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賢者巡礼  作者: ナハァト
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やれると思い込む精神が必要

 ルウさんにも話を通し、認可をもらい、準備を終えて、早速行動に移る。

 このままだとジリ貧になるとわかっているからこその判断だろう。

 でなければ、普通は認めないと思う。

 森の安全もあるし、俺の安全もあるし。

 何しろ、森の中を自由に進ませることになるのだから。


「……本当にふざけているわね。大丈夫なの? あなたが言い出したことなんだし、今更できませんでしたは困るんだけど」


「任せろ。以前もやったことだ、その時よりも魔力量も増えているし、距離も近い。大丈夫だ」


 ロアさんから疑いの目を向けられる。

 まあ、こればっかりは実際に見てもらわないと納得してくれないだろう。

 ちなみに、ロアさんは協力者だ。

 俺一人、アブさんと一緒でも、まずは相手に信じてもらうことが必要になってくる。

 そのための橋渡し的な役割として、ロアさんが同行するのだ。

 準備も単純。

 人が数十人くらいはどうにか乗れそうなモノ――木製の大きな籠というよりは箱を用意というか簡単な作業で作ってもらい、それと竜杖を途中で切れないように頑丈なロープか何かで括り付ける。

 これで完成。

 念のため、この場に居るエルフたちにも協力してもらい、実際に乗ってもらって、浮いてみる。


「………………」


 魔力消費が大き過ぎる。

 しかし、できなくはない。

 何度も往復し続けるのは難しいが、休憩を挟めば……まあ、できなくはない。

 俺が提案してやろうとしているのは、フォーマンス王国の時、ゼブライエン辺境伯と「新緑の大樹」の面々を、秘密裏にシュライク男爵が治める「ツァード」に運んだやり方を、もう少し規模を大きくしたモノである。

 竜杖の、注ぐ魔力を増やせば持ち運ぶモノの重量が大きく軽減する能力を使えば、空移動であるために周囲を取り囲む魔物を気にすることなく、王都・ツリーフまで援軍を連れてくることができるのだ。

 といっても、その時とは規模が本当に違うため、一つの町から向かってきている援軍の数や実際の消費具合にもよるが、一日一町分の援軍でとどめれば……大丈夫。いける。

 いけない――できないなんて考えない。

 いけるといったらいける、の精神で行う。

 何しろ、援軍を集めれば集める分だけ、世界樹――王都・ツリーフ――森の国・フォレストガーデンは救われるのだから。

 という訳で、早速行動開始。

 ロアさんには大箱の方に乗ってもらい、それと括り付けた竜杖にいつもより多めに魔力を流して乗って空に飛ぶ。

 もちろん、アブさんも一緒に行動する。

 一応、ルウさんとロアさんには少し慣れたようだが、未だ他のエルフは知らない他人であるため、残すと戻ってくるまでにエルフたちが全滅していそうだ。

 そして、大箱ごと上昇すると――。


「……わあ」


 空から見える光景に、感嘆な息を漏らす。

 ロアさんが。


「どうだ? 空から見る光景は?」


「ええ、とても素晴らしいわ……て、それどころではないでしょ!」


「それどころと言われても、そのそれどころを解決するために動いているんだ。それに、そんな常に気を張り続けると、いざという時に疲れるぞ」


「……なら、気が休まるようなことを話してよ。そうね、なんであなたがレイ姉の魔力を持っているのかとかで構わないわよ」


「それは今言うことか? それに、ルウさんがその時がくればって言っていただろ。待てないのか?」


「それが今だと思うけど?」


「今ではないな。それより、しっかりと方角を示してくれ。他の町から来ているという援軍に会えるかどうかは、あんたの指示にかかっているんだからな」


「わかっているわよ!」


 ロアさんの指示する方角に飛んでいく。

 援軍として来ているエルフたちを見つけ次第、高度を下げる。

 適度なところでロアさんは大箱から飛び降り、援軍エルフたちと合流して事情を説明し、大箱に適切な人数に乗ってもらって、王都・ツリーフに戻って降ろす。

 戻ればルウさんと世界樹の護り手たちが待機していて、援軍を適切な場所に配置していく。

 あとはこの繰り返し。

 一つの町から来ている全員を運び終われば、次へ。

 ただ、一つの町から来ている援軍は数百人単位で、消費が大きいため、魔力はやはり持たない。

 一日一つの町の援軍が限界であった。

 それでも、王都・ツリーフに残っているエルフたちからすれば大きな戦力である。

 日に日に増していく戦力に、士気は高い。

 各町の援軍を王都・ツリーフに集めるまで数日を要して、俺が目覚めてから一週間ほどが経過していた。

 ただ、正直なところ、これで足りるかどうか怪しい。

 現れる魔物の数も増えているし、人の数もそうだが、物資も限界があるのだ。

 なので、俺は作戦会議室で再びルウさんに提案する。


「あまり遠くだとさすがに無理だが、ウッドゲートであれば往復可能だ。あそこは冒険者も居るし、国の兵士も居る。協力を求めてもいいと思うが、どうする? どのみち、物資の補給は必要だ。往復するのなら、その時に人を連れてくるのも変わらないと思うが?」


「そうですね……できれば協力は欲しいです。大勢の人をここに招くことになりますが、今のままでは限界が訪れるはこちらが先かもしれません。お願いしたいですが、ただ協力して欲しいというだけで、協力していただけるでしょうか?」


「それは……難しいな」


 エルフたちはこの国の者たちだ。

 だからこそ、援軍にも駆け付けてくれる。

 しかし、ウッドゲートは別の国で、頼んでも……来てくれる者は居るだろうが、その数は少ないだろう。

 冒険者に払う報酬のように、何か利とするモノがあれば――。


「そういうことでしたら、私の枝や葉は希少で価値があるのでしょう? 必要であればいくらか提供しますよ」


 不意に、そんな声が聞こえてくる。

 けれど、声をかけてきた人物は見当たらない。

 また、聞こえていたのは俺とルウさんだけだったからか、ルウさんが口を開く。


「世界樹さま。お目覚めに」


 その一言に、俺以外のこの場に居るエルフたちが驚きと共に膝を付く。

 ……俺も膝を付いた方がいいだろうか?


「ええ、ルウ。こうして声を飛ばせるくらいには回復しました。それと、相談は聞こえていましたので、その案でいきましょう。思い切って保管している分をすべて放出しても構いませんよ。エルフには、また新たに授けますので」


「ありがとうございます。世界樹さま」


 しかし、今の状態であれば膝を付くことも構わないが、「うまうま」状態を知っている俺としては、なんか嫌だ。

 ただ、これだけは知っておきたいと、俺も口を開く。


「それで、あとどれくらいだ?」


「最上級で最高質の大容量の魔力のおかげで、当初の予定よりもかなり短縮しました。あと五日ほどです」


 正念場はもう直ぐのようだ。


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