二度あることは三度ある
「……世界樹がそんなことに。思っていたよりも大変なことが起こっていた。……でも、アルムならきっとどうにかできる。頑張って。アブも」
任せた、と光のレイさんが親指を立ててきたので、俺も同じく親指を立てる。
「う、うむ。任されました」
アブさんは光のレイさんというか女性陣にはまだ慣れていないため、明らかに虚勢だとわかるが、それでも同じように親指を立てた。
そして、早速風のウィンヴィさんの記憶と魔力の受け継ぎに行く。
向かうはボス部屋。
準備は直ぐ終わるそうなので、そのまま全員で向かう。
ボス部屋に着くと――。
「ZZZ……」
カーくんが奥の方で気持ち良さそうに眠っていた。
どうやら難を逃れたようである。
わざわざ起こす必要はないので、そのままにして早速始めることにした。
「さっ。始めようか」
ラビンさんがボス部屋中央に向かい、足のつま先で床をちょんちょんと叩く。
すると、ラビンさんを中心とした一定範囲の床が光り輝き、線で繋がった二つの魔法陣が描かれた。
ラビンさんはその繋がっている線の部分に立ち、俺と風のウィンヴィさんを見る。
「それじゃあ、ウィンヴィはこっち。アルムくんはこっちね」
指示された魔法陣の中央に立つ。
風のウィンヴィさんも同様だ。
「さて、アルムくんはもう慣れたモノだけど、ウィンヴィは初めてだから言っておくけど、別に痛みとかないから安心してね」
「知ってるよ。ヒストとレイから聞いているから。大丈夫」
じゃあ問題ないね、とラビンさんが鼻歌を歌い出し、そのまま何かがあるように空中で両手を動かしていく。
前回も見た光景だ。
風のウィンヴィさん側の魔法陣が大きく輝き出し――。
「それじゃあ、いくよ! ウィンヴィ!」
「いつでもどうぞ!」
その言葉を合図に風のウィンヴィさん側の魔法陣の輝きが収まっていき、代わりに線の部分に強く輝く球体が描かれ、その球体が俺の方へ移動し、今度は俺側の魔法陣が輝き出す。
火のヒストさん、光のレイさんの時と同じく、何かが俺の中に流れ込んでくる。
腹部の辺りが熱を持ち、頭の中に何かが刻まれていき――俺は、風のウィンヴィさんの人生を駆け抜けていく。
やっぱりというか、一瞬で駆け抜けたのか、それとももっと時間をかけて駆け抜けたのかは、やはりわからない。
しかし、気が付けば俺は俺のまま、魔法陣の輝きが消えていた。
けれど、確かな実感として、俺の中に残っている。
――俺は、風のウィンヴィさんの魔力と記憶を受け継いだ。
「もちろん、上手くいったよね? アルムくん!」
風のウィンヴィさんが笑みを浮かべながら確認してきたので頷きを返し……動く。
「風よ」
軽く手を振れば、振った方向に向けてヒューっと瞬間的にだが風が吹く。
しっかりと風が吹くことを確認して、その場で宙返り。
「気流が」
身体能力が低い俺がまともな宙返りはできないが、俺の動きに合わせて風が吹き、綺麗な宙返りができた。
風の流れに合わせて砂塵が舞い、視覚的にもどう流れているのかわかる。
そして、着地する前に強い風が吹き、俺を上へと持ち上げた。
「包むような優しい流れは生命を運び繋ぎ」
上空ではさらに左右から風が吹き、俺は空を舞うように横回転で回り続ける。
「吹き荒ぶ烈々たる流れは死を招き」
今度は上下から風が吹き、縦に円を描くように上昇、下降を繰り返す。
「生と死の真逆を宿す」
その勢いのまま、殻から飛び出すほどの追い風が吹き、ボス部屋上空を舞いながら旋回して、ゆっくりと下降していく。
下降して床に触れそうになる瞬間、その場で竜巻が起こって俺を包み、急上昇。
「この流れはまさしく一生を表す」
竜巻の上に乗るような形で中から姿を見せ、両腕を広げてボス部屋内に風が吹き――。
――フッ。
と竜巻は消えて、ついでに吹いていた風も消え、そのまま落ち、尻に強打を受ける。
……い、痛い……尻が割れた……いや、元からか。
「まあ、失敗するよね。まだまだ制御が甘い」
風のウィンヴィさんが楽しそうに言う。
ラビンさんや無のグラノさんたちも、こうなると思っていたと、朗らかな雰囲気だ。
「大丈夫。次は上手くいきますよ」
「頑張ってください! 期待しています!」
母さんとリノファが励ましてくれるが、今は恥ずかしさと尻の痛さの方が上回っているので、そっとしておいて欲しい。
立ち直ったあとであれば、励ましはいくらでも受け入れるから。
「……ハアックション!」
突然、大きなくしゃみが起こる。
起こしたのは、カーくん。
どうやら、風で舞い上がった砂塵を吸い込んでしまったようだ。
「ZZZ……」
でも起きないカーくん。
本当に気持ち良さそうに寝ているので、そっとしておこう。
とりあえず、記憶は受け継いだが実際に教わってより魔法使用に対する理解を深めるのは、火のヒストさん、光のレイさんの時も同じである。
より使いこなせるようになるために、この日は風のウィンヴィさんから風属性魔法について色々と教わってから寝た。
―――
翌日。起きて直ぐ――にはまだ向かわない。
森の国・フォレストガーデンからここまで大急ぎで来たので、俺とアブさんの準備ができたとしても、エルフ側の避難も含めた準備ができていないと思われるからだ。
今回は、エルフ側の協力も必要なのである。
何しろ、ラビンさんの推定予測では、世界樹に今ある魔力を全部注いでも、回復まで二週間はかかる。
その間、俺とアブさんだけで世界樹を守るのは不可能だ。
「いや、某だけでもやろうと思えばできるが?」
アブさんがそう言う。
ジッと見る。
「………………い、いや、やっぱ無理かな。二週間戦い続けるとなるとさすがに魔力が厳しい」
虚勢を張ったようだ。
自分もできる、というところを見せたかった、らしい。
いや、ダンジョンマスターなんだから、そこらのより全然できるだろ、と言うと、アブさんは上機嫌になった。
何より、即死は強過ぎると思うのは、きっと俺だけではない。
まあ、世の中にはそれでも効かない、という者も居るけど。
話が逸れたが、とりあえず、今日戻っても早過ぎるので、もう一日魔法の練習――主に風属性魔法の練習にあてて、実戦でも使えるようにしようと思う。
風属性魔法と言えば、代表的というか基礎なのはやはり風刃でモノを斬る――だが、練習中にどうしても気になることがあった。
「………………いや、いくらなんでも、これで斬れたからって証拠隠滅にはならないからな」
女性陣が失敗したと思われる洗濯物を掲げて待機していたので、念のためそう言っておいた。




