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賢者巡礼  作者: ナハァト
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暖かさは心でも感じることができる

 一芸の披露は失敗したが、そこには確かな事実が含まれている。

 魔法を使えるようになったということだ。

 といっても、今戦闘用として使えるのは火のヒストさんから受け継いだ火属性魔法だけ。

 生活魔法の方は……多分、大丈夫だろう。

 火のヒストさんが使っていた記憶があるので、それを元にすれば俺も使えると思う。

 さっき失敗したのは、記憶の中にある魔法操作と、実際に使用した時の魔法操作の、感覚の違いだと思われる。

 まあ、ここら辺は使っていけばなくなるだろう。

 問題なのは、寧ろ魔法よりも受け継いだ記憶の方だ。

 火のヒストさんの生前の記憶を、俺は見た。

 これまでの俺の人生はほぼ公爵家の中にしかない。

 そのため、火のヒストさんがいつ頃の人なのかは今わからないが……それでも、起こった出来事を知り、なんとも言えない気持ちになる。

 何がどうして、ここに落ちてくることになったのかを、知ってしまったのだ。

 そんな俺の状態を察したのだろう。

 火のヒストさんが口を開く。


「気にし過ぎというか、気にすんな。おれはお前が経験したことじゃないし、もう過ぎたこと。過去だ。いまさらどうしようもねえんだからよ。そんな過去にこだわる時間があるのか? 今を生きていて、助けなければいけないのが、お前には居るんじゃないのか?」


「それは……わかった。当面は気にしない。今は、母さんを救うことだけを考えて行動する」


「それでいい。俺の力を使って、助けてこい!」


「ああ! そのあと、みんなのやって欲しいことをやるよ」


 俺に力を受け継がせてくれてありがとう、と感謝の気持ちを込めて、手を前に差し出す。

 火のヒストさんも直ぐに察してくれて、固い握手を交わした。

 実際にゴツゴツした硬い骨だったので、少し痛かったが。

 そして、これは俺がこのダンジョンから脱出する時でもある。


「それじゃあ、まずは無事に一人目の魔力と記憶を受け継いだってことで、ここから出る前にボクとカーくんからの餞別をあげるよ」


「ラビンさんとカーくんから?」


 なんだろうか? と思っていると、ラビンさんが俺に見せてきたのは、杖、服、一冊の本だった。


「……これは?」


「まず、この杖は『竜杖』」


 見せられた杖は、杖の先端に赤く輝く大きな宝石があり、その上に小さな竜が乗っているような細工が施されていた。


「魔法効果全般を高めるのと、非常に頑丈で並大抵の武具じゃあ傷一つ付けられないよ。それと、呼べば手元に来るように所有者設定ができるから、あとでしよう。あとなんかあったかな……あっ、そうそう、飛行能力も足しているから、これに乗って飛べるよ。使い方はあとで説明するね」


「なるほど」


 とりあえず、すごい杖だということはわかった。

 あとで詳細を求む。

 次いで見せられたのは、服。

 なんてことはない普通の衣服と、白と黒が強調されているローブだった。


「こっちは普通に着替えってだけで、本命はこのローブ。これは『ドラゴンローブ』。カーくんの竜鱗を使用しているから、並大抵の物理と魔法はこれだけで無効化すると思うよ。あと、竜鱗だからか汚れを寄せ付けないというか自動洗浄で寒暑にも強いから、身に纏っているだけで快適かな」


 とりあえず、ありがたいローブだということはわかった。

 カーくんを見れば、グッ! と親指を立ててきたので、俺も同じように親指を立てる。

 それと、地味に着替えは嬉しい。

 次いで、一冊の本。

 これが一番何かわからない。


「何、これ?」


「何って、本だよ。文字、読めるよね?」


「まあ、執事見習い時に習いはしたから読めるが……そうじゃなくて、その本の内容についてだ」


「内容、ね。秘密かな」


「いや、秘密って」


「まあまあ、読めばわかるし、読み終わる頃には、きっとアルムくんの役に立っているよ。移動時に暇潰しにもなるだろうしね」


「そうか。ありがとう」


 用意してくれた物を受け取り、まずは着替えて、ドラゴンローブを身に纏い、竜杖を手に持つ。

 ここで杖術のようなモノでもあれば、受け継いだ時のように一芸を披露するのだが、残念ながらないためできない。

 非常に残念だ。


「……ふむ。それなりに様にはなっておるの」


「悪くねぇな」


「いいんじゃない。似合っていると思うよ」


「魔法使いらしく見えますよ」


 男性陣の反応は悪くなさそうだ。


「50点。もう少し体格がしっかりしないと、今はまだ服に着られているようにしか見えません」


「40点。ドラゴンローブはいいけど、中の服がちょっと。着替えとか小物も用意した方がいいわ」


「……30点。表情が硬い。頑張った感が出過ぎ」


 ………………。

 ………………。

 女性陣は手厳しい。

 少し泣きそうになった。

 男性陣とラビンさん、カーくんに慰められる。

 こういう時に肩に置かれる手と、感じる友情の暖かさよ……。


「それじゃあ、ダンジョンと外を行き来できる魔法陣を用意しておいたから」


 竜杖の使い方を聞きながら、ラビンさんの案内でカーくんが居るボス部屋の奥にある、魔法陣が床に描かれている部屋に行く。

 ここの魔法陣が外と行き来できるようになっているらしく、外の方には小屋の中に繋がっているそうで、場所とかの説明はそこに用意しているから確認しておいて欲しいとラビンさんに言われたので、わかったと頷く。

 魔法陣の上に立ち、振り返ればみんなが揃っていた。


「それじゃ、いってくる」


『いってらっしゃい!』


 みんなに見送られながら、魔法陣は輝き、景色が一変する。


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