表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
賢者巡礼  作者: ナハァト
137/614

下手にうろつくと不審者と思われるから仕方ない

 向こうには向こうの――ロアさんには何かしらの思惑があるようだが、それでも森の国・フォレストガーデンに行けることになったのは喜ぶべきことだろう。

 面倒もありそうだが、まずは第一段階クリア、といったところか。

 ただ、直ぐ行ける訳ではない。

 聞けば、ロアさんがここに来たのは交易のために来ているエルフたちの護衛として来ているそうだ。

 確かに、いきなり襲いかかってくるなど、戦闘には自信があると思われる。

 普段は森の国・フォレストガーデンの王都・ツリーフに姉と二人で暮らしているそうで、交易が終わらなければ戻れないのである。

 その戻る時に俺も加えて、といった感じだ。


「まだ数日はかかるから、好きに過ごしていいわよ。本当は近くで監視しておきたいけれど、私も護衛としての仕事があるし、特にそれは私以外の者に任せる訳にはいかないしね」


 ロアさんがそれと指し示すのは、アブさん。

 突然の名指しはアブさんが慌てるからやめて欲しい。

 周囲に即死が振り撒かれるぞ。

 そんな責任は負いたくないので、やめろと注意しておく。

 ただ、こちらとしては別に何もしないが、四六時中監視されるというのも嫌なので、自由にさせてくれるのは助かる。


「わかった。それはいいが、連絡はどう取ったらいい?」


「ここに来れば取り次げるようにしておくわ。それじゃ、私は護衛があるから」


「待て」


 出て行こうとするロアさんを引き留める。

 大事なことなので、俺は真剣さを全開にして尋ねる。


「……何?」


「……出口、どこだ。寧ろ、連れて行ってくれ」


 迂闊に出歩くと迷うかもしれないし、迂闊に部屋に入れば侵入者扱いされるかもしれない。

 安心安全にここを出るためには、誰かの協力が必要だ。


「はあ……そんな真剣に言うこと? いいわ。出口まで連れていくから付いてきなさい」


「ありがとう!」


 迂闊なことを口走らないために気は張っているが、感謝の心は忘れない。

 どこか呆れた様子のロアさんに先導されて、交易所を出る。


     ―――


 交易所を出て直ぐ、アブさんと話すために人気のない路地に入る。


「それで、アブさん。数日空くけどどうする?」


「ふむ……できれば、ここを観光したいな」


 まあ、悪くないと思う。

 実際、ウッドゲートに来て直ぐ交易所巡りで他を見る余裕はなかったし、そこからロアさんに襲われて詰め所に捕らえられ、あとは誘拐犯たちの家に行っただけである。

 観光は悪くない。

 それに、冒険者の国・トゥーラの王都でもそうだったが、アブさんは観光好きのようだ。

 これまでボス部屋にしか居なかった反動かもしれない。

 目に見えるすべてが新鮮で楽しいのだろう。

 俺も特にすることはないので、アブさんの観光に付き合うことにした。

 アブさんだけだと物も買えないし、付き添いは必要である。

 今回の時といい、アブさんには助けられることも多い。

 買い物代くらいは俺が持とう。

 限界はあるけど。

 という訳で、アブさんと共にウッドゲートを観光する。

 基本はアブさんの行きたいところに行く感じだろうか。

 半透明で俺の頭上を陣取り、行きたい方向、行きたい店を指し示す。

 屋台などの飲食店は……これといって他のところと違いはないが、野菜類が特に美味い気がする。

 直ぐそこが森だからだろうか?

 キノコとか木の実も種類が豊富にあって、なんかこれまで食してきたモノとは違う。

 特にキノコたっぷりのパスタや、木の実のソースは美味かった。

 商店に置かれている土産物も見てみる。

 交易のために多くの商人が集まっているのか、商店も数多くあった。

 そこで加工された魔石も販売しているのだが、興味がない、必要はないので一目だけ見ただけで俺は満足する。

 魔石に刻印のような魔法陣が描かれているのが加工されているということなのだが、アブさんは面白そうに見ていて、なるほどなるほどと頷く。

 こそっと聞いてみた。


「もしかしてだが、できるのか?」


「できるできないで問われれば、できるな。しかし、専門の道具が必要なため、今直ぐはできん」


 魔石加工技術はエルフの秘匿技術であり、独占している技術でもある。

 それがあるから、エルフは他種族と対等に渡り合えるのだ。

 それができるとは……アブさんは万能だが、バレないようにしないと怖い。

 最悪、エルフ種族の怒りを買って消される可能性もある。

 秘匿技術とは、そういうことも起こり得るのだ。

 種族全体の生命線ともなれば、尚更だろう。

 いざとなったら、ラビンさんのダンジョンに籠ろうと本気で考えた。

 他に土産物として多いのは、木製の工芸品だろうか。

 一応、エルフの手作りと銘打っているが……実際どうなんだろう?

 魔石加工技術があるのに、そこまでやる必要は……小遣い稼ぎとか?

 しかし、実際はエルフではない人が製作している可能性は捨てきれない――のだが。


「………………」


 何が琴線に触れたのかわからないが、アブさんが中央に巨大な樹が描かれた皿を欲しがった。

 同じ人が製作したのか、巨大な樹が描かれている小物類も欲しがる。

 ………………まあ、結局のところ、本人が欲しがって満足するのなら、どこ製だろうと気にすることではない。

 アブさんが使うかどうかはわからないが、そこまで高くなかったので買った。

 そうして観光していると陽が落ち――。


「しまった!」


 宿を取るのを忘れていた。

 交易所を出て直ぐ、向かうべきはそこだろ、と思う。

 今更いい宿は取れないだろうし………………。


「という訳で、今日もお世話になって構わないか?」


「いや、宿屋ではないんだが……まあ、攫われたエルフたちの救出では助けてもらったし、別に捕らえているのも居ないから構わないが……食事は出ないぞ」


「じゃあ、持ち込みは?」


「それは構わない。ただ、そっちで処分してくれよ」


 大丈夫そうなので、近場にあった屋台で色々買い……ついでに兵士さんたちの分も少し買って手渡し、牢屋に泊まった。

 翌日はまず宿を取ることから始めてからウッドゲートを観光し――数日後。森の国・フォレストガーデンに向けて出発する時がくる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ