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賢者巡礼  作者: ナハァト
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得意なモノが駄目になる時があるから事前に別の手を用意しておくべきだった

 殺意が乗った影響からか、ロアさんとダグの斬り合いはより激しさを増す。

 ロアさんは先ほどよりも鋭い身のこなしでダグの斬撃をすべてかわし、ダグの方はロアさんほどではないが軽やかな身のこなしと、剣での防御を加えてロアさんの斬撃を完全に防いでいる。

 この斬り合いはまるで暴風のようで、誰も近寄ることはできない。

 寧ろ、並大抵の者が近付けば、巻き込まれて切り刻まれそうだ。

 まあ、その心配は必要ないかもしれない。

 何しろ、そんな余裕はどちらにもないのだ。

 こちら側と魔物との攻防はまだ続いている。

 後先考えない全力を出せるので、どうにか戦線は維持できていた。

 魔物は世界樹に近付くことさえできていないが、少しでも気を緩めれば一気に押し切られてもおかしくない。

 どこも今は目の前の相手をするのに精一杯である。

 なので、ロアさんとダグの戦いからは、自然と距離を取っていた。

 こちら側だけではなく、魔物の方も巻き込まれるとヤバいとわかっているのか、避けている。

 世界樹を中心とした全方位の戦場の中で、そこだけポッカリと奇妙な穴ができているのが、空から見ればよくわかった。

 ただ、そう長くは続かない。

 ロアさんが次第に押され始める。

 ダグの剣がロアさんの腹部付近をかすり、僅かながら鮮血が舞う。


「ぐっ」


「ふっ」


 ロアさんは一瞬顔をしかめ、ダグは歪な笑みを浮かべる。


「ふん。何かを企んでいるようだが、どうやらその前に終わってしまうようだな」


「そう簡単に」


「殺れるのだよ、ロア。今の私ならな!」


 ロアさんが最速で斬りかかるが、ダグはかわし、すれ違いざまに一斬り。


「うっ」


 ロアさんが倒れる。

 斬られたのは、左足の太もも部分。

 かなり深く斬られたようで、先ほどよりも大きく血が流れ、大地を赤く染める。


「無様だな、ロア。さあ、終わりだ」


 ロアさんは立ち上がれないようだ。

 ルウさんの詠唱はまだ終わっていない。

 ダグが見せつけるように剣を構え――。


「アルム! もう魔物の方は充分だ! 某に任せておけ!」


「助かる!」


 空中からの遊撃はアブさんに任せて、俺は突っ込む。


「やらせる、かよ! 『白輝 光が集いて ただ実直に突き進み すべてを穿つ 光弾』」


 急降下しながら、ダグに向けて指先から光弾を放つ。

 一発では意味がないので、連続で放った。

 もちろん、ロアさんには当たらないように。


「ふっ」


 ダグは鼻で笑って光弾をすべて受けとめるが無傷。

 黒い靄が障壁となって防いでいた。

 俺は急降下の勢いはそのままでダグの周囲をぐるっと回り、ロアさんを抱えるように回収して、ルウさんのところに戻ってロアさんを下ろす。

 ルウさんがホッと安堵したように見えた。

 俺も地面に下り、竜杖を身構える。


「時間を稼げばいいんだな?」


 ルウさんの意図はわからない。

 けれど、その意図が実を結ぶのはもう少しかかりそうに見えた。

 どのみち、詳しいことを聞く暇はないし、何をすればいいのかさえわかればいい。

 ルウさんは詠唱を途中でとめることはできないのか、頷きを返してきた。

 それで充分。


「『白輝 闇を裂き 流星のように降り注ぐ 拡散する一筋の煌めき 光輝雨ホーリーレイン』」


 光線の雨をダグに集中して降らせる――が、結果は先ほどの「光弾」と何も変わらない。

 黒い靄が、すべて防いでいる。


「なるほど。どうやら只者ではないようだが、やはり今の私からすれば敵ではないようだ」


 余裕の笑みを浮かべるダグ。

 物理より魔法の方が通じなそうだ。

 といっても、身体強化魔法でも通じなかった場合、その反動で動けなくなるのはマズい。

 せめて火属性が使えたなら、黒い靄ごと焼き払ってやるんだが……受け継いだ風属性も通じるか怪しい。


「さて、お前にも聞きたいことがある。素直に答えてくれると楽なのだが……まあ、抵抗は自由だ。その分、いたぶるのも嫌いではない」


 いや、寧ろ好きだろ、と言いたいくらいに、ダグが愉快そうな笑みを浮かべて、光線の雨の中を無傷で近付いてくる。

 仕方ない。

 魔法をやめて、身体強化に切り替えて攻める。

 上昇した身体能力に任せて瞬時に距離を詰め、力任せに竜杖を振るう。

 ダグは突然のことに反応が僅かに遅れた――が、振るった竜杖は黒い靄が絡まるようにしてとまってしまった。


「身体強化魔法か。意表は突けたが無意味だ」


 ダグが振るう剣を全力で回避。

 立て続けに攻められているのもそうだが、ダグの振るう剣が速過ぎて、回避することしかできない。

 それでも、この時間が重要だった。


「できました!」


 ルウさんがそう言った瞬間、ダグの足元に巨大な魔法陣が展開した――が。


「……ん? 何かしたか? 何も起きていないようだが?」


 ダグに変化はない。

 ……何も起きていない。

 動きを阻害するとか、魔法陣の中に閉じ込めるとか、そういったことでもないようである。

 ただ、魔法陣は発動していることを示すように、僅かだが光り輝き続けている。


「いいえ、既に起きています。ただ、それにあなたが気付いていないだけですよ」


 微笑みを浮かべるルウさんは、これで効果があると言う。

 けれど、やはり変化のようなモノは見られない。

 その代わりという訳ではないだろうが、ルウさんはさらなる動きを見せる。

 魔法陣に向けて両手をかざしていたのだが、片方の手をロアさんに向けると、ロアさんの足元にも魔法陣が描かれ、ロアさんの体を優しい光が包み込む。

 何が起きているのかはわからない。

 しかし、何か良くないことが起こっていると思ったのか、ダグは俺ではなくルウさんに襲いかかる。


「何をしている! ルウ!」


「やらせるかよ!」


 俺から注意を逸らすのは明確な反撃の隙だ。

 身体強化魔法で上昇した身体能力に身を任せてダグとの距離を一気に詰め、竜杖を思いっ切り振る。

 ぶうん! と風を切る音だけが響いた。

「馬鹿が! そんな大振りが当たるとでも思ったか!」


 その場で飛び上がって竜杖を回避したダグ。

 俺に向かって嘲笑の表情を浮かべていたが、馬鹿なのはそちらだ。

 一歩前に踏み出し、着地しそうなダグとの距離をさらに詰める。

 相手が上に居て、距離を詰めれば――。


「『赤燃 赤く熱い輝き 集いて力となる 基礎にして原点 火炎球ファイヤーボール』」


 火属性魔法が使える。

 火炎球が黒い靄と接触して、爆発を起こす。

 俺はドラゴンローブのおかげで平気だったが、ダグは――少し吹き飛ばされはしたが、無傷だった。

 やはり、あの黒い靄をどうにかしないと魔法が届かないようだ――いや、違うな。

 近くで魔法を放ったからこそ、感触としてわかる。

 単純に威力が足りない。

 もっと高威力――それこそ超威力であれば、黒い靄をぶち抜くことができる――と思う。

 ただ、その元が世界樹の膨大な魔力となると……それをぶち抜く威力の魔法となると、どれだけの魔法なのか想像もできない。

 少なくとも、俺が受け継いだ三人分の魔力でも足りるかどうか。

 それに、単純な威力という意味で最適な火属性魔法でそれだけの威力を出せば……できなくはないが、この場ではやはり無理だ。

 さすがに、世界樹まで燃える可能性があるのは……駄目だろうな。


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