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賢者巡礼  作者: ナハァト
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最初は失敗するモノ

追加の一話。

「しかし、相手は国か……ふむ……」


 無のグラノさんは顎に手を当てて、考え込む。

 それは他のみんなも同じだった。

 最初に受け継がせるのは、どの属性が、誰の魔力がいいかを考え始めている。

 無のグラノさんの言った通りなら、どの属性でも、誰の魔力であっても国を相手取ることができるらしい。

 俺はそれだけの魔力を受け継ぐという実感が湧かない……というより想像できないので、ここは答えを任せることにした。

 すると、無のグラノさんたちの視線が、自然と一つに集まっていく。

 集まった先に居たのは――火のヒストさん。


「ここはやはり、『火』かの」


「そうだね。わかりやすいのは間違いないし」


「自分たちの魔力に大きな差はありませんしね」


 無のグラノさん、風のウィンヴィさん、闇のアンクさんがそう口にする。


「まあ、妥当ですね」


「ウチのでもいいけど、ここは譲ってあげるわ」


「……仕方ない」


 水のリタさん、土のアンススさん、光のレイさんも同じように納得を口にする。


「悪いな、みんな。そういうことなら、まずは俺からいかせてもらうぜ!」


 火のヒストさんが俺の下へ来る。

 どこか笑みを浮かべているようだった。


「俺の魔力と記憶を使って、母ちゃんを助けてやれ、アルム」


「ありがとう。火のヒストさん。受け継いだ魔力と記憶は、ただしく使わせてもらう」


「ばあか。俺たちに対して気を遣うな。魔力は魔力だ。受け継けば、それはもうお前の魔力。好きに使えばいい」


 火のヒストさんが親指を立てる。

 その姿が妙に様になっていた。

 わかったと、俺も親指を立てる。

 そして、俺は火のヒストさんの魔力と記憶を受け継ぐ。


     ―――


 無のグラノさんたちに案内された場所は、普段カーくんが居る、俗に言うボス部屋。

 最下層でもっとも広い場所であり、今もカーくんとラビンさんが居る。

 けれど、その様子はいつもとは違って、どこか真面目な雰囲気が漂っていた。


「カーくんとラビンさんは立ち合いなのか?」


「いや、実行者じゃ。結局のところ、受け継がせるのも魔法での。ワシらは魔法が使えんから、ラビンに実行してもらうのじゃ」


「なるほど」


 無のグラノさんの説明に納得して、全員でカーくんとラビンさんの前に立つ。


「それで、今のアルムくんだと受け継げるのは精々一人分。誰を受け継がせることになったのかな?」


 ラビンさんの問いかけに、火のヒストさんが前に出る。


「俺だ」


「ヒストくんか。うん。いいんじゃないかな。それじゃ、特に準備も必要ないし、早速始めようか」


 ラビンさんの片足がその場をトントンと二度踏む。

 そこを中心点として、光る線が左右に伸びていき、その先で巨大な魔法陣を描く。

 魔法を習い始めたばかりの俺にはよくわからないが、それでも描かれた幾何学模様の魔法陣にはどこか特別的なモノを感じることができた。


「アルムくんはこっち、ヒストくんはあっちね」


 ラビンさんが両腕を広げ、左手側にある魔法陣の中心に俺が立ち、右手側にある魔法陣の中心に火のヒストさんが立つ。

 無のグラノさんたちとカーくんは、ここから少しだけ距離を取る。

 ラビンさんはそのまま二つの魔法陣が繋がっている光る線上に立ち、広げた両腕を自身の前へ。


「さて、それじゃ、時間をかけても仕方ないからサクッといくよ」


 そう言って、ラビンさんが鼻歌を歌いながら、そこに何かがあるかのように空中で両手を動かす。

 すると、火のヒストさん側の魔法陣が大きく輝く。


「準備はいいね? ヒストくん」


「おう。いつでもいいぜ」


「それじゃ、魔力と記憶を抽出して……アルムくんへ渡す」


 火のヒストさん側の魔法陣の輝きが収まっていくのと同時に繋がっている線の部分に強く輝く球体が描かれ、その球体が俺の方へ移動し、今度は俺側の魔法陣が輝き出す。

 輝きに包まれる俺の体に、何かが流れ込んでくるような感覚を抱く。

 腹部の辺りに熱いモノが流されていき、同じく頭部に何か刻まれていくような――瞬間、俺ではない、誰かの人生を見せられる。

 いや、まるで俺自身がそう生きてきたかのような体験。

 時間がどう経過したかはわからない。

 一瞬だったのか、それとも日が変わったのか……。

 けれど、気が付けば腹部の熱さは消え、見せられていたモノは終わり、魔法陣は輝きとともに消えていた。


 ――俺は、火のヒストさんの魔力と記憶を受け継いだ。


「いけるな? アルム」


 火のヒストさんの問いかけに、俺は笑みを浮かべ……動く。


「火が」


 口を開くと同時にパチンと指を鳴らすと、指先に小さな火が灯る。


「炎が」


 灯った火が大きく燃え上がり、頭上で手を振るって円を描けば炎の輪ができあがった。


「すべてを燃やし尽くし」


 炎の輪の中に手を差し込めば、炎の輪はさらに燃え上がり、四方に伸びていく。

 先端が地表に着くとその場で燃え上がり、炎の柱となる。


「次へと進む道を照らす」


 四本の炎の柱が円を描くように俺の周囲を回り始め、そのまま中心に向かうように円を狭めていき、中心に居る俺を包み込んで一気に燃え上がった。


「それはまさしく生命の輝き」


 燃え上がった炎の柱の上に新たな火の玉が作り出され、炎の柱はそれに吸い寄せられていく。

 下から上へ。

 吸い寄せられて昇る炎の柱の中からまったく燃えていない俺が姿を現し、炎の柱をすべて吸い取った火の玉が輝きながら激しく燃える。


「今、光輝の雨が降る」


 輝く火の玉が弾け、火の粉の雨を降らせた。

 その中心で、俺は決めポーズを取る。

 受け継いだ記憶の最後――火のヒストさんから、火属性魔法を使った一芸を披露して欲しいと頼まれたので、やってみ――うん。なんか焦げ臭い。

 火の粉の当たりどころが悪かったのか、魔法の操作が悪かったのか、服の一部が燃えている。


「うわあああああっ!」


 地面を転がりまくって付いた火を消す。


「まだまだじゃの」


 無のグラノさんの、そんな呟きが聞こえた。


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