勘違い後は恥ずかしいよね
朝。
起きてリビングに向かうと、ルウさんとロアさんは既に起きていて、大テーブル周りの椅子に座っていた。
けれど、なんというか雰囲気がいつもと違う。
正確には、ルウさんから発せられる雰囲気が重く、ロアさんがどうすればいいのかわからずに、少しオロオロしている感じだろうか。
「……っ!」
ルウさんが俺に気付き、立ち上がる。
「………………」
「………………」
しばし見つめ合い――。
「嘘、ではないのですよね?」
「事実みたいだ」
俺はそう返す。
すると、劇的に反応する人が居た。
「……え? いやいや、待って待って。なんで見つめ合って? しかも、何やら通じ合っているし……は? な、何があったの? 私の知らない内に何かあったの? もしかして、昨日の別行動の間に何かが!」
狼狽えまくっているロアさんが、何か盛大な勘違いをしているような気がする。
最初の時もそうだったが、突っ走る傾向が強いのかもしれない。
光のレイさんの記憶の中のロアさんは………………まあ、今とあまり変わらないかな。
「ロアは何を慌てているのですか?」
「いや、慌てるよ! だって、これまでそんな気は一切なかったルウ姉に相手ができるなんて! わかってはいるよ! 妹として、姉の幸せを願っているから、漸くと歓迎はするけど、いくらなんでも早くない? こんな数日で! 恋愛に時間は関係ないって近所のお姉さんも言っていたけど、実際に目の当りにするとちょっと驚きどころではないんだけど!」
ルウさんは冷静そのもので、ロアさんの言っていることの意味がわからないと首を傾げる。
もちろん、俺も首を傾げた。
アブさんも同様。
「もちろん、ルウ姉がこれがいいって言うのなら、私だって祝福はしたい! でも、これはレイ姉の魔力を持っているのよ! 胡散臭いにもほどがあるじゃない! ……はっ! 待って、ルウ姉! 私、気付いた! きっと、これはルウ姉の魔力を狙っているのよ! 魔力を奪うつもりなんだよ! 実力でルウ姉を手に入れられる訳ないし、きっと口で上手く丸め込んだに違いないわ!」
さっきから、これ、と言いながら俺を指差すのは失礼ではないだろうか?
文句言っていい?
「それに、これは牢屋に平気で寝泊まりするようなヤツなのよ! まるでそこが我が家のように寛いでいたわ! きっと何度もお世話になっているに違いないわ! ……はっ! そういえば、ウッドゲートのおばちゃんたちが言っていたわ。若い頃は少し悪いのに惹かれていたって。それ? それなの! ルウ姉! 正気に戻って!」
正気に戻るのはロアさんの方だと俺は思う。
いや、俺だけではなく、アブさんもルウさんも思っていそうだ。
明らかに戸惑っているルウさんが、ロアさんに声をかける。
「え、えっと、ロア。一体なんの話をしているのですか? 私とアルムくんは、昨晩訪れていただいた世界樹の精霊さまのことを確認していたのよ」
「なんのって、ルウ姉とこれが……世界樹の精霊さま? え? なんの話?」
ロアさんからも戸惑いを感じる。
いや、正気に戻ったと言うべきか。
ここが絶好の機会だと、昨晩の出来事をルウさんと一緒に説明していく。
話す内容は大体同じだが、違う部分はそれぞれ役割があるということくらいだ。
俺とアブさんは世界樹への直接関与で、ルウさんは世界樹の巫女としてエルフを取り纏めて世界樹を守ること、だろうか。
まあ、守るのは俺とアブさんも参加するつもりだけど。
そうして、俺とルウさんからの説明を聞き終えたロアさんは――。
「……死にたい」
顔を両手で覆って、そう呟いた。
耳まで真っ赤になっているので、覆っている部分がどうなっているのかは想像するまでもない。
どうやら、先ほどまでの言動で思うところがあるようだ。
「そうしている場合ではないのよ、ロア。世界樹の危機――そして、それはそのままこの森とエルフにも大きく関わってくるのよ。よくわからないけれど、私は気にしていないわ。もちろん、アルムくんだって」
追い打ちをしているように見えるのは、俺だけだろうか。
「ああ、もうわかったわよ! 自爆したようなモノだしね! 危機的状況だってわかったわよ! 落ち込む暇なんてないほどにね!」
無理矢理立ち直ったというように、ロウさんは顔を覆っていた両手を外して俺たちを見る。
若干、俺とアブさんに向ける視線が厳しいモノになっているような……いや、気のせいってことにしておこう。
はあ、と息を吐いたあと、ロアさんが口を開く。
「状況はわかったわ。本当に危機的状況のようだし……でも、その話が本当なら、私たちエルフの中に敵……裏切り者が居るってことだけど、本当にそんな状況で戦力を集めるの? 本当に居るのなら、その中に間違いなく居るわよ。そして、世界樹を守っている間に、何かしらの行動を起こすのは確定ね」
「それはわかっていますが、それでも世界樹を守るためには結集させなければいけません。同時に、非戦闘員には避難も促さなければ」
「そうね。とりあえず、非戦闘員はウッドゲートに避難してもらえば大丈夫だと思うわ。一応、数日は余裕があるようだし……誰かさんのおかげでね。持っていく物を最小限にすれば大丈夫よ」
ロアさんが俺を見る。
まあ、俺が行って戻ってくるまでの間の時間だからな。
「その数日は伸ばせないの? そうすれば、裏切り者を見つけることだってできるのに」
ロアさんの質問に、俺とルウさんは揃って首を横に振る。
「まあ、そうよね。悪影響しかないのなら早く処分した方がいいに決まっている。寧ろ、数日あるだけでもありがたいわ。この数日で取れる対応は多いし」
ロアさんも納得し、時間は限られているため、早速行動を開始する。




