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賢者巡礼  作者: ナハァト
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射殺さんばかりはつらい

 森の国・フォレストガーデンの王都・ツリーフの中心にあるのは城ではなく世界樹。

 聞けば、王城はそもそもないらしく、エルフの王族もここに居るエルフたちとなんら変わらない生活を送っているそうだ。

 けれど、王族と一部のエルフには重要な役割がある。

 それは世界樹をあらゆることから守ること。

 その役割を担うエルフは「世界樹の護り手」と呼ばれていて、光のレイさんとロアさんの姉であるルウさんは、その一人。

 ――光のレイさんはその候補だった。

 その記憶が頭の中で過ぎったのは、世界樹の護り手の領域――世界樹周辺の柵の内部は「世界樹の聖域」と呼ばれる場所に、これから足を踏み入れるからだろう。


「こちらですよ」


 フフフ、と笑みを浮かべるルウさんの案内の下、まずは世界樹の聖域へ入るための通路がある唯一の建物へと向かう。

 そこは神殿のような造りの建物で、その入口は完全武装のエルフが守っている。


「……アブさん」


「うむ。わかっておる。少し時間を潰してこよう」


 アブさんが俺から離れていく。

 ルウさんの話によるとここが一番強力な結界らしく、森や王都に張られているのとは別種の結界であるため、まず間違いなくアブさんは引っかかるそうだ。

 なので、俺が世界樹の聖域に行っている間、アブさんは――。


「それじゃあ、よろしく。基本大人しいし、好奇心が強いけど見物だけだから、放っておいても大丈夫。行きたいところに付いていくだけでいいから」


「少しの間、よろしく頼む」


「………………納得いかない。でも、放置する訳にはいかないし」


 ロアさんが見てくれることになった。

 頭を抱えているが、頭痛でもしているのだろうか?

 体調が悪いなら放っておいても構わないが……。


「うむ。では、まずはあっちだ!」


「こら! ちょ! 待ちなさいよ! 勝手に動くなあ!」


 アブさんを追いかけるロアさんの足取りはしっかりしているので大丈夫だろう。

 ルウさんと共に神殿に入ると、中に居るエルフたちから厳しい目を向けられる。

 警戒されているようだ。


「ごめんなさいね。エルフ以外が世界樹に近付くことは滅多にないから、みんないつも以上に警戒が強いみたい」


 ルウさんが気遣うようにそう言ってくる。

 すると――。


「てめえ……ルウさまの紹介だからって調子に乗るなよ」


「ルウさまと一緒……羨ましい……死んでくれないかな」


「死……殺……滅……亡……」


 周囲のエルフからそんな声――呪詛が聞こえてくる。

 ルウさんには聞こえていないようだが、どうやらこれは滅多にないから警戒している訳ではなさそうだ。

 正直な話、普通にここに侵入して発覚したとしても、それ以上の殺気を浴びている気がする。

 ロアさんが護衛隊のアイドルなら、ルウさんは護り手のアイドルなのは間違いない。

 こういう時は周囲を気にせずさっさと通り抜けた方がいいと判断して、ルウさんに大丈夫と伝えて、血の涙を流しそうな嫉妬……あるいは殺意の視線を意識しないように別のことを考えながら進んでいく。

 ルウさんとロアさんは人気の姉妹のようだ。

 そうなると光のレイさんもそういう枠組みなのかと思うのだが……記憶の中でそのような出来事はなかった。

 そうして別のことを考えている間に神殿を抜ける。

 その先に広がる光景は圧巻だった。


「………………」


 言葉を失ってしまう。

 縦も横も、視界の中に収めきれないほどの巨大樹。

 柵の外からでは感じられなかった聖性……神聖……神々しさ……そのどれもが当て嵌まるようなモノを肌で直に感じられる。

 この場に流れる空気もどこか他と違って清浄さのようなモノが感じられ、ただこの場に居て見ているだけで何か大きなモノに包まれて、胸の内に温かみを抱く。


「どうですか? 世界樹を間近で見て?」


「言葉には……できないな。正確にどうとは言い表せられない」


「ええ、その気持ちはわかります。私も最初はそうでした」


 それ以降、俺が落ち着くまで、ルウさんは何も言わなかった。


     ―――


 実際にどれだけの時間が経ったのかはわからない。

 数秒……数分……数時間……までは経っていないと思う。

 落ち着きを取り戻すように息を吐く。


「ふう」


「もう大丈夫ですか?」


「ああ、大丈夫だ。これだけ大きいと見るだけで圧倒されてしまうな。なんでも受け入れてくれそうな器の大きさすら感じる」


「ええ、そうですね。ですが、いたずらは駄目ですよ」


「わかっている。そんなことはしない」


「なら結構です。もう少し近付けますが、どうしますか? 直接触ることはさすがに禁止ですが」


「いや、ここで充分だ」


 ここからでも充分に世界樹の様子は窺える。

 さすがに内部までどうこうはわからないが、パッと見た限りは大丈夫なように思えた。

 それでも、念のために聞いてみる。


「一応確認だが、何か異変のようなモノは?」


「異変? そのようなモノはありませんが? そう思う根拠があるのですか?」


 首を傾げるルウさんに、俺は首を横に振る。


「いや、これだけ大きいから、そういう部分もあるのかな? と思っただけだ。たとえば、上の方とかは確認するのも容易ではなさそうだし」


「なるほど。確かに目に届かない場所はあるかもしれません。ですが、目の届く範囲は毎日確認しておりますし、そのような前兆もありませんので大丈夫ですよ」


「そうか」


 それならそれで問題ない。

 光のレイさんにも、大丈夫だったと報告できる。

 それからもう少しだけ世界樹を眺めたあと、この場をあとに――。


(またあとで)


 しようとしたら、そんな声が聞こえた。


「ルウさん。今、何か言いました?」


「いえ、何も言っていませんが?」


 ……気のせいか。

 そう判断して、神殿内を戻っていると――。


「まさか、私がツリーフを離れている間に、エルフ以外を世界樹に近付けるといった暴挙を行っているとはな」


 嫌味たっぷりな声と共に、そいつが現れて立ち塞がった。


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