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賢者巡礼  作者: ナハァト
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ちょっとスッとする

 おそらく、というか確実に、ルウさんがやられると魔法陣は消える。

 時間を稼ぐのと同時に、ルウさんを守らなければならない。

 俺も、と前に出ようとした時、ルウさんにとめられる。


「お気を付けて。先ほども言った通り、ダグから奪い返した生命力と魔力は、世界樹の加護がなければ与えられません。アルムはまだ世界樹から加護を与えられていませんので」


「ああ、わかっている」


 くそお。世界樹め。

 いや、なんとなくわかるよ。

 元々弱っていたんだし、今も回復中だし、とてもではないがそんな余裕はなかったのだ。

 わかってはいるが……今だけはあって欲しかった。

 無理はしないようにしないと命がなくなるな、と気を引き締めてロアさんのあとに続く。

 すると、ダグが怒りの咆哮を上げる。


「図に乗るなあっ! エルフがあ!」


 お前もな、と言いたくなったがやめた。

 ダグが再度黒い靄を立ち昇らせ――いや、これまでで一番強く立ち昇らせている。

 自分が優位な内に、一気に終わらせる気のようだ。

 一直線にルウさんを目指してくるが、それは安直というモノ。


「ふっ!」


 ロアさんがすれ違いざまにダグの足を斬る――といっても、黒い靄が邪魔をして斬れてはいない。

 けれど、衝撃は伝わるのか、若干に動きが鈍る。

 そこを狙って――。


「『白輝 突き刺さる光 身動きを禁じ 輝きの輪で封ずる ライト拘束・バインド』」


 光属性魔法を放つ。

 ダグの四方に光の刃が出現し、突き刺さるように進む――が、黒い靄にとめられてしまう。

 本来なら、そのまま体に刺さって光の刃同士が繋がって相手の動きを封じるのだが、そこまで持っていけない。

 ……魔力全力全開でやればできるかもしれないが、ダグはまだ余力がありそうだ。

 その証拠に、光の刃が突き刺さってはいないが、それでもダグは前に進んでいる。

 若干、動きを遅くしただけだ。

 しかし、それで充分。


「はあっ!」


 折り返したロアさんが、再度ダグの足を斬る。

 これも通じてはいないが、衝撃は伝わって少しだけ苦悶の表情を浮かべるダグ。


「邪魔だ!」


 ダグが両腕を振り上げて光の刃を砕く。

 そこに――俺とロアさんが揃って体当たりをかます。

 もちろん俺は身体強化魔法で威力を上げて。

 衝撃だけが伝わって、後方に少しだけ下がるダグ。

 その瞬間に剣を振るってきた。

 体当たり状態の前屈みになっているのはマズいと思った時、ロアさんが俺の体を引く。

 ロアさんの肩から腕辺りが斬られるが、直ぐに癒える。


「『白輝 突き刺さる光 身動きを禁じ 輝きの輪で封ずる ライト拘束・バインド』」


 再度ダグを抑え付ける。

 ダグは再度光の刃を砕くが、砕いた瞬間にもう一度唱えて抑え付ける。


「うっとうしい!」


 苛立ちと共にダグが光の刃を砕くが、俺はまた光の刃で抑え付けた。

 ははは! 魔力はまだまだたっぷりとある! いつまでも、何度でも拘束してやる! ――と、内心で思っていると、ダグの苛立ちが積み上がっていくのが見てわかる。

 ただ、そう光の刃にだけ気を配るのはどうなのだろうか?


「無様ね、ダグ!」


 光の刃を砕いた瞬間にロアさんの攻撃が入る。

 まだ黒い靄に防がれているが、衝撃は伝わっているようなので、ダグの苛立ちはさらに増していくだろう。

 それに、攻撃がまともに入らないのは今だけだ。

 時間をかければかけるだけ、ダグは手にした力を失っていく。


「ふ、ざけるなあ! たかがエルフ如きが! たかが人種如きが! この私の邪魔をするなあ! 大人しく死んでおけばいいのだあ!」


 ダグが我を忘れたかのように怒り出す。

 同時に、ダグの体が歪な感じで盛り上がっていく。

 どちらかといえば細身だった体付きが、筋骨隆々な体付きに変わっていくだけではなく、身長も元の1.5倍くらいは大きくなっていた。

 身に付けていた衣服は破れ、なんというかエルフという感じが一切なくなる。


「ぐはぁ……」


 ついでに、臭そうな息も吐いた。

 ロアさんとルウさんの眉間に皺が寄る。


「エルフってあんなことができるのか?」


「できないわよ!」


「できません!」


 即拒否された。

 そうか。できないのか。

 ホッと安堵した。

 光のレイさんの記憶の中でそのようなことはなかったが、ここ数百年の間にできるようになったのかと思った。


「あれは、変質した世界樹の生命力を回復だけではなく強化の方で己の体に注ぎ込んだ結果だと思われます。微量ならまだしも、一気に注ぎ込んだため、あのような姿になったのかと」


 ルウさんがそう説明してくれる。

 要は、変質したモノを過剰に投与して、それに耐えるために体の方も変質したってことか。


「これで、もうとめられやしないぞお!」


 ダグが突っ込んでくる。

 再度光属性魔法「ライト拘束・バインド」で邪魔しようとするが、簡単に弾かれて粒子となって消えていく。

 それなら、とより魔力を込めた「光の拘束」を放つが、それも結果として意味がない。

 僅かにとめただけ。

 何より、質量による体当たりはまともに食らうと危険だ。

 ロアさんも鋭い斬撃を何度も放つが、未だまともに届いておらず、効果はない。

 ダグの狙いはルウさんに絞っているため、一直線に迫ってくる。

 それなら、と俺は再度「光の拘束」を発動する。

 ただし、今度はダグの真正面ではなく、脚部。

 足だけを拘束するように出現させる。

 標的が大きくなった分、狙いやすい。

 黒い靄ごと足を拘束すると、ダグは勢い良く躓いて転倒して顔を思いっ切り地面に打ち付けた。

 ちょっとスッとする。


「きさ」


 ダグが何か言おうと顔を上げた瞬間に、今度はロアさんが思いっ切り剣を振り下ろす。

 黒い靄に阻まれるが、その衝撃はかなり強かったようで、ダグはもう一度顔を地面に打ち付けた。


「ふっ」


 ロアさんが小さく笑う。

 スッとしたのかもしれない。

 だが、倒れたのなら好都合。

 立たせる訳にはいかないと、今度は「光輝雨ホーリーレイン」を上から浴びせて立たせない。

 ダグが煩わしそうに「光輝雨」を払うが、それが隙となってロアさんが一斬り。

 衝撃は伝わり、それに苛立ってロアさんに攻撃をしようとしたところで、再度俺が魔法を放って邪魔をする。

 俺の魔法を払うと、ロアさんが攻撃。

 ロアさんを追おうとすると、俺が魔法で邪魔をする。

 上手く噛み合い、ダグをその場に縫い付けた。


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