こういう場面の時、どう答えるのが正解だろうか
俺が――正確にはアブさんも一緒だが――寝泊まりする部屋は、宿屋の部屋とそう変わりはない。
普通の客室であり、普段まったく使用していないとわかるくらいに生活感のようなモノは感じられなかった。
けれど、埃とかは一切ないので、急遽と言っていたがきちんと準備されているように思う。
食事も用意していてくれた。
鹿肉とキノコを炒めて香草を添えたモノ。豊富な生野菜に酸味のあるソースをかけたモノ。甘味を感じる野菜と少しばかりの肉片が入っているスープ。あとパン。
そこらの宿屋とそう変わらないメニューだったが、味は全然違っていた。
普通に……いや、滅茶苦茶美味い。
「美味っ!」
思わず声に出てしまうほどに。
俺の反応を受けて、その腕前を披露したルウさんはニッコニコで、ロアさんはどこか自慢げだ。
いや、ロアさんは何も手を付けていないよな。
問題はどこにもないのだが、ルウさんには懸念が一つ。
「ごめんなさいね。何も用意できていなくて」
「うむ。某のことを気にする必要はない。そもそも、魔力があれば食事の必要はないし、この身だからな。食べても消化できない。それに、この場に流れる魔力は死を司る某であっても心地良さを感じるほどだ。さすがは世界樹のお膝元と言うべきだろう」
これで充分だ、とアブさんは頷く。
言葉通りなのか、随分と気を抜いているような雰囲気がある。
ロアさんもルウさんもアブさんの存在を知っているので、人の目を気にせず、姿を隠さなくてもいい状況も気を抜くのに関係しているのかもしれない。
まあ、何にしろ悪いことではない。
食事のあとは、俺とアブさんをここに連れてくることになった経緯を聞かれる。
「楽しみだわ。ロウが男性を連れてくるなんて初めてだし」
「はあ! ちょっ! ルウ姉! いきなり何を言い出すのよ!」
激高するロアさんが、そんな訳はないと俺をここに連れてきた理由を話し始める。
もちろん、俺だってそういう意味では決してないことくらいはわかっているが、連れてこられた理由は追及して欲しくない。
ただ、見ていないところで話されるのも、それはそれで困るのは事実。
ここは大人しく話に参加して、変に疑われないようにしよう。
なので、ロアさんの話に、ちょいちょい独自の補足と付け加えていく。
………………。
………………。
「まあ、彼に――アルムくんにレイの魔力が? 本当に?」
はい。無理でした。
「魔識眼」のことを持ち出されたら、どうしようもない。
ちなみにだが、「魔識眼」を持っているのはロアさんだけで、ルウさんの方は持っていない。
「本当よ。でも、その理由は話そうとしないから、ルウ姉にお願いしようと思って連れてきたのよ」
「なるほど」
そう納得したルウさんが、俺をジッと見てくる。
……なんというか、なんでも見透かしていそうな目に見えてきた。
せっかく姿を見せている訳だし、アブさんで視線をガードしたいが、空中に漂っているので手が届かない。
「……今は無理そうかな? でも、いずれ話してくれそうだと思うけど?」
そういう結論が出た。
「ルウ姉。私は今知りたいんだけど?」
「そうねえ。それなら、アブさんの方に聞いてみるのが早いかもしれないわね」
ルウさんの視線がアブさんに向けられる。
ついで、ロアさんの視線も。
アブさんは俺の状態を知っているので喋ろうと思えば喋れるが、もちろん話すような真似はしない。
特に今は、俺に何かあればラビンさんたちが出てくるかもしれないと容易に想像できる以上、その口はさらに堅くなっているに違いない。
しかし、相手はなんでも見透かしていそうなルウさん。
アブさんは、ニコッと笑ったような雰囲気を出したあと、スゥーッと姿を消してルウさんの視線から逃れた。
俺もそれをしたい。
というか、置いていかないで。
「逃げられてしまったわね」
「私は見えているけれど……喋る気はないってことね。無理に迫って怒られると手も付けられないし、ルウ姉はそのいずれを待つ方を選んだみたいだから………………はあ」
諦めるしかないか、とロアさんが項垂れる。
「……漸く、レイ姉の行方を掴める手掛かりを掴んだと思ったのに」
そんな呟きが聞こえる。
少し申し訳なく思うが、本当に今は言えないのだ。
エルフが長命である以上……俺にとっての敵となる者がまだ居るかもしれないのだから。
そのあとはさすがにというか、少しばかり話せる雰囲気ではなく、既に陽も落ちていたので、そのまま客室で休ませてもらった。
―――
森の国・フォレストガーデンの王都・ツリーフ。
光のレイさんの姉妹であるルウさんとロアさんの家で寝泊まりするようになって数日が経った。
まだここに居るのは、どうやら俺の目的を少しばかり叶えてくれるからだ。
つまり、世界樹をもっと間近で見せてもらえるようである。
というのも、世界樹の周囲は柵で囲われて一定距離から近付けないようになっていて、その柵の中に入るためには唯一の出入り口である、柵と繋がった建物の中を通らなければならない。
当然、そこは厳重警備であるため、エルフであっても容易に近付くこともできないし、出入りはもっとらしい。
どうやらそこを通してもらえるようだが、色々と手続きがあるので少し時間がかかるそうだ。
今は、それ待ち。
なので、待っている間は王都・ツリーフ内を観光しているのだが……思いのほか見るモノがないのが正直な感想だろうか。
元々人を招くような都市ではなく、目玉である世界樹は上を見れば見えるし、もう一つの目玉である魔石加工技術は秘匿されているので見れないのが当たり前で、あとは木工だが二、三度体験して満足した。
出来はまあ……他の人たちは微妙な表情を浮かべていたが、俺的には良い出来だったと思う。
それに、俺とアブさんだけの行動ではない。
連れてきたのは自分だから責任があると、家を出るとロアさんが常に行動を共にしてくる。
狙いは、まあ……俺が話すであろういずれを待っている、といったところだろうか。
ソワソワしているので間違いない。
それでも少しは交流を深めることができたと思うし、待っている間の時間の有効活用として、エルフの護衛隊の鍛錬に参加させてもらうことにした。




