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賢者巡礼  作者: ナハァト
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知識と経験の具体的な違いってなんだろう

 以前訪れたウッドゲートで一番大きな交易所でロアさんと合流し、そのあとを付いていく。

 商人が集まっているということもあって、ウッドゲートは町として大きい方だろう。

 それでも、森側の方は完全に侵入禁止区域であり、特にウッドゲートから森に入るにはこの交易所の裏からでないと入れない。

 当然、交易所の内外の警戒も厳しく、人とエルフ、両方からチェックを受けて、漸く裏に出ることができる。

 裏は少し離れたところに森の中まで続く壁があって侵入できないようになっており、森が直ぐ傍にあった。

 その森の前に、多くのエルフが待機している。

 老齢に見える者は居らず、子供の姿は見かけるが、それでも美男美女ばかり。

 昔、エルフがその見目麗しい見た目で狙われていたというのがよくわかる。

 いや、それは今も、か。

 犯罪的な手段での奴隷は世界的に禁止されているし、無理矢理行う者はかなり減ったと聞いているが、それでもやる者はまだ残っているのだ。

 だからこそ、先ほど受けたチェックも必要なのである。


「みんな。私の一存だけど、彼を連れていくから。ルウ姉に会わせるために。挨拶は各自に任せるわ」


 ロアさんがそう言うと、助け出した女性のエルフと子供の男女のエルフが俺に声をかけてきて、それをきっかけとして、この場に居るエルフ全員と軽く挨拶を交わす。

 軽くなのは、出発の時間を遅らせたくないからだ。

 準備は既にできているようなので、挨拶が終わると出発する。

 非武装のエルフたちを武装したエルフたちが周囲で守りながら進んでいくようだ。

 周囲を警戒しているということは……。


「魔物が出るのか?」


 最後尾で付いていく形の俺は、間違いなく見張るために付き添うであろうロアさんに尋ねる。


「ええ、偶にね。でも、安心していいわよ。私たちで充分対処できるから」


「そうか。それは助かる」


 本当に助かる。

 何しろ、冒険者の国・トゥーラ・王都のダンジョンの森と同じく、ここで火属性魔法は使えない。

 寧ろ、ダンジョンの時よりも使ってはいけない。

 間違いなく戦犯レベルのことが起こる。

 光属性だけでも充分通用するだろうが、大丈夫なら道程は任せてもいいだろう。

 もちろん俺も警戒はするが、森の景色を楽しむことにより意識を割いてもいいかもしれない。

 エルフの集団に続いて森の中に入る――と、ロアさんが視線を向けてくる。

 俺――ではない。

 アブさんを見ていた。


「……入れた、か」


 その呟きに、俺とアブさんは揃って首を傾げる。


「この森は世界樹の結界が全体に張られていて、世界樹が邪悪だと判断した者は森自体に入れないようになっているのよ」


 そうなのか? とアブさんを見ると、考えるように顎に手を当てて、結界……あったか? と首を傾げる。

 駄目だ。気付いていなかったようだ。

 すると、焦ったように俺に近付き、ロアさんに聞こえないように小声で話しかけてくる。


「いやいや、本当に気付かなかったのだ。本当にあるのか? その結界というのが。某としては到底信じられないのだが」


「信じられないと言われても、俺だってわからない。でも、ここはエルフの領域だし、そのエルフがあると言っているんだから、あるんじゃないのか? 自分にわからないからといって、相手を否定するのは違うぞ」


「そうだな。確かにその通りだ。某は種族の壁を超えた超越した存在であり、ダンジョンマスターでもあるという――ある意味万能といってもいい。しかし、完全ではない。いや、完全なモノなどない。それに、最強でもない。それは……本当に……よく……わかっている」


 カタカタと震え出すアブさん。

 きっと、ラビンさんを思い出しているのだろう。

 でも、気持ちはわかるというか、俺の中でも最強はラビンさん、もしくはカーくんだ。


「だから、某でも感知できないモノがあったとしても……不思議ではない」


 だから、結界があってもおかしくないと結論付ける。

 俺とアブさんがそう納得していると、ロアさんが眉間に皺を寄せて口を開く。


「仲間と救うために協力してくれた時から思っていたが、まさか本当に喋れるのか、それは?」


 アブさんと目を合わせる。

 どうする? 任せる。と。


「まあ、某が見えているのだし、喋れることも隠さなくてもいいだろう」


 アブさんがロアさんに聞こえるようにそう言うと、ロアさんは驚いたように目を見開く。


「いや、何故驚く。喋れるとわかっていたんだろ?」


「理解はしていても、実際に耳で聞くのとは違うわ」


 知識で知るのと経験で知るのとでは違う、ということかな。

 まあ、喋れるとわかってくれたのなら、改めて聞こう。


「「それで、本当に結界はあったのか?」」


 俺とアブさんの声が重なった。

 狙った訳ではないので、俺とアブさんは驚くように互いを見て……そのまま揃ってロアさんを見る。


「はいはい。仲の良さは伝わったわよ。それと、結界は本当にあるわ。といっても、私の『魔識眼ましきがん』でも知覚できないモノで、実際は姉からそう聞いているだけだけど」


 それでも、ロアさんはあると確信しているようだ。

 姉と言えば……光のレイさんの記憶の中にも、光のレイさんがその姉から同じようなことを言われている記憶がある。

 その光のレイさんの記憶でも世界樹のことは詳しくわからないし、そういうのがあっても不思議ではない。

 ただ、確認しておきたいことがある。


「害はないんだな?」


「森に入れたのなら問題ないわ。世界樹から拒絶されなかったということだから」


「だそうだ」


 まあ、これはエルフだけではなくこの森を守るために必要なことなのだろうし、問題ないのなら、と俺とアブさんは納得した。

 そして、エルフの集団のあとを付いていき、森の中を進んでいく。

 森の中って……本当に迷いそうだ。

 一つとして同じ部分はないが、それでもどこもかしこも似たような部分で、もしかして既に通ったところでは? と思ってしまう。

 エルフの集団と離されないように付いていき、幸いにして魔物が出ることはなく、森の国・フォレストガーデンの王都・ツリーフに辿り着いた。


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