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賢者巡礼  作者: ナハァト
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そういう意味で言ったんじゃない!

 世界樹の精霊から、協力して欲しいという話を聞き終え、頭の中で纏める。

 現在、世界樹は呪樹によって生命力と魔力を吸われ続けている。それもそれなりの期間。

 つまり、天を突くような巨樹という見た目に反して、かなり弱体化しているということだ。

 呪樹を解除できるのは、ある場所が生命体では無理だという場所のため、不死系統であるアブさんにお願いするのは……まあ、わかる。

 わからないのは、俺に頼む魔力補充だ。


「いや、話は大体わかったが、どうして俺とアブさんなんだ? いや、アブさんの方はまだ理解できる。しかし、俺の方は別に俺でなくてもいいと思うが? ここには協力者が大勢居るだろ」


 もちろん、俺の魔力量はそもそも人を超えた量の二人分だというのはわかっている。

 それでも、ここは王都・ツリーフであり、大勢のエルフが居るのだ。

 総量では負ける……かもしれない。


「魔力であればなんでもいいという訳ではないのです。たとえ私の加護を受けているエルフであったとしても私に注げるような洗練された高品質の魔力を持つ者は居ません。残念ですが」


「つまり、今この場に居て世界樹に魔力を注げるのは俺だけということなのか?」


「その通りです。ちなみにですが、通常であれば回復に一年はみていただかないといけませんが、あなたの魔力があれば一月くらいまで短縮することも可能です」


 それは、随分と早くなるな。

 わざわざ協力をお願いするのもわかる。


「それに、エルフたちには私を守ってもらわないといけません」


「守る?」


「はい。今回の場合、手順としてはまず呪樹をどうにかしなければなりません。先に魔力を注いでも呪樹が吸収してしまうからです。そして、呪樹を排除すれば私は弱体化し、そのまま私の結界を無防備にしてしまうのが問題なのです」


「どういうことだ?」


「ここに入る時に見たと思いますが、私の影響が弱まるだけでここは大きな危険地帯になってしまうのです」


 見た……前に比べて王都・ツリーフが小さくなったことか。


「言ってはなんですが、私は世界樹です。私の枝や葉を欲するのは何も人だけではなく魔物も同じ。もし呪樹を排除した影響で私が大きく弱まる、いえ、なくなってしまうと、森の魔物が一気に動き出して襲撃してきます」


「世界樹は誰からもどこからも大人気ということか」


「本当に人気過ぎて困っています。なので、守ってもらわなければ、回復する前に私は死んでしまうでしょう」


 なるほど。

 これで大体の事情はわかったと思う。

 だが、それなら――。


「エルフたちの中に敵が居るかもしれないのなら、まずはそっちでは?」


「確かに、直ぐどうこうなる訳ではありませんが、見つかるかわからない者に時間を割いている間に、私が抑制している力よりも呪樹の吸収する力の方が上回る可能性があります。できるだけ早い内に行動を起こしていただけた方が助かります」


 ……まあ、話の流れでなんとなく検討はつくが、証拠の類は一切ない。

 迂闊に探って、今よりも悪い状況に持っていかれる方が面倒だ。

 だったら、まずは世界樹を治してーーそれで何かしらの行動を取るであろうアレと対峙した方がいいかもしれない。


「協力していただけないでしょうか?」


 世界樹の精霊が、改めてそうお願いしてくる。

 いや、俺としては理由もわかったことだし、協力してもいい。

 光のレイさんからも、よろしくとお願いされていることだ。

 ただ、俺はアブさんの挙動を縛ってはいない。

 アブさんが協力するかどうかは、アブさんの意思次第だ。


「わかった。協力しよう」


 俺はそう答えて、アブさんを見る。

 アブさんは少しだけ考えて――。


「いいだろう。死を司る者が生を司る者を助けるというのも一興だ。協力しよう」


「お二方とも、ありがとうございます」


 世界樹の精霊が、俺とアブさんに向けて感謝を伝えるように頭を下げる。


「いいさ。それで、口振りと王都・ツリーフの様子から、まだこのことを伝えていないんだろ? エルフたちにはいつ告げるんだ?」


 行動を起こすのなら早い方がいいが、魔物が来るなら準備を――いや、待てよ。

 もしかすると、もっと短縮できるかもしれない。


「これまでは抑え込めていましたが、森から逃がすためにそろそろ言うつもりでした。なので、このあと直ぐにでも『世界樹の巫女』であるルウに――」


「伝えるのは少し待――え? 巫女? ルウさん?」


 初めて知ることに首を傾げ、世界樹の精霊も何かありましたか? と首を傾げる。


「え、ええ。ルウは世界樹の巫女ですが、何か?」


「世界樹の巫女とは?」


「私の加護を受けたからといって、誰しもが私と通じ合える訳ではないのです。こうして通じ合えることができるのが、世界樹の巫女ということです」


「……え? こうして? 俺も、俺たちも世界樹の巫女なのか?」


 アブさんと顔を見合わせ、互いに指し示し合う。

 あなた、世界樹の巫女?

 わたし、世界樹の巫女?


「いえ、あなた方には私が自ら姿を晒しているだけです。この方が伝わりやすいだろうと」


 そうなのか。

 けれど、納得もできる。

 家がこんなに大きいのも、ルウさんが神殿で羨望の眼差しを受けていたのも、世界樹の巫女というのが少なからず関係しているのかもしれない。


「そうか。こっちが待って欲しいのは、伝える――いや、伝えるのはいいんだが、開始を少しだけ待って欲しい、ということだ」


「どういうことでしょうか? 時間をかけて何か変わるのですか?」


「ああ。数日だけで構わない。待ってもらえるのなら、もっと魔力を増やすことができるかもしれない。もちろん、増えるのも高品質の魔力だ。回復がもっと早まるんじゃないか?」


「確かに早まりますが、それはあなたの中にあるレイの魔力が関係しているのですか?」


「わか……るよな、世界樹だ。なんら不思議じゃない。まあ、関係はあるかもな」


 友人関係が。


「少なくとも、同品質同量レベルなのは間違いない」


「そういうことでしたら、待ちましょう」


 ホッと安堵する世界樹の精霊。

 ……なんで安堵?


「そういうことって、他に何かあるのか?」


「時間がないと言うのに待てと言われたので、そういう趣味嗜好サドィストの方なのかと思いました」


 ニッコリ、と笑みを浮かべる世界樹の精霊。

 そんな訳あるかい!


「まあ、それならそれで悪くありませんが。世界樹としてすべて受けとめましょう」


 いや、受け入れないで欲しい。

 世界樹を助けることになったが、とりあえず、今は真夜中である。

 早速伝えてきますとルウさんの下へ向かった世界樹の精霊を見送ったあと、もう一度寝ることにした。


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