付け閉ざす 渦巻く風はすべてを蹂躙する 炎檻大嵐フレア・サイクロン』」


 火と風の合成魔法、

 空すらも真っ赤に染める天災のような巨大火炎大竜巻がダグを閉じ込め、内部を焼き尽くし、絶命させる。

 瞬間、内部から爆発音が響くが、その威力は巨大火炎大竜巻に取り込まれ、そのまま上空へと昇って消えていった。

 大爆発の影響もしっかり燃やしてから巨大火炎大竜巻を消す。

 あとは、硬質化してひび割れた黒焦げの大地が残るだけ。

 ところどころ溶岩化しているため、明らかに生物が生息できないと思われる。

 ……まあ、いいか。

 きっと、最小限度の被害だろう。


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