意味がわからなくとも上手くいくモノはいく
いつの間にか寝てて投稿し忘れました。
なので、もう一話追加で投稿します。
俺の身体能力を上げるための運動を担当したのは、究極聖魔竜のカーくんである。
これも、最初は別の人が担当しようとしていた。
それは、火のヒストさん。
「俺に任せろ! これでも肉体がある頃は、魔法だけじゃなく身体能力にも自信があったからな! 何しろ、肉弾戦でもそこらの戦士には負けなかったからな! 俺が徹底的に鍛えてやるぜ!」
自信満々の火のヒストさんに対して、待ったをかけたのがカーくん。
「いや、ヒストはもう骨しかないではないか。それで筋肉のことを語るとはな」
「いやいや、カーくん。確かにそうだが、身体のことを、筋肉のことを俺と同じくらい知っているとなると……」
「馬鹿者! ここに、居るではないか!」
カーくんが自分を指差す。
ハッ! とする火のヒストさん。
「いいのか……任せて……」
「フッ。ああ、ここは我に任せておけ……いや、我の筋肉に任せておけ!」
カーくんが、むんっ! と両腕の筋肉を見せつけると、火のヒストさんがカーくんに背を向けて、去っていく。
「ここは任せたぜ、カーくん」
「おう」
火のヒストさんが軽く手を振り、カーくんが笑みを浮かべた。
……正直、俺には茶番にしか見えなかったが、きっと火のヒストさんとカーくんの中では大事なやり取りなのだろう。
だから、邪魔しなかった。
「よおし! では、アルムよ! 筋肉は継続だ! 継続しなければ直ぐにどこかに行ってしまう! 時には休ませることも必要だが、それも継続の中の流れの一つ! 休ませることも継続に繋がっているのだ! 筋肉を育む流れを知れば、筋肉は決してお前を裏切らない!」
……正直、言っている意味はさっぱりだった。
いや、少し離れた場所でチラチラ覗いている火のヒストさんは、その通りだと強く頷いている。
どこかに行ったはずでは?
「……えっと、任せて大丈夫なのか?」
今日のご飯は何がいいかを聞きにきたラビンさんに尋ねる。
「大丈夫だよ。なんだかんだ面倒見はいいしね」
ラビンさんがそう言うのなら、言っている意味がわからなくても大丈夫だろう。
実際、効果はあった……気がする。
少しずつだけど、体に力が宿っていくというか、取り戻していった。
ただ、こうなると、無のグラノさんたちが俺に対してやることはない――訳ではない。
無のグラノさんたちからは、体を鍛える傍らで魔法について、今はまだ使用できないので座学で学ぶ。
なんでも、知っているのとまったく知らないのとでは、受け継いだ際の負担が全然違うらしい。
という訳で、食事と運動で体を鍛えていき、座学で魔法を必死に学ぶ――という生活が、約一か月半続いた。
―――
予定では一月ほどで出られるかもしれなかったが、結局それは最短であり、予定でしかない。
その通りにならなかったのは、俺の身体能力が見た目以上に低かったということ。
あのままあの公爵家に居続けていた場合、少しずつ弱っていき、最後は常に衰弱状態になっていたかもしれなかったそうだ。
「ゆっくりじわじわと死に向かっていくなんて……怖い怖い。時間をかけては、気付きにくいから厄介だね」
ラビンさんがやれやれと頭を振ったのが印象的で、劣悪な環境に居たのだと再確認する出来事だった。
そうして、少しばかり予定より延びてしまったが、漸く無のグラノさんから許可が出る。
出会った頃と同じように、無のグラノさんたちと円卓を囲んで言われた。
「これで……」
「うむ。一人分なら大丈夫じゃろう。それで、どうするのじゃ?」
「どうする、とは?」
「ワシら七人はそれぞれが得意としている魔法の属性が違う。火。水。風。土。光。闇。無。どれを最初に受け継ぐのじゃ?」
「『全属性』だから、受け継ぐのは全部じゃないのか? 全員を受け継ぐまで出られないと思っているんだが?」
「全員を受け継ぐのは最終的には、じゃ。全員分だと時間がかかり過ぎての。ワシらも最初はそうしようと思っておったが、お主の身体状況を見て、居た国の様子を聞いた限り……もしもの場合を想定して、まずは一人だけ受け継がせて外に出した方がいいと判断したのじゃ。ラビンにも、お主がここと外を行き来できるようにしてもらうようお願いしている。体を鍛えることは外でもできるからの」
「どういうことだ?」
意味がわからない。
「わからんか? なら、お主の心に聞いてみるといい。ワシらは誰しもが得意としている属性を極めた魔法使い。その魔力と記憶があるのなら、一人分だけでも国を相手にしても充分に渡り合える」
「国を、相手に……」
「それでお主に問う。国を相手に戦えるだけの魔力と記憶を得たら、お主は何がしたい? お主の願いはなんじゃ? 心の中にある思いはなんじゃ?」
そんな力を持った俺がまずしたいこと……それは……。
「……力を得たら、復讐というか公爵家にやり返してやろうかと思ったけど、きっとそう思った根本にあるのは、そういう感情じゃない。……俺は母さんを助けたい。公爵家の環境から救い出したい。でも、ただそうするだけじゃ、きっと駄目だ。公爵家は体面だとか言って逃がそうとしないと思う。そうなると国が敵と言ってもいい。だから……国を敵に回して戦えるのなら、俺は母さんを救う」
無のグラノさんがニッコリと微笑んだ気がした。




