頑張った証が刻まれたってことで、一つ
世界樹のことをラビンさんと話す。
こういう協力を求められて、それが最善なのか、を知りたかった。
ただ、よくよく考えてみると、ラビンさんはダンジョンマスターだ。
最善かどうかの判断は――。
「うん。悪くないんじゃないかな。実際、世界樹の高さを考えると空気は相当薄いだろうし、そこまで行けるとしたら……うん。アブくんだけだね。アルムくんでもエルフでも無理。まあ、手段がない訳ではないけど、アブくんに任せるのがいいと思うよ。魔力を注ぐのも、一度戻って新たに受け継ぐのはいい判断だったね。もう一人分魔力が増えれば……うん。一か月よりもっと短縮できると思うよ。多分、二週間くらいかな?」
できるようだ。
もうラビンさんに関しては、さすが、としか言えない。
わからないことがあれば、ラビンさんに聞けば答えてくれるような気がしてきた。
「いや、さすがになんでもは無理だよ。まあ、時間をくれればいけると思うけど」
恐ろしい。
味方で良かった。
「それでも、二週間か。やっぱり、それでも長いな。魔物の襲撃があるようだし」
「だからエルフが頑張るんでしょ。エルフにとっても暮らしやすい土地だろうし、守る意味は充分にあるよ。それでも心配なら、アルムくんも手伝えば? 魔力を注いだあとは自由だろうし。魔力回復すれば戦えるでしょ?」
「あっ、そういえば回数聞いてなかった。ずっと注ぎ続けるものだと思っていたけど……一度でいいのか?」
「一度でいいんじゃない。過剰にすると返って駄目になる時もあるし。まあ、それは世界樹に聞けばいいよ。多分、増えても一回か二回だと思うよ」
確認は必要だが、俺も世界樹防衛に参加した方がいい気がする。
すると、ガタッ! という椅子が動く音が聞こえ、視線を向ければ無のグラノさんが立ち上がってガッツポーズを決めていた。
どうやら、ボードゲームの勝者が決まったようだ。
拍手を送っておく。
両手を上げて称賛を受ける無のグラノさんを見ていると、風のウィンヴィさんがこちらにやってきた。
「やあやあ、途中から負け確したから耳を傾けていたけど、今度は僕のを受け継ぎたいみたいだね!」
「ああ。それが最善のようだ。ただ、受け継げるだけの状態かどうかわからないが」
そう言うと、風のウィンヴィさんだけではなく、ラビンさんも加わって、俺の体をじっくりと見始める。
「……うん。大丈夫じゃないかな」
「僕もそう思う。結構走り込んだ? 基礎的な部分が少ししっかりしたように見えるね」
二人から大丈夫だと言われて、ホッと安堵。
直ぐ取り掛かりたいところだが……受け継ぐための魔法陣は最下層である。
今は立ち入り禁止――というか絶対入れない訳ではないが、自ら進んで危機に飛び込む必要はない。
この場で何日も待たされるという訳ではないだろうから、大人しく待つことにした。
多分というか、確信に近いが、森の国・フォレストガーデンに戻れば大忙しになる気がする。
なので、万全の態勢で対応できるように、今はしっかりと気を休めておこう。
―――
ただ待っているのも気を張って疲れるので、無のグラノさんたちに交ざってボードゲームをして、アブさんが奇跡の大逆転を決めた時、母さんが姿を現した。
「あら? 戻っていたのね。おかえりなさい」
「え? あっ、ただいま」
母さんは無のグラノさんたちの衣服を持ってきていて、「申し訳ありません。私の指導力不足かもしれません」と謝りながら渡していくと戻っていった。
気を遣ったのだ。
何しろ、スケルトンとはいえ、着替えは着替えである。
男性であっても覗かれていい気はしない。
無のグラノさんが衣服を着ると――。
「……縫い合わせているな、どれも」
元はボロボロだったというか、ボロボロから何事もなかったかのように綺麗に縫って修復されていた。
パッと見ではわからないレベルであり、寧ろ綺麗になっているように見える。
多分だけど、失敗して……母さんが高速で直したのだろう。
「まあ……期待はしていなかった」
無のグラノさんのその一言には、どこか哀愁が漂っていた。
けれど、これで最下層へと下りることができるので、早速とばかりに下りると――。
「「「「………………」」」」
女性陣とリノファがこちらに向けて頭を下げていた。
傍らには母さんも居て、先ほどと同じく申し訳なさそうにしている。
男性陣は――。
「次に期待する」
と器の大きさを示した。
女性陣とリノファもホッと安堵。
そうだな。
なんでも早々一度で成功する訳がない。
今回は、きっと力加減が上手くいかなかったのだろう。
何しろ、スケルトンだ。
アブさんが俺を支え続けられないように、筋肉がないということは力もない。
それを補うために頑張り……破けたのは、寧ろ一生懸命さの表れである。
リノファも、女性陣の頑張りに触発されて頑張ったに違いない。
男性陣もそれがわかった――伝わったからこそ、責めなかったのだ。
――と、いい話風に考えてみたが、実際はどうだったかわからない。
そうだといいな、という願望である。
それに、縫われているが服が破けたのは事実。
代わりは……ラビンさんが用意しそうだな。
じゃあ、問題ない、ということで。
そこで、光のレイさんが俺に声をかけてくる。
「……どうだった? フォレストガーデンは。……というか、思っているよりも早く戻ってきたけど、何かあった?」
隠すことは何もないと、俺は光のレイさんに世界樹のことを説明した。




