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賢者巡礼  作者: ナハァト
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繋がっていくことはできる

 翌日。森の国・フォレストガーデンに向けて出発する。

 これまで同様に見送られるが、その前に一つ。


「……アルム。多分、あいつが関わっていると思う」


「ああ、わかっている。一応、ここに戻る前に注意だけは促しておいた。もしもの時は、レイさんの分まで俺がやり返してやるよ」


「……うん。期待している」


 光のレイさんが親指を立ててきたので、俺も立て返しておく。

 そして、竜杖に乗って空へと飛び立ち、アブさんと共に森の国・フォレストガーデンに向けて進む。

 その途中で、アブさんが声をかけてくる。


「先ほどのはなんだったのだ?」


「何が?」


「アルムは此度の出来事の犯人がわかっているのか?」


「ああ……まあ、証拠の類はないから、推測の域は出ないが」


「それは、世界樹のところから出る前に注意しろと言っていたヤツのことか?」


「そうだ」


 間違いなくアイツだ、という確信があった。

 今の状況を考えると――おそらく、あの時に行ったのだろう。

 今に繋がる出来事――その発端を。


     ―――


 エルフは長命種の代表的な存在の一つだ。

 光のレイさんの記憶を受け継いだため、それがよくわかる。

 人の何倍もの時間をかけてゆっくりと成長していき、見た目の年齢が人で言うところの二十歳くらいでとまり、その状態が長く続いていくようだ。

 光のレイさんは森の国・フォレストガーデンに居た頃と、今を比べても特に変わりはない。

 見た目ではなく、中身が。

 少しボーっとしているように見えるが、実際のところは違う。

 常に色々と考え続けているから、反応が少し遅れているようだった。

 また、光属性魔法を極めているように、その才覚は歴代エルフの中で一番であると称されたほどだ。

 そんな光のレイさんが森の国・フォレストガーデンに居た時期が今から何年前とか正確な部分はわからないが、別の推測はできる。

 およそ二百年前に光のレイさんは森の国・フォレストガーデンを出た。

 出た理由は、両親の死が関係している。

 妹であるロアさんが幼い頃に、王都・ツリーフはある魔物の襲撃を受けた。

 それは、頭部が獅子、胴体は牝山羊、尻尾が蛇のキマイラ。

 森の国・フォレストガーデンには居ないはずの魔物であり、凶悪で強い魔物である。

 光のレイさん……それとルウさんとロアさんの両親は、そのキマイラと相討ちとなってこの世を去り、記憶の中のルウさんとロアさんはボロボロと泣き続けていた。

 もちろん、光のレイさんも悲しみに包まれている。

 しかし、同時に違和感を抱いていた。

 本来は現れないはずの魔物が現れたのだ。

 両親の死の裏に、何かあるのではないか? と思い、考え始めたのだ。

 両親を失った三姉妹はより姉妹の絆と結束を強くして、両親が居ないからと同情されるのではなく、さすがあの二人の娘だ、と言われるように頑張り、ルウさんはエルフの象徴といっていい世界樹を守る「世界樹の護り手」に、ロアさんは国と民の安全を守る「護衛隊」に所属する。

 光のレイさんはどこにも所属しなかった。

 他にやること――両親の死の裏にあるかもしれない何かを探っていたのだ。

 ただ、それが姉妹や周囲から見ると怠惰となっているように見えて心配されていた。

 そうして日々が進んでいく中、再び大きな事件が起こる。

 それは、新たな世界樹の護り手を決めるために行われた試験での最中。

 世界樹の護り手は数が決まっており、欠員が出ると試験が行われ、その内容は魔物の討伐や神殿内の守衛など、実際に数日間護り手として行動するというモノ。

 その試験を受ける候補の中には、ルウさんに心配されて無理矢理参加させられた光のレイさんの姿があり、他にも神殿で絡んできたエルフの男性――ダグの姿がある。

 ダグはどうやら優秀な人物として、森の国・フォレストガーデンの外から招かれたようだ。

 そんな試験の最中に再び起こった大きな事件――それは、王都・ツリーフに再び現れるはずのない魔物――数体のゴーレムが現れたのである。

 その時に、ダグが怪しい行動を取ったのを、光のレイさんは目撃した。

 世界樹、それと王都・ツリーフを守るために世界樹の護り手、護衛隊が総出でゴーレムを倒すために向かっていく中、ダグだけが逆方向――世界樹の方に向かっていくのを見たのである。

 けれど、光のレイさんはそのあとを追わなかった。

 ゴーレム数体の脅威の方が大きかったからだ。

 それに、ダグはいつの間にかゴーレム数体との戦闘に参加していたため、光のレイさんはこの時は勘違いだったのかもしれないと思ってしまう。

 ゴーレム数体を倒したあとに特に何も起こらなくとも、その時の光景は意識の中に残り、実際は何かあったのでは? という懸念は拭えなかった。

 だが、何かをした、何を行ったのか、というような証拠はない。

 光のレイさんは言い知れぬ不安を覚えていた。

 こういう時、人によっては思いもよらぬ行動を取るものだ。

 光のレイさんはその例に漏れず、森の国・フォレストガーデンの中に居ては真実を見つけられないと考えて、ルウさんとロアさんがとめてもとまらず、外へと飛び出す。

 結果から言えば、光のレイさんは世界の広さを知るだけで、決定的なモノは何も掴めなかった。

 わかったことと言えば、ダグは別の場所にあるエルフの森の出身であり、何かしらの目的があって力を渇望している傾向が強い、ということだけ。

 光のレイさんの終わりは、もうこれ以上は情報が集まらないと判断し、森の国・フォレストガーデンに戻ろうと決めて、そのための資金稼ぎに来たラビンのダンジョンを挑んでいた時に足場が崩れ、そのまま大穴に落ちてしまったというモノだった。

 時に人生は無常である。

 しかし、繋ぐことはできたのだ。

 光のレイさんの記憶が受け継がれたからこそ、俺は断言できる。

 あの時、ダグが世界樹に向かったのは、呪樹を設置するためだったのだ、と。


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