危険な状況で目覚めることは……普通はない
……。
………………。
何やら眩しい気がして、ゆっくりと目を開けて確認する。
――これが見えているってことは、あんた……生きてるよ。
そんな文面が真っ白な天井の一部に刻まれていた。
なんというか、逆に不愉快というか、気に食わないというか、とりあえず、ふざけているのかと言いたい。
正直、目覚めとしては良くない部類である。
起きて直ぐ見たい、読みたいと思うようなモノでないことは確かだ。
……起きて?
あれ? いつの間に寝ていたのだろうか?
眠っていた頭を起こし、少しずつ思い出していく。
……フォーマンス王国では……いや、それは前過ぎるから……冒険者の国……も前で………………そうだ! 世界樹!
世界樹に魔力を注ぐのはいいが、注いでいる最中は離してくれなかったし、その上ダグに襲撃されるわで大変だった………………で、なんで俺は寝ていた?
いや、状況はなんとなくわかる。
魔力がなくなるまで注いだ――いや、吸われたのだ。強制的に。
世界樹に文句言いたくなった。
火属性魔法で炎を現出させながらであれば、大きな効果が期待できそうである。
さすがにそれは……と思うので、やらないが。
魔力はだいぶ回復した感じだが、完全ではないので全快には感覚的に遠い。
というか、ここはどこだ?
ベッドに寝かされていたということはわかる。
あとは、室内であるようだが……この建物が何かというところまではわからない。
ただ、室内に関しては置いてある物――机や椅子、本棚があって、放置ではなく使われている形跡があるということから判断するに、誰かの個室だと思われる。
机の上には一輪挿しの綺麗な花が生けられているので、女性の部屋だろうか?
とにかく、外に出ればわかるだろうと、ベッド脇にある台座の上に置かれていたマジックバッグを肩にかけ、中から竜杖を取り出して持つ。
さて、ここはどこか? と室内から出ようとした時、壁を通り抜けてアブさんが現れる。
「おお、漸く起きたのか、アルムよ」
「ああ、起きた……漸く?」
首を傾げる。
確かに、妙に目が冴えているというか、体が軽……いや、なんか重いな。
寝過ぎた時のだるさというか、だる過ぎてもう少しこのまま寝ていたい気分が少しある。
「どれくらい寝ていたんだ、俺は」
「二日ほどだな」
思っていたより眠っていたようだ。
十数時間くらいかと思っていたのだが、予想と違った。
アブさんによると、世界樹の魔力吸収は俺の魔力がなくなるまで続いたようで、なくなると同時に両手が離れ、その場で倒れたらしい。
それで、神殿内にある個室――ルウさんの提案で自分の個室が神殿にあるからそこで休ませようということになったそうだ。
「………………殺されるかもしれない」
「なっ! 誰にだ! アルムよ! そんな死を覚悟したような雰囲気を醸し出すような者が相手なのか!」
「者が、ではない。者たち、だ」
思い出すのは、ただ一緒に歩いていただけだというのに、射殺さんばかりに世界樹の護り手の男性たちに睨まれた時のこと。
それが個室に寝かされていたとか……ヤバいかもしれない。
いや、既に待ち構えている可能性もある。
そっと扉を開いて部屋の外を確認。
「……なんで、そんなビクビクしているのよ」
ロアさんが居た。
扉を開けるように手を伸ばしていたので、待ち構えていたとかではなく、今来たような感じである。
だが、それだけ。
どこからか刃物が飛んでくるとか、危険人物が待ち構えていたとかはなさそうだ。
いや、まあ、ロアさんも時々突っ走るし、危険人物である可能性はないとは言い切れない。
「何か失礼なことを考えているような気がするわね」
「いや、まったく」
動揺は隙だ。
何もやましいところがなくても、動揺してしまえばやましいところがあると見えてしまう。
即座に否定することで、少なくとも表面上は回避。
「表情が動揺しているけれど?」
……寝起きなんで勘弁して欲しい。
「いや、本当にそれは気のせいだ。それよりも、どうやら二日ほど眠っていたようだが、状況はどうなっている?」
「そうね。起きたのなら、説明は必要ね」
部屋の中に戻り、ロアさんから状況の説明を受ける。
ダグは逃亡に成功し、未だ姿を隠したまま現れていない。
ただ、あの口振りから察するに、また現れるのは明白であり、その時に倒してやるとロアさんは意気込んでいる。
意気込むのはいいのだが、大丈夫だろうか?
少なくとも、ダグが現れる時は万全の状態でくるだろう。
それに、戦っていた世界樹の護り手たちの様子から察するに、どうやら強くなっているようだ。
元からなのか、何か仕掛けがあるのかはわからないが、何かしらの対策は必要だと思う。
そこら辺は――。
「そうね。『魔識眼』でしっかりと見た訳ではないけれど、何か歪な魔力のようなモノが見えた気がするわ。それが関係あるかもね。それがなんなのかはわからないけれど」
なるほど。
となると、元々というよりは仕掛けの方か。
それが何かわかれば、ダグを倒す取っ掛かりにはなるかもしれない。
他に、王都・ツリーフに現れる魔物の方だが、結界が消えた今も戦闘は継続中だが、まだ対処できているということだった。
一応、余力はまだあるようだが、魔物が増え続けていくと時間で決壊するのは確実。
援軍もそろそろ到着し始める可能性はあるが、問題はそっちも襲われると合流は難しいということ。
魔物が現れ続ける現状では、挟撃とはならない。
寧ろ、援軍は戦地で孤立した部隊である。
そこに、ダグへの対処にも人員が必要であるため――最終的にはギリギリ……いや、こっちに分が悪いかもしれない。
それもかなり。
ルウさんとロアさんもそれはわかっているため、今ルウさんは作戦会議室で他のエルフたちと共に策を練っているそうだが……まあ、そう簡単にはいかないようだ。
なので、ここは俺が一計を案じることにした。
「少しやってみたいことがあるが、やってみていいか?」
もちろん、許可を取ってから。




