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賢者巡礼  作者: ナハァト
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空気を読んでも、相手が読むとは限らない

 嫌味たっぷりな声をかけてきたのは、エルフの男性。

 外見だけで言えば、二十代後半くらいだろうか。

 金色の髪を前髪からうしろに流し、切れ長の鋭い目付きの端正な顔つきに、如何にも戦闘職と言った弓を背負った軽装を身に纏っていて、腰には数本の短剣を提げている。

 なんというか……雰囲気がある。

 他のとは違う、と自らは高みにいると示すような。

 だからだろうか、その表情は神経質そうな印象があって、イラだたしげに俺を見ていて……次にルウさんを見る。

 ルウさんを見る目には侮蔑のようなモノが感じられた。


「エルフ以外を世界樹に近付けるのに、世界樹の護り手の過半数から許可をもらえばいいのですから、その中の一人でしかないあなたの許可は必要ないのですよ。『ダグ』」


「ダグ」。

 確かに、それが目の前の男性の名前だ。

 前よりも成長しているが、面影は残っている。

 特に、他者を見下しているような目は変わっていない。

 なるほど。世界樹の護り手になった訳か。

 ただ、少しだけ驚く。

 のほほんとしているというか、基本的に穏やかな性格だと思われるルウさんの言葉は少し強い。

 相手をするのが面倒とか、そういう雰囲気もある。

 そして、言ったことが事実であるのか、ダグは何も言わない。

 ただ、忌々しげにルウさんを見て、ついでとばかりに俺も見てくる。


「……確かに、その通りだ。だが、それも………………ふんっ!」


 踵を返して、ダグは去っていく。

 対して、ルウさんは俺に向けて頭を下げた。


「申し訳ありません。嫌な思いをさせてしまいました」


「……あれは、普段からああなのか?」


「そうですね。時折、他人に対して厳しい目を向けています。ただ、前はああではなかったのですが、いつの頃からかああいう態度を取る――見せるようになってしまっていて」


「苦労してそうだな」


 そう言うと、ルウさんはなんとも言えない表情を浮かべる。


「そうですね」


「あれが言っていた、離れていた、というのは?」


「ああ、それは、世界樹の護り手には世界樹を守るだけではなく、この森の平和を守る務めもあるのです。あの者はその務めに出ていたのですが、どうやら戻ってきたようですね」


 少しだけげんなりしたような雰囲気を見せるルウさん。

 実際に相対して、その気持ちはよくわかる。

 それと、俺的にはまだ居たのか、という印象だ。

 光のレイさんの記憶から……どうにも、まだ何かありそう、起こりそうだと思った。


     ―――


 神殿を出てから、特にやることはないし、アブさんとロアさんがどこに居るかもわからないので、宿泊先で大人しく待っていようと思っていた――のだが。


「あっ、ル、ル、ルウさん! こ、こんにちは!」


 出て直ぐ、緊張した様子の護衛隊長さんが声をかけてきた。

 もちろん俺にではなく、ルウさんに。


「はい。こんにちは」


 ダグとは違い、多少なりとも友好性を感じる笑みを浮かべるルウさん。

 俺もここに居ますよ、と手を振ってみるが、護衛隊長さんの視線はルウさんに固定されていた。

 ガッチガチに緊張しているようだが、これがルウさんと会っている時だけなのか、それとも普段はもう少しまともで、今だけ緊張が高まっているのか、どっちだろう。

 後者なら、さすがに邪魔はしたくないので俺はこの場からそっと去るのだが……。


「いつもそんなにガチガチで疲れませんか? もう少し気を抜いた方がいいですよ」


「は、はい! い、いいえ! 自分はこれで正常でありまして……」


 どっちだよ!

 ……しかし、どうやら普段通りのようだが、それならそれで、やっぱり俺の存在はこの場で邪魔だろう。


「そうなのですか? まあ、大丈夫ならいいのですが」


「自分の身を案じてくれている……」


 護衛隊長さんは感極まっているようだが、ルウさんはキョトンとしている。

 う~む。両者の温度差が酷いな。

 護衛隊長さんの態度を特に気にすることなく、ルウさんは口を開く。


「それで、本日はどうかしました?」


「は、はい! い、いいえ! あっ、いえ、その、アルムくんは鍛錬に熱を入れているようでしたので、本日の鍛錬はどうするのかと確認に来たのです! つ、ついでに、鍛錬するのであれば付き添おうかと」


「まあ、優しいのですね」


「は、はい! い、いいえ! それほどでも」


 だから、どっちだよ!

 というか、漸く俺のことが話題に出たが、これは俺をだしにしてルウさんと話に来ているな。

 しかし、護衛隊長さんには鍛錬の際にお世話になっている。

 空気を読みますか。


「鍛錬はするが、一人でも大丈夫だ。俺のことは気にせずに」


 そう言って、早速鍛錬に――王都・ツリーフの外周ランニングへと向かう――が。


「………………」


「泣くほど後悔するのなら、俺に付いて来ずにあのまま話し続ければ良かったのに」


 両手で顔を覆って涙を流しながら共に走る護衛隊長さん。

 だから俺は一人でも大丈夫だと言ったのに。


     ―――


 適度に鍛錬して、一応元気出してくださいと軽く励ました護衛隊長さんと分かれて宿泊先に戻ると、ルウさんは戻っていると思っていたが、アブさんとロアさんも戻っていた。

 ただ、その姿は対照的で、アブさんはどこかツヤツヤとしていて、ロアさんは疲れ切っていた。


「どうした?」


「どうしたも何も、見えているのは私だけだし、話しかけられても反応する訳にはいかないし、話すとしても普通に話せば一人で話しているようにしか見えないし、何より何をするかわからないから常に気を張っておかないといけない……疲れた」


 それに尽きる、とロアさんががっくりとしている。

 俺は首を傾げた。


「いや、アブさんは言えばわかってくれるし、きちんと弁えているぞ」


 な? とアブさんを見れば、その通りと頷く。


「それに対してそれだけ気軽に接することができないのよ。寧ろ、気軽に接せられるあなたの方が異常だわ」


 失礼な! と思った。

 そうして、この日はこのまま休んだのだが……。


「アルム……アルム……」


 寝ているとアブさんに起こされた。

 窓から外を見れば……夜中のようだ。


「どうした? アブさん」


「お客だ」


「客?」


 アブさんが指し示すので、そちらの方に視線を向けると――緑髪の女性が室内に立っていた。


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